慢性に経過する腎臓の病気をまとめて慢性腎臓病(CKD)と呼びます。慢性腎臓病(CKD)が進行し、保存期腎不全(腎臓の機能がほとんど低下してしまった状態だが、透析は不要な状態)を経て、末期腎不全の状態となると腎代替療法が必要となります。腎代替療法には、血液透析・腹膜透析・腎移植の3つがありますが、この記事では血液透析・腹膜透析中の食事基準についてみていきましょう。

目次

透析導入後の食事制限の基本

透析を導入する段階になると腎臓はほとんど機能していない状態となります。腎臓の機能を機械により人工的に補う治療法を透析治療といい、血液透析腹膜透析の2種類です。それぞれの制限は以下のとおりです(慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版より)。

腹膜透析の食事制限

  • エネルギー:標準体重1kgあたり30~35kcal
  • たんぱく質:標準体重1kgあたり0.9~1.3g
  • 塩分:尿量×5g+徐水量×7.5g
  • 水分:尿量×徐水量ml
  • カリウム制限なし(腹膜透析液にカリウムが含まれないため)
  • リンたんぱく質×15mg以下

血液透析の食事制限

  • エネルギー:標準体重1kgあたり30~35kcal
  • たんぱく質:標準体重1kgあたり0.9~1.3g
  • 塩分:6g未満
  • 水分:できるだけ少なく(ドライウェイト1kgあたり15ml)
  • カリウム:2000mg以下
  • リン:たんぱく質×15mg以下

標準体重=身長(m)×身長(m)×22 で計算します。ただし、患者さんが肥満や高齢者の場合ではこれに限らず、目安の値は医師と相談して決定します。

2015年時点では、全国に約32万人いる透析患者さんのうち、9割近くの方が血液透析による治療をうけています(図説 わが国の慢性透析療法の現況より)。血液透析の場合、透析前と透析後の食事で共通しているのは、塩分の制限は継続すること、エネルギーは摂ることです。一方で透析前と変わるのは、たんぱく質の制限が少し緩むこと、水分を制限する必要があること、リンの制限が厳しくなることです。透析方法によって違いはあります。

また、腹膜透析の患者さんの場合、毎日透析を行うことや透析による老廃物の排泄のされ方の違いから、血液透析の患者さんと比べると食事制限は比較的緩やかです。

血液透析とドライウエイト

体重計-写真

ドライウエイト(DW)とは、血液透析の患者さんが透析を行った後の状態の体重のことです。腎機能が著しく低下した状態では、尿として体内の余分な水分を排泄することができなくなってしまうため、透析により体内の水分を排出させます。患者さんは透析により体内にとどまっている水分を一気に排出させるため、透析の前後で体重が大きく変化します。

このドライウエイト(DW)は、心臓の大きさと胸郭の大きさの比率や、むくみや血圧の状態を参考にして決定することで、透析治療中の目安の体重となるのです。透析治療中は、このドライウエイト(DW)を基準にして、体重の増減やエネルギーの摂取量などを管理します。食事制限によりエネルギーが不足しがちになると、筋力の低下やるい痩などを招くため注意が必要です。

ドライウエイト(DW)は、季節による体内の水分量の変化などが影響するため、1か月に1回は見直しをする必要があります。

透析とたんぱく質

透析を始めると、たんぱく質の制限が透析前よりゆるやかになります。透析を導入する前(保存期腎不全)では、残っている腎臓の機能を保護するため、腎臓で処理される老廃物の原因となるたんぱく質の摂取を制限する必要があります。たんぱく質はアミノ酸が結合してできている物質ですが、透析が導入すると透析中にアミノ酸が失われるため、その分補給しなければなりません。もちろん、過剰摂取は避けるようにしましょう。

透析とリン

透析治療により取り除けるリンの量には限度があるため、リンにも摂取量の制限が設けられます。リンはカルシウムと結合してはたらくため、血液中に過剰になると、カルシウムも必要以上に結合され、結果として骨がもろくなってしまいます。また、過剰になったリンやカルシウムが血管に付着することで、動脈硬化の原因にもなります。

まとめ

血液透析と腹膜透析とでは、透析導入後の食事摂取基準に違いがあります。基本的には、透析によっても取り除ける老廃物の量には限度がありますし、残っている腎臓の機能を少しでも保っておくために腎臓の負担を減らすことが重要です。また、エネルギー不足による筋力低下・るい痩を避けるために、食事摂取基準を守りつつも一定のエネルギーを確保する工夫が必要です。