肺高血圧症、という病気があります。
一般的に生活習慣病としてある高血圧症とは違い、稀な病気ではありますが、心臓への負担が大きく、命に関わることのある病気です。
これまでは、予後が大変悪い病気でしたが、研究が進められており効果の期待できる薬剤も出てきています。
早期発見、早期治療がカギとなります。
肺高血圧症ってなに?
「肺高血圧症」とは、心臓から肺へ向かう動脈(肺動脈)の血圧が高くなった状態をいい、一般的にいわれている「高血圧」とは異なります。
肺動脈の血圧が上がる原因としては、左心室の異常、血栓や塞栓、全身性疾患などがあります。
一方で、原因不明の場合や、複数の原因が重なって起こることもあります。
肺高血圧症が起こると心臓への負担が大きくなるため、治療を受けないまま放置した場合の余命は2年半ともいわれています(メルクマニュアルより)。
肺高血圧症のメカニズム
血液の巡り方:肺と心臓、血液の動き
肺動脈は心臓から肺に血液を送る通り道です。血液は次の1から4の流れを繰り返して、全身を巡っています。
- 心臓から全身に血液を送る(左心室を通って全身へ)
- 全身から血液が心臓に戻ってくる(全身から右心房へ)
- 心臓から肺に血液が送られ、血液中の酸素が交換される。(右心室を通って肺へ)
- きれいになった血液を肺から心臓に送る(肺から左心房へ)
後ろで説明される「肺動脈性高血圧症(PHA)」では、上の「3」のときに血液が通る道(肺小動脈)が狭くなることで肺高血圧症を引き起こします。
肺小動脈以外にも、左心室や肺の疾患が原因となる場合があります。
いずれも、疾患により上記の循環のバランスが崩れることで肺高血圧症の原因となるのです。
なぜ心臓に負担がかかる?症状が起こるのはなぜ?
それでは、なぜ肺高血圧症は心臓に負担がかかるのでしょうか。あるいは、なぜ症状が起こるのでしょうか。
肺動脈の場合を例に挙げて説明します。
上述の肺と心臓の血液の循環において、肺小動脈がなんらかの原因で狭くなる(=血液の通り道が狭くなる)と、肺動脈の血圧が上がります。
そうすると、次のような悪循環が起こってしまいます。
- 肺動脈の壁が肥厚して狭くなる
- 血液を送るために、右心室(心臓)が頑張る(血圧が上がる)
- 頑張りすぎて、心臓が疲れる(心臓に負担がかかる)
- 血液を十分に送り出せなくなる(全身に送られる酸素の量が減る)
- 少し動くだけでも息苦しい、だるい、などの症状が出てくる
これが、肺高血圧症により心臓に負担がかかったり、全身の症状が発生したりするメカニズムです。
肺高血圧症の種類
肺動脈性肺高血圧症(PAH)
肺小動脈の内側がなんらかの原因で狭くなり、肺高血圧を引き起こすもので、厚労省より難病に指定されています。
膠原病(強皮症・全身性エリテマトーデス・混合性結合組織病など)、薬物や毒物、HIV感染症、先天性心疾患などが、原因疾患として挙げられています。一方で、原因が特定できない場合があり、「特発性肺動脈性高血圧」と呼ばれています。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
血栓が肺や心臓の血管を詰まらせることで、肺動脈が慢性的に高血圧を起こしてしまうものです。厚労省の難病に指定されています。
左心室の異常疾患
左心室の異常により、血液の循環が悪くなることから肺高血圧を引き起こします。
左心室収縮不全、左心室拡張不全、弁膜症などの弁膜疾患などが挙げられます。
肺疾患低酸素血症
肺そのもの病気があり、血流が滞ることで肺高血圧を引き起こします。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害、肺胞低喚起障害などがあります。
その他の肺高血圧症
血液の病気や、代謝の病気、腫瘍が原因となっているものなど、上の4つに分類されないものがあります。
症状で分かるの?
肺高血圧症だけに特有の症状というものはないため、症状から肺高血圧症に気付くのは難しいとされています。
一般的に、心臓、肺のトラブルで起こる症状が見られます。そのため、肺高血圧症を合併症として起こす可能性のある病気では、この症状には特に注意が必要とされます。
- 動くと息切れがする
- だるい、だるさが抜けない、疲れやすい
- 呼吸困難
- 失神
- 胸痛
心臓負担がかかり続けて心臓の機能が低下すると、さらに、足のむくみが出たり、少し動いただけですぐに息切れしたりする、といった症状が出ます。
心機能の低下を放置すると心不全を引き起こすことにもなります。
治療はできるの?

原因となる疾患が不明の場合
- 血管拡張療法・・・薬剤の内服、点滴、一酸化窒素の吸入、などがあります。
- 酸素療法・・・直接酸素を吸入する方法です。血管拡張、血流改善が期待されます。
- 手術・・・血管拡張法での効果がない場合、考慮されます。肺移植、肺・心臓同時移植があります。
原因疾患が存在する場合
原発性と同様の治療があります。それに加え、基礎疾患(膠原病、弁膜症、COPDなど)の管理が重要となります。
原発性でも続発性でも、主となる治療と併せて、以下の治療も必要です。
- 心不全対策として・・・利尿剤の使用、強心剤の使用、塩分・水分の制限
- 血栓予防として・・・抗凝固剤の内服
まとめ
大変な病気ですが、特定の症状がないことから発見が遅れることがあります。
心電図・胸部レントゲン・心エコーなどで現状把握することができるので、気になる症状があれば、早めに主治医の相談したり、受診したりするようにしましょう。