海のレジャーとして知られるスキューバダイビング。普段とは異なる景色や感覚を楽しめるものですが、水中から上がるときに起こる「減圧症」には注意が必要です。予防や対策を立てないと体に大きなダメージを与えることがあります。今回は減圧症について詳しく説明していくので、ダイビングを楽しみたい人は確認しておきましょう。

目次

減圧症とは

水中では水の重さによって体に圧力(水圧)がかかります。水中に潜る深さが長いほど水圧は高くなります。

高圧下で作業、活動してから平常に圧力がかかる場所へ戻るとき、体内に溶け込んでいた窒素が泡になります(気泡化)
気泡化した窒素が神経や血管を圧迫して起こる障害を減圧症と言います。

気泡が動脈を塞いで血流が悪くなって起こる障害を動脈ガス塞栓症と言いますが、減圧症と動脈ガス塞栓症は区別がつきにくいです。

そのため両者を合わせて減圧障害と呼んでいます。

ダイビングで減圧症が起こるメカニズム

ダイビングで使うボンベの中身は、地上の空気と同じ構成です。

空気の約80%は窒素で(航空医学研究センターより)、ボンベの空気を吸って体内に窒素が溶け込みます。
水中から海面へ浮上したときに溶け込んだ窒素が気泡化し、身体の中に溜まると体に減圧症がみられる場合があります。

溶け込む量は潜水したときの深度と時間に比例します。

潜水深度20~30メートル、1回につき30~40分程度のレジャーで楽しむダイビングでも、浮上速度体調などを考慮して十分に注意しなければ減圧症を発症することがあります。
ちなみに水中からゆっくりと時間をかけて浮上すると、窒素が気泡化する可能性は低くなります。

減圧症の症状

減圧症は症状によってⅠ型減圧症とⅡ型減圧症とに分けられます。

Ⅰ型減圧症

気泡化した窒素が皮膚や関節、筋肉などに溜まった場合に、皮膚のかゆみや痛み、発疹(吹き出物)、関節痛、筋肉痛がみられます。

Ⅱ型減圧症

Ⅰ型より重症で、内耳や脊髄、脳、肺などに障害がみられます。

具体的にはめまいや難聴、胸痛、呼吸困難、息切れ、しびれ、感覚鈍麻・過敏などの感覚障害、手足に力が入りにくい、動かしづらいなどの運動障害が起きます。

気泡が肺動脈に詰まって肺破裂が起こると死亡することもあります。
また膀胱直腸障害(尿や便が出にくくなる)などの自律神経症状がみられます。

手足の違和感など初めは軽い症状でも、時間が経つと徐々に重症となって後遺症が出ることもあります。

減圧症の治療

減圧症の治療に高気圧酸素治療があります。高気圧酸素治療は、高気圧に保たれた治療装置の中に入って100%酸素を吸います。
すると身体の中に溜まっている窒素を体の外へと排出し、酸素が不足している部分に供給されて組織の損傷を回復させる治療です。

副作用が出ないよう決められた治療スケジュールに従って治療を受けます。
高気圧酸素治療が受けられるのは装置がある専門の医療機関のみです。

すぐに治療を開始できないときは応急処置として100%酸素の吸入、速やかな水分補給点滴での補液安静血流を改善する薬の服用などが推奨されています。

減圧症の発症から時間が経つと高気圧酸素治療の効果が出にくいとされます。
減圧症が疑われる症状がみられたらできる範囲で応急処置を取って医療機関で相談しましょう。

減圧症の予防・対策法

潜水時間を確認するダイバー-写真

減圧症の予防・対策法をダイビング前とダイビング後に分けて説明します。

ダイビング前の予防策

ダイビングで減圧症にならないためには、ダイビング前にまず体調を万全に整えましょう。
十分な睡眠を取ってこまめに水分補給を行います。アルコール摂取喫煙控えるようにしましょう。

日ごろからある程度の運動を行っている人は減圧症にかかりにくいといわれています。
日常的に運動習慣を持っておくようにしましょう。

中高年以上や肥満、減圧症にかかったことがある場合は減圧症にかかりやすくなる可能性があります。

時間やレベル的に余裕のあるダイビング計画を立て、体調不良や治りきっていない怪我がある場合は、中止する判断も必要です。

心臓中央の壁に開く孔が閉じない障害(卵円孔開存)を持っている人も、減圧症になるリスクが高くなります。

ダイビング後の予防策

ダイビング後は、水分補給を十分に行い、身体が冷えないように気をつけましょう。
水分は身体に吸収されやすい経口補液などがおすすめです。利尿作用のあるカフェインを含むウーロン茶やコーヒーなどは避けましょう。

ダイビング後しばらくは激しい運動喫煙熱い湯に浸かることや浴びること、標高の高い場所への移動、飛行機に乗ることは控えるようにしましょう。

まとめ

減圧症の症状を感じても放置しているダイバーは少なくありません。
また減圧症予防に役立つダイブコンピューターは普及していますが、減圧症について正しい知識減圧症の怖さを知らないまま頼りきってしまうと、減圧症を発症するリスクが高くなります。

ダイビングを行う際には事前に十分に知識と予防法なったときの対応を熟知した上で、ダイビングを楽しむようにしましょう。少しでも違和感があればすぐに専門の医療機関に相談することが大切です。