血栓とは、何らかの原因で血管の中にできる血液の塊です。血栓ができると、血液の流れが途絶え、肺や心臓、脳などの重要な臓器に酸素や栄養が送られず、重篤な病気の原因となります。
注意が必要な血栓は、血液がドロドロになる夏に多いイメージがありますが、冬にも起こりやすいといわれています。血栓はなぜできるのでしょうか? また、血栓ができるとどのような病気を引き起こしてしまうのでしょうか?今回は血栓症について、医師・安田 洋先生による監修記事で詳しく解説します。
血栓ができる原因
1.血液の流れが悪い(血流障害)
血液の流れは血管の弾力性や心臓の働き、自律神経の働きなどの影響を受けています。
病気による血流障害
動脈硬化、糖尿病、高血圧
動脈が硬くなり弾力を失うことで、血流が悪くなります。動脈硬化は老化現象として誰にでも起こるものですが、糖尿病や高血圧高血圧、肥満などは動脈硬化のリスクとなります。
心臓弁膜症、不整脈(心房細動)
心臓弁膜症である僧帽弁狭窄症に心房細動という不整脈が合併すると、心臓の中に血栓を作りやすくなります。
がん、腫瘍
がんや腫瘍自体による周辺血管の圧迫が起こるだけでなく、がんの患者さんは血液が固まりやすいことが知られています。
生活習慣や嗜好による血流障害
長時間の座位
長時間の足を下した姿勢は、静脈還流を阻害し血液の流れが悪くなります。
*静脈還流とは?
立位や座位などの姿勢では下肢は心臓よりも低い位置にあるため、心臓に静脈血を送るためにはふくらはぎの筋肉が充分に収縮し、ポンプの働きをする必要があります。このようにして血液が静脈を介して心臓に戻ることを静脈還流といいます。
脱水
発汗などの代謝により身体の水分が失われ、水分が補給されないと身体は脱水の状態となります。脱水状態の血管は濃度が高く血流が悪くなります。
冷え性
薄着や冷房の効いた環境、運動不足による代謝の低下、女性ホルモンの影響などによって起こる冷え性も血流を悪くする原因となります。
ストレス、疲労
ストレスや疲労は自律神経の働きを乱し、血管が収縮しやすくなることで血流が悪くなります。
喫煙
煙草に含まれるニコチンは血管を収縮させ、血流を悪くします。加えて喫煙は血管の炎症を起こしやすく、血栓の原因となります。
ギブスや固定具による圧迫
骨折の治療などで必要な固定も血流の低下を引き起こします。また、補正下着などの圧迫の強い着衣や不適切な着用は、血流障害の原因となります。
2.血管が傷つく(血管内皮の損傷)
血管内皮が傷つくと、そこからの出血を食い止めるために血小板や凝固因子などが集まり血栓を形成します。
動脈硬化や糖尿病、高血圧、喫煙などは血管が傷つきやすい状態を作っています。
また、カテーテルによる検査や治療により血管内皮を傷つけること(医原性損傷)があり、このことが原因で血栓を形成することがあります。
3.血液が固まりやすい(血液凝固能の亢進)
血液を固まらせ出血を抑える働きを血液凝固能と言います。
この働きが亢進すると血液が固まりやすくなり(俗にいうドロドロ血)、血栓を作りやすくなります。
先天的な凝固能異常のほか脂質異常症(高脂血症)による凝固能の亢進や、経口避妊薬(ピル)の服用により凝固能が亢進することがあります。
特に冬場に注意が必要

このように血栓を作る危険因子は数多くありますが、身体を動かす機会が減り、急激な冷えや気温差により血流の変化や血管の収縮が起こりやすい冬場は、血栓を作りやすくなります。
血栓症とは
動脈と静脈のいずれにも血栓はでき、身体のあらゆるところで病気を引き起こします。
静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症深部静脈血栓症)
静脈は身体の各部から二酸化炭素や老廃物を含み、肺へ運ぶ役割があります。
静脈の深部で発生した血栓(深部静脈血栓症)が血流に乗り、肺に到達し、肺の小さな血管に詰まる病気を肺血栓塞栓症と言います。
血栓の多くは下肢に発生し、長時間の飛行機への搭乗が原因となって起こるロングフライト症候群(別名:エコノミークラス症候群)は、代表的な静脈血栓塞栓症です。
血栓性静脈炎
深部静脈血栓症に対し、身体の表面の静脈(表在静脈)に起こった炎症を血栓性静脈炎といいます。
血栓性静脈炎は産褥期に起こりやすく、妊娠出産による血液凝固能の亢進や血管の圧迫、損傷が原因となります。
また、静脈に留置するカテーテル針によって起こることもあります。
動脈血栓症
心臓や動脈系にできた血栓が動脈の流れに乗って、心臓の冠動脈や脳動脈、腎動脈、腸管動脈、下肢動脈などを詰まらせる病気の総称です。
心筋梗塞や脳梗塞、腎梗塞、上腸間膜動脈血栓症(腸管壊死)など、重篤な病気が多く、静脈血栓に比べて急激に発症する特徴があります。
まとめ
血栓は血管内にできる血液の塊で、①血流障害②血管内皮の損傷③血液凝固能の亢進を原因として起こります。
血栓によって起こる病気は様々ですが、心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓など、命に関わる病気を引き起こすこともあります。