「特発性肺線維症(IPF)」という病名を知っていますか?国の難病に指定されている進行性の肺疾患で、平均生存期間は2.5~5年(特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドラインより)といわれ、多くのがんよりも予後が悪いとされる病気です。

では、特発性肺線維症(IFP)とは具体的にどのような病気なのでしょうか。この記事では、この特発性肺線維症(IPF)によりからだに起きる変化、特徴となる症状を中心に解説していきたいと思います。

目次

特発性肺繊維症(IPF)で肺に起こる変化

肺の「間質」に起きる異常、通常型肺炎との違いとは

特発性肺線維症では、肺の間質という部分に異常が起きます。

呼吸機能を担う「肺」には肺胞という組織があり、血液を通して酸素・二酸化炭素の交換を行っています。肺胞のように、ある器官の機能に直接関与している部分を実質と呼びます。これに対し、実質を支えている実質を除いた部分は間質と呼ばれています。

肺線維症は、間質性肺炎と呼ばれる肺炎に分類されていますが、肺という器官のうち実質である肺胞以外の部分(間質)に炎症が起こる病気が、間質性肺炎です。肺の実質細胞である肺胞部分に炎症が起こる通常型肺炎とは異なります。

異常に生成されるコラーゲンによる「線維化」

私たちの体の細胞は、表面に傷がつくと線維芽細胞と呼ばれる傷の修復をする細胞が集まり、コラーゲンを生成します。例えば、転んで膝小僧を擦りむいたときなどにも、同じようにして皮膚が再生されていきます。特発性肺線維症(IPF)では、肺組織への何らかの刺激が長い間にわたって継続することで、傷ついた組織を修復するためのコラーゲンが異常に生成されてしまうと考えられています。

コラーゲンは繊維質の細長い構造をもつたんぱく質です。傷の修復に使われるほか、肌のきめを整えたり、骨の中で強度を高める骨組みの役割を果たしたりしています。コラーゲンの異常増殖により肺の間質細胞が線維化すると、肺の間質細胞は固く分厚くなり、間質に囲まれた肺胞は柔軟性を失ってしまいます。こうして肺が膨らみにくくなると、息苦しさなどの症状につながります。

3つの特徴的な症状

初期症状はほとんどありませんが、症状は病気の進行とともに少しずつ症状が出るようになります。代表的な症状としては、乾性咳嗽(かんせいがいそう)と労作時呼吸困難があります。一部の患者さんにはばち指と呼ばれる症状が出ることもあります。

乾性咳嗽(かんせいがいそう)

「コン、コン」というのからまない乾いたが出ます。IPFの患者さんのうち50~90%前後(特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドラインより)にみられます。

労作時呼吸困難

階段の上り下りなどの日常生活のちょっとした動きで息切れがするようになります。症状のある患者さんに高頻度でみられ、病気の進行とともに徐々に悪化していきます。悪化した場合、「常に溺れているような状態」と形容されるほど、苦しい症状であるといわれています。

ばち指

太鼓のばちのように、指先が盛り上がり爪が丸くなった状態になります。患者さんの25~50%にみられる症状です(特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドラインより)。ばち指は、症状が発生するメカニズムは不明ですが、肺疾患の患者さんに比較的よくみられる症状のひとつです。

なぜ発症するのか、未だ明確な原因は不明

ところで、特発性肺線維症(IPF)は、特発性間質性肺炎(IIPsと呼ばれるグループに分類されています。

「特発性(とくはつせい)」とは、特に明らかな原因がなく発生するという意味です。つまり特発性間質性肺炎とは、肺のうち肺胞以外の部分である間質に原因不明の炎症が起こる病気を意味します。間質性肺炎は、サルコイドーシス、膠原病、慢性過敏性肺炎、感染症といった原因により発症することがありますが、こうした明らかな原因がある間質性肺炎から除外されたものが、特発性間質性肺炎と呼ばれているのです。

特発性間質性肺炎(IIPs)の中には、いくつかの病気が分類されていますが、中でも特発性肺線維症(IPF)非特異性間質性肺炎(NSIP)特発性器質化肺炎(COP)の3つは比較的頻度が高く、医療上特に重視されています。

どんな人に起こりやすい?発症の傾向

たばこ

2003~2007年に行われた調査では、発症率は10万人に2.23人、有病率は10万人に10.0人と報告されており難病情報センターより)、日本全国では1万3,000人以上の患者さんがいると考えられています。発症の傾向として、患者さんは次の3つのいずれかに当てはまる方が多いといわれています。

  • 男性
  • 高齢者
  • 喫煙者

発症率・有病率ともに男性の方が高い傾向にあります。また、別の調査によれば、35~44歳での罹患率が10万人に2.7人という数値に対し、75歳以上では10万人に175であったことから、高齢で発症する病気であるといえます。さらに、特発性肺線維症の患者さんでは喫煙者が多く、喫煙は特発性肺線維症の「危険因子」であると考えられています。

どんな経過を辿るのか、病気の予後について

現在は根本的な治療ができない病気です。呼吸不全、急性増悪風邪インフルエンザをきっかけに、急激に症状が悪化すること)、肺がんの合併により亡くなられる方が多く、自覚症状があらわれてからの生存期間は3~5年、といわれています(シオノギ製薬より)。5年生存率は20~40%と非常に悪く、この数字は大腸がんや白血病などのがんと比べても低い数値です。

まとめ

男性、高齢者、喫煙者に多い疾患である特発性肺線維症(IPF)は、肺の線維化がすすむことで息苦しさなどの症状がでるようになります。いくつかのがんと比べても予後が悪く、完治のための治療法はなく進行性の病気ですが、現在は少しずつ治療薬の開発が進んでいる状況です。