特発性肺線維症(IPF)は、肺の間質という部分に炎症が起きて肺が線維化していく病気です。高齢者・男性・喫煙者の方に多い病気で、初めは乾いた咳やちょっとした日常動作での息切れが自覚症状として現れます。

進行すると「常に溺れているよう」と形容されるほど、苦しい症状が伴う病気であり、病気の進行を少しでも遅らせるためにも、早期発見・治療が重要になります。本稿では、特発性肺線維症(IPF)と診断されるまでの検査の流れ治療方法を『特発性間質性肺炎の診療・治療ガイドライン(PDF)』に沿って解説していきます。

目次

病院で行われる検査・診断の流れ

明らかな原因がある場合を除外

特発性肺線維症(IPF)は、特発性間質性肺炎(IIPs)と呼ばれる明らかな原因のない間質性肺炎のグループに分類されています。そのためまずは、感染症やじん肺、薬剤、サルコイドーシス、膠原病、慢性過敏性肺炎など明らかな原因が除外される必要があります。

通常、や息苦しさなどの症状をきっかけに病院を受診すると、問診や胸部X線、血液検査、呼吸機能検査などの検査が行われ、症状の原因を探ります。そして、呼吸機能検査で、拘束性換気障害などの呼吸機能の異常が確認されるものの、原因が不明の場合に初めて、特発性肺線維症(IPF)の可能性が疑われます。

※拘束性換気障害

肺の硬化、容量減少、呼吸筋の低下などによって肺活量が低下し、酸素と二酸化炭素の交換が妨げられている状態のこと。特発性肺線維症では、肺の間質細胞が線維化することにより硬くなるため、空気を吸い込もうとしても肺が膨らまなくなってしまう。

典型的なIPFの特徴があれば、すぐに確定診断

明らかな原因がある場合が除外されたあとは、特発性間質性肺炎(IIPs)のグループに含まれるいくつかの病気との鑑別を行います。このとき、特発性肺線維症(IPF)の典型例とみられる症状・検査所見がみられた場合には、すぐに確定診断がされます。

典型例にあてはまる条件として、

  • 画像検査で「蜂巣肺(ほうそうはい)」が確認されること
  • 特徴的な臨床症状がみられること

の2点が揃う必要があります。

1.画像検査でみられる「蜂巣肺(ほうそうはい)」とは

特発性間質性肺炎(IIPs)のグループの中でも、肺の線維化の進行の様子がそれぞれの病気によって異なります。特発性肺線維症(IPF)では特に、線維化が不均一(まばら)に進行する傾向があります。

線維化が不均一に進行すると、一部の肺胞は硬くなりますが、一部柔らかいままの肺胞があると、その部分がふくらんで嚢胞(のうほう)とよばれる袋状になります。「蜂巣肺(ほうそうはい)」は、この嚢胞が並んでいると蜂の巣のように見えた状態で、特発性肺線維症(IPF)の特徴的な症状です。

2.捻髪(ねんぱつ)音など、IPFの特徴的な臨床症状とは

画像検査で「蜂巣肺」が確認されることに加え、次の4つの臨床所見を満たす必要があります。

  • 年齢が50歳以上であること
  • 労作時呼吸困難がゆっくりと進行していること
  • 症状が出てから3か月以上経過していること
  • 両側の肺の底当たりに、捻髪音(ねんぱつおん)が聞こえること

「捻髪音」とは、肺を聴診したときに聞こえる異常音で、高温で細かい断続音です。マジックテープを剥がすときのような、パチパチとした音が聞こえます。聴診により聞くことができるもののため、患者さんが気づける症状ではありませんが、IPF患者さんのほとんどで見られる症状のため、診断の際には特に重視される症状です。

診断が難しい場合には?

明らかな原因がなく、なおかつ典型的な特発性肺線維症(IPF)の症例とはいえない場合には、さらに検査をすることで他の病気との鑑別を行います。具体的には、気管支鏡検査や外科的生検と呼ばれる方法により、肺の組織の一部を採取して病理診断(からだの組織を顕微鏡で観察して、病変の有無や程度を調べる)を行う方法です。ただし、これらの検査は急性増悪をまねく危険性もあるため、慎重に行われます。

「急性増悪」に注意を

先の段落で、「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」という言葉がでてきました。これは、なんらかのきっかけにより病状が急激に悪化することを指します。急性増悪が起きると予後不良となるケースが多く、初めての急性増悪での死亡率が約80%という報告もあります(特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン(PDF)より)。

急性増悪きっかけは、風邪やインフルエンザなどの上気道感染による場合が多く、感染が流行するシーズンは特に、手洗い・うがいなどによる予防を行うことが重要です。

治療方法

若葉

治療は、日常生活の管理薬物による治療が基本です。

薬物による治療

特発性肺線維症(IPF)は、肺に起きる慢性的な炎症が線維化を引き起こしていると考えられてきたため、古くからステロイドが使用されてきました。しかし、ステロイドにあまり良い反応を示さないケース、重たい副作用が出るケースもあるため、免疫抑制薬が処方されることもありました。

以前のガイドラインでは、ステロイドと免疫抑制薬の併用療法が暫定的に推奨されましたが、その後の研究結果から、2017年の最新のガイドラインにて、“慢性期の患者にステロイド単独療法は行わないことを強く推奨する”“慢性期の患者にステロイドと免疫抑制薬の併用療法を行わないことを強く推奨する”と変更されました。

治療の主眼が、ステロイドを中心とした抗炎症から抗線維化へシフトし、2014年、新規治療薬の大規模臨床試験の結果が報告され、抗線維化薬であるピルフェニドンの有効性、更には、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体の拮抗薬(低分子チロシンキナーゼ阻害薬)であるニンテダニブの有効性が示されました。2017年の最新のガイドラインには、“慢性期の患者にピルフェニドンを投与することを提案する” “慢性期の患者にニンテダニブを投与することを提案する”と記載されています。

日常生活の管理

現在のところ、劇的に予後を改善する薬はなく、薬の投与により重たい副作用が心配される患者さんの場合などには、あえて治療を行わない選択をすることも珍しくはありません。

日常生活においては、

  • 禁煙
  • 規則正しい生活習慣
  • 定期的な通院
  • 風邪、インフルエンザなどの感染症予防

に注意します。

特発性肺線維症(IPF)の患者さんの多くが喫煙者であることから、また肺への負担を減らすためにも禁煙は必須です。受動喫煙などにも注意し、できるだけ室内の空気は清潔な状態に保つことが望ましいとされています。

感染症予防は、急性増悪のリスクを避けるためにも徹底しましょう。規則正しい生活習慣は、基礎的な体力を保つことで間接的に感染症予防へと繋がります。

また、特発性肺線維症(IPF)に多い合併症のひとつに肺がんがあります。病気やからだの状態を把握し、薬やその他の治療法の反応を確かめるために、定期的な通院は欠かせません。

その他の治療法

上記以外の治療としては、息苦しさの症状を軽減する目的で、在宅酸素療法呼吸リハビリテーションが行われます。なお、リハビリテーションは、呼吸を助けるための運動リハビリテーションの他に、心理的サポートも組み合わせることでQOL(生活の質)の改善を目指します。

まとめ

特発性肺線維症(IPF)は、日本では1970年代に研究班が発足されて以来研究が重ねられている病気です。予後不良の病気であり、現在もなお特効薬はありませんが、患者さんのために日夜、薬の開発や治療のための努力が積極的に行われています。今後の新しい展開に期待が持たれます。