「在宅酸素療法(HOT)」を知っていますか?慢性呼吸不全などによって体内に酸素をうまく取り込むことができなくなった場合、機器によって外部から酸素を送り込む必要があります。在宅酸素療法は病院ではなく、自宅などで酸素を取り込む治療法のことです。

今回は目的や必要となる病気、使い方、注意点などについて紹介していきます。

目次

呼吸と呼吸不全のメカニズム

人は呼吸することで酸素を体に取り込み、二酸化炭素を吐き出しています。呼吸は肺の担当で、肺の中にある肺胞が血液中の酸素と二酸化炭素の交換を行っています(ガス交換)。

肺が慢性閉塞性肺疾患(COPD)など様々な病気によって組織を破壊されてしまうと、ガス交換がうまくできず、体内に酸素が行き届かなくなってしまいます。息切れなどが起きるこの状態を呼吸不全といい、1カ月以上続くと慢性呼吸不全と呼ばれます。

その結果低酸素血症を発症し、呼吸器の症状だけでなく意識消失、不整脈といった形で体全体に障害が起きていきます。

在宅酸素療法の目的

在宅酸素療法はボンベや濃縮器を通じて酸素を患者さんに届け、呼吸不全を解消していきます。酸素の補充は医療行為にあたるため、以前は入院して治療を受けていました。しかし機器の発展・発達を受け、医師の許可があれば自宅や外出先で酸素を取り入れることが可能になりました。

在宅での治療は患者さんのQOL(生活の質)を高めていくことを目的としています。入院する必要がなくなり、通院も極力抑えられることで仕事の継続や家族との団らん、外出を楽しむことができています。

在宅酸素療法を用いる病気は?

せきこむ男性-写真

日本呼吸器学会が発行する在宅呼吸ケア白書2010によると、在宅酸素療法を用いるのは80%以上が肺の疾患です。その中でもCOPDは約45%を占めており、肺結核の後遺症(12%)、肺がん(6%)と続きます。そのほか肺繊維症、間質性肺炎、慢性心不全などがあります。

COPDを発症する大きな原因は喫煙です。タバコの煙によって気管支が炎症を起こして空気の流れが悪くなり、また肺胞を破壊していきます。40歳以上で約530万人(全体の8.6%)もの患者さんがいるとされています(日本呼吸器学会より)。

どうやって酸素を補充するの?

酸素を供給する方法として、酸素ボンベと酸素濃縮器の2つがあります。両方とも病院からレンタルできます。

酸素ボンベ

主に外出時にカートやバッグに入れて使います。鼻に装着したチューブを通して直接酸素を体内に入れていきます。息を吸うときだけ供給できる呼吸同調器を併せて使うと効率的です。電気で動くタイプや、電気を使わず液体を気化させて取り込むタイプがあります。

酸素濃縮器

空気中から窒素を取り除き、酸素を高い濃度(約90%)にします(日本呼吸器学会より)。在宅酸素療法を受ける患者さんの約95%が使っています(日本医療機器テクノロジー協会より)。

注意したい点は?

酸素を吸う量や時間は医師が決めるため、患者さんが勝手に量を変えてはいけません。また1カ月に1度診察を受ける必要があります。

酸素は燃えやすくするガスです。タバコなどのタバコやストーブ、コンロなど火気の近くには置かない(約2メートル)ようにしてください。治療中の患者さんがタバコを吸っていてチューブに火が引火してしまうケースが実際に起こっています。

また交通機関によってボンベを持ち込む量が制限されていたり、禁煙車・席を使用するよう求められることがあります。飛行機では診断書が必要であったり、アメリカ発着便には持ち込むことができなかったりする場合があります。旅行時は念のため利用する交通機関各社に確認しておきましょう。

まとめ

在宅酸素療法によって患者さんは自分の過ごしやすい環境で治療を受けられます。経済的負担は増えますが、医療保険が適応されるためその負担も軽減できます。在宅で治療を希望する人は医師に相談してみてもいいでしょう。