ペストと言えば、中世ヨーロッパで大流行した病気、その際に医師がつけた鳥のようなマスクが印象的というイメージがあるかもしれません。しかし、そんなペストが現代でも特定の地域では流行を起こしていることをご存じでしょうか?今回は感染症の一つであるペストについてご説明します。

目次

ペストとは?

ペストは、ペスト菌という細菌によって動物とヒトに起きる感染症です。
元々は森林原野のペスト菌の常在地域にいるげっ歯類がかかる感染症でしたが、この地域に近づいた木こりやハンターがノミなどを介してペストにかかるようになりました。
災害などによって人がいる地域までおりてきたげっ歯類によって家ネズミや人にペストをうつすこともあります。まれにこの地域のイヌ、ネコ、ブタ、ヒツジなどへの感染やこれらのペットから人への感染事例もあります。

どのようにしてうつる?

ペスト菌に感染したネズミとネズミの血液を吸ったノミがペストを人へ媒介します。
ペストに感染したノミが人をかむことによって人にうつるのです。
ペストが肺で増えると肺ペストと言われ気管支炎や肺炎を起こし、やくしゃみによって他の人に感染するようになります。

ネズミの他にはリス、ネコ、イヌ、プレーリードッグなどもペストに感染し、これらに寄生しているノミもペスト菌を保有します。

世界と日本のペスト発生状況

世界では特定の地域の野ネズミがペストに感染しており、その近くで人のペストの流行が起こっています。WHOの報告では1991年よりペスト患者が増えたことが指摘され、以下の通りペストが発生している地域を示しました。

  • アフリカの山岳地帯と密林地帯
  • 東南アジアのヒマラヤ山脈周辺と熱帯森林地帯
  • 中国、モンゴルの亜熱帯草原地域
  • アラビアからカスピ海西北部
  • 北米西部ロッキー山脈周辺
  • 南米北西部のアンデス山脈周辺と密林地帯

など

1899年にペストが日本にも入り、流行を起こし死者も出していましたが、ペスト菌発見者の北里柴三郎の指導の下、当時の日本政府のペスト防御対策によってペスト根絶に成功し、1926年から今日まで国内でペスト患者は発生していません。
しかし現代では海外との交流が盛んになり、ペスト菌の常在地域を訪れる日本人観光客やビジネスマンなどが増えるようになりました。
市場の自由化によってペスト菌常在地域から資材、食物やペットを輸入する機会も増えています。

アメリカでは輸出予定のプレーリードッグがペストに感染して多量に死亡した例から、プレーリードッグの輸出入や売買を禁止するように指導していますが、日本にもアメリカ産プレーリードッグが多く輸入されていることが分かっています。厚生労働省が行った実態調査の結果は陰性の結果が出ましたが、引き続き注意が必要です。

ペストの症状は?

ネズミ-写真

ペスト菌が身体の中で感染を広げる部位によって「腺ペスト」、「敗血症ペスト」、「肺ペスト」の三つに分類されます。

腺ペスト

ペスト菌がリンパ節(腺)に広がるのが腺ペストです。
突然の発熱、悪寒や元気の無さに始まって急速にリンパ節が脹れてきます。
リンパ節のある脇の下や足のつけ根が脹れることが多く、治療をしない場合の致死率は50%以上になります。

敗血症ペスト

血液の中にペスト菌が入ることによって起こるのが敗血症ペストです。
症状がないまま全身に伝わり敗血症を起こします。
急激なショック症状、昏睡、手足の壊死などを起こして2~3日以内に死に至ると考えられています。

肺ペスト

ペスト菌が肺に侵入して、発熱、頭痛、血痰、咳などを起こします。嘔気、嘔吐、腹痛、下痢の症状がみられることもあります。
肺炎は、2~4日間で悪化してショックを起こします。直ちに治療しなければ死亡する可能性があります。肺ペストは気道の分泌物を介してヒトからヒトへ感染します。

予防や治療は?

ペストの治療には抗菌薬が良く効くので、直ちに抗生物質を投与して治療します。
予後は良好で後遺症は殆ど残らないとされています。肺ペストは病気の進行が早いので、特に早期から治療が必要になります。

ペスト患者と直接接触した人や医療従事者、専門家などペストを発病する可能性の高い人に対しては、予防のためのワクチンはありませんが抗菌薬を投与することが勧められています。
流行地域に行く場合は、ネズミが生息している場所に入らないことに気を付けます。肺ペストが流行していれば、激しい咳をしている人の近くには寄らない、接触した場合は直ぐに医療機関を受診して予防のための抗生物質の服用について相談します。

まとめ

ペストはペスト菌によって引き起こされる動物とヒトの感染症です。現代でも一部の地域で流行が起きている病気ですが、予防のためのワクチンはありません。
海外に渡航するときは、流行地域に立ち入らないよう気をつける必要があります。近年では生物テロによるペスト菌の噴霧も心配されています。