眼の網膜に異常がみられる病気に網膜色素変性があります。夜盲(暗い所で眼が見えにくくなる)、視野狭窄(見える範囲が狭くなる)、視力低下などの症状が起こり、進行していく病気です。遺伝性の病気で、難病に指定されています。今回は網膜色素変性の症状や検査、治療法などについて紹介します。

目次

網膜色素変性とは

網膜は眼に入ってくる光を電気信号に変え、視神経を介して脳に信号を送ります。脳がその信号を受け取ることで初めて、眼に入ってきた光が「見えた」ことになります。

網膜には光を受容する細胞として2種類の細胞があり、それぞれ、錐体(すいたい)細胞、杆体(かんたい)細胞と呼ばれます。各細胞の役割は以下の通りです。

  • 錐体細胞…網膜の中心に集中して存在し、明るい光に反応する。視力や色覚に関わる
  • 杆体細胞…網膜に広く分布し暗いところで光を感知する。暗所での見え方や周辺の視野に関わる。

網膜色素変性では、最初に杆体細胞の障害が起こり、進行していくと錐体細胞も障害されます。そのため、暗い夜道が歩きづらい、よくつまずく、物捜しが苦手になったなど夜盲や視野狭窄による症状をまず自覚します。

網膜色素変性は遺伝性の病気ですが、血縁者に同じ病気の方が見つかるのは半数ほどといわれています。また原因となる遺伝子も、40種類以上報告されていますが、まだ知られていないものが多数あると推測されています。

症状の特徴は夜盲、視野狭窄、視力低下の3つ

網膜色素変性に特徴的な症状は3つあります。夜盲、視野狭窄、視力の低下です。

そのほか、光を眩しく感じる、視野が白くぼやける、色の見分けが付きづらくなる、目の前にチカチカ光が見える、などの症状が出る人もいます。

網膜色素変性の原因となる遺伝子の変異は非常に多くあります。そのため、症状の現れ方にも、症状の始まる年齢にも、また症状の進行スピードにも、個人によって大きな差があります。比較的早期に視力低下をきたす人がいる一方で、高齢までよい視力を保つ人もいます。

網膜色素変性の場合、早くから白内障を発症しやすくなります。また、黄斑浮腫、黄斑前膜、黄斑円孔のような黄斑疾患を合併する率が高いこともわかっています。これらの合併症による見づらさについては治療で軽減できる可能性があります。白内障について詳しくは「目が白く濁る?!白内障とはどんな病気」をご覧ください。

病院で行う検査は

家族歴・病歴の聞きとり

血縁者に同じような症状の方がいないか、いるならばどのような血縁関係にあたる方か、さらに、それまでにかかった目の病気、全身の病気などについての質問があります。

視力検査

眼鏡等で矯正して出しうる最上の視力を調べます。

色覚検査

先天色覚異常の検査と異なり、左右それぞれの目について別々に調べます。

眼底検査

網膜は眼球の壁の内側を覆っていますので、光を当てて眼の内側を観察します。網膜色素変性では初期には網膜の色調の乱れがおこり、その後、網膜に白点や、「骨小体様」と言われる特徴的な色素沈着が認められるようになります。症状が進行した状態では、網膜血管は細くなり、視神経乳頭も萎縮して蒼白な色になります。

眼底検査について詳しくは「血管の状態を観察できる『眼底検査』ってどんな検査?」をご覧ください。

視野検査

見える範囲を調べる検査です。光が見えたときにボタンを押し、どこがどの程度見えているか、どの部分の視野が欠けているかを調べます。網膜色素変性では、中心と最も外側を残して中間部の視野が失われていく、ドーナツ状の視野欠損(輪状暗点)が多く見られます。暗点が拡大して周辺部の視野が失われ、中心視野だけとなると、求心性視野狭窄の形になります。

視野検査について詳しくは「視野が狭いと感じたら…眼科で行う検査とは」をご覧ください。

網膜電図(electroretinogram:ERG)

眼は光刺激を電気信号に変えて、脳に伝えています。この検査では、網膜に光が当たった時生じる電気信号を、角膜上に装着した電極で検出し、増幅して記録します。網膜色素変性では初期から反応が弱まるのが特徴で、中期以降は反応が消失します。

他にも光干渉断層検査(OCT)、眼底自発蛍光、蛍光眼底造影検査などの検査を行って、網膜変性の程度や範囲を調べます。

治療法は

ルーペ

網膜色素変性に対する根本的な治療法はまだなく、基本的には対症療法が行われます。現在、遺伝子治療、網膜移植、さらには人工網膜移植などの研究が進められています。

薬物療法

確実に有効であると立証されている訳ではありませんが、網膜を保護し、病気の進行を遅らせる可能性がある薬として「アダブチノール(成分名:ヘレニエン)」、ビタミンA、循環改善薬などが用いられています。

視覚補助具

視覚補助具を利用して、網膜色素変性の症状によって現れた不便さを軽減します。

網膜色素変性の方に使用する遮光眼鏡は、紫外線、青色光線など500nm以下の短い波長の光をカットできる特殊なレンズを使っています。この眼鏡は眩しさを防ぎ、眩しさから起こる視覚の白っぽさを改善し、見え方をくっきりさせる効果があります。屋内でも、一般的なサングラスほどは暗く感じません。

読書など文字を読むときは、ルーペ拡大読書器(カメラで文字や画像を撮影し、モニター画面に映す器械。データを加工して、拡大、白黒反転、コントラストの調節などを行える)を使うとより見やすくなります。スマートフォンにアプリを入れて拡大読書器のように用いることもできます。またパソコンやスマートフォンに文字を認識させて読み上げさせることも可能です。補助具を選ぶ際にはロービジョンケア外来を持つ眼科で相談することができます。

網膜色素変性は難病に指定されているため、進行した病状の方に対しては、申請により、医療費などが助成される制度があります。

その他

網膜色素変性の方が感じる見づらさの全部が、網膜色素変性自体によるものとは限りません。網膜色素変性に合併して起こりやすい白内障や黄斑疾患があるならば、その治療により見え方が改善する可能性があります。

まとめ

網膜色素変性について、今のところ根本的な治療法はありません。進行性の病気ですが、しかし、急激に進むものではありません。進行には個人差があるので、定期的に検査を受け、進行のスピードを把握して対策を立てましょう。道具も進歩しています。医療も進化しています。遠くない将来、治療可能な病気になる可能性もあります。その日が早く来ることを願いつつ今感じる不便を乗り切る工夫をしていきましょう。