オプジーボという薬の名前は、ニュースで薬価の問題が取り上げられたため、耳にしたことのある方は多いのではないでしょうか。
この記事ではオプジーボはいったいどのような薬か、なぜ薬価の問題が取り上げられていたかなどについて紹介していきます。

目次

オプジーボとは

オプジーボは、ニボルマブという薬の商品名にあたり、抗体というたんぱく質でできています。
そして、オプジーボはその特殊な薬効から免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれることがあります。

私たちの体の中には、ウイルスなどの病原体やがん細胞などから身を守るための免疫細胞が存在しており、常に監視の目を光らせています。

免疫細胞は、活性化しすぎてしまうと私たち自身の体を攻撃してしまうことがあるため、免疫細胞のはたらきにブレーキをかけるメカニズムも備わっています。このブレーキをかけている部分は、免疫チェックポイントと呼ばれています。

がん細胞は、この免疫チェックポイントを悪用することで、免疫細胞の攻撃から逃れています。そこで免疫チェックポイントのはたらきを防ぐことで、免疫細胞のはたらきを取り戻すのが「免疫チェックポイント阻害剤」です

詳しいメカニズムについては、後ほど解説します。

抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤の違い

従来の抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤とでは、いったいどのような点が違っているのでしょうか。

抗がん剤は、がん細胞自体を攻撃する薬です。
化学物質によってがん細胞の細胞分裂を妨げたり、正常細胞にはないが、がん細胞だけが持っている物質を阻害したりする方法などがあります。

一方、免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞そのものを攻撃するのではなく、本来の免疫機能を取り戻し、がん細胞への攻撃を促進する薬です。
このように免疫を活性化させてがん細胞を攻撃する治療方法は、がん免疫療法と呼ばれることがあります。

オプジーボの詳しい作用メカニズム

オプジーボはいったいどのように、免疫細胞の働きを強めているのでしょうか。ここでは専門用語が多めに出てきてしまいますが、ぜひジックリと読んでみてください。

「免疫チェックポイント」とは

免疫チェックポイントとは

がん細胞には、主要組織適合遺伝子複合体(MHC、HLA:以下、MHCと表記します)と呼ばれる物質と、がん細胞特有のタンパク質がくっついた部分があります。
そして、免疫細胞であるT細胞の表面には、がん細胞の存在を認識するために、T細胞受容体TCRがん細胞上のMHCとがん細胞特有のタンパク質がくっついた部分と結合する)という部分があります。

さらにT細胞の表面には、PD-1というT細胞の働きを抑制する部分があります。そして、がん細胞にはPD-L1というPD-1とくっつく部分があります。
PD-1とPD-L1がくっつくと、先ほどの説明に登場したT細胞ががん細胞を認識するシステムにブレーキがかかり、T細胞の働きが抑えられます。
まさにここが「免疫チェックポイント」という仕組みなのです。

免疫チェックポイント「阻害」剤とは?

免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)のメカニズム

しかし、がん細胞はこの免疫チェックポイントを悪用して、自身をカモフラージュし、T細胞の攻撃から逃れようとします。がん細胞はPD-L1を身にまとい、T細胞のPD-1と結合することで、T細胞の監視の目をあざむき、免疫細胞の攻撃から逃れているのです。
がん細胞がカモフラージュしてしまうと、T細胞はがん細胞を発見できず、攻撃することができません。

この点、オプジーボはヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体というタンパク質です。
PD-1を阻害することで、T細胞のPD-1とがん細胞のPD-L1がくっつかないようにし、T細胞によるがん細胞への攻撃を促しています。

オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤とは、免疫チェックポイントの悪用によるカモフラージュを解き、がん細胞に対するT細胞(免疫細胞のうちの一つ)の活性を取り戻すことができる薬です。

適応症例について

オプジーボの適応症例には、次のようなものがあります。

手術による治療が難しいと判断された場合に、オプジーボによる治療が選択されます。

オプジーボに含まれる成分に対してアレルギー反応を起こしたことのある方は、オプジーボの治療を受けることができません。
また、過去に自己免疫疾患や間質性肺疾患にかかったことのある方もオプジーボによる治療を受けられないことがあります。

オプジーボによる副作用

オプジーボによる副作用のうち、特に注意が必要なものには次のようなものがあります。

その他、発熱、悪寒、発疹、高血圧、低血圧、呼吸困難などを含むInfusion reactionという反応が現れることがあります。

オプジーボの薬価が問題となったワケ

その理由は薬価(国が決めている医療用医薬品の価格)の決め方に大きなポイントがあります。
新薬の薬価を決める際に重要になるのが、同じような効果を持つ類似薬がすでに販売されているかどうかです。

類似薬がある場合

類似薬がある場合、その新薬の薬価は類似薬と同じにします。

類似薬がない場合

類似薬がないということは、その新薬はこれまでにない全く新しい薬ということになります。オプジーボはこちらの場合に当てはまります。
この場合の薬価は、研究開発費や製造費、新規性や有効性を加味した営業利益などを考慮して決定します。新薬を利用する患者さんが多ければ多いほど安くなり、反対に少なければ高くなります。新薬の開発が難しくなっているため、近年、研究開発費は上昇傾向にあります。

オプジーボは製造費の高い抗体を利用しているうえ、最初に保険適用されたのが患者数の少ない悪性黒色腫であったため、高額な薬価となり、話題となりました。

オプジーボの薬価は、患者数の多い非小細胞性肺がんへの適応拡大を機に、2017年2月、当初の薬価の半額まで引き下げられました。
さらにオプジーボの売り上げが予想を超えたことから、2018年4月薬価改定の際、オプジーボの現在の薬価からさらに12%引き下げられることになりました。

がん免疫療法に関する注意点

免疫療法は、免疫機能を回復させてがんを治療する方法全般を指すことがあり、大きく二つの意味があります。

一つ目は、科学的に有効性が証明されており、診療ガイドラインに記載され、標準治療となっている免疫療法”です。
免疫チェックポイント阻害剤による治療のほか、いくつかの限られた療法がこれにあたります。

二つ目は、科学的に有効性が証明されていない『免疫療法』です。
この『免疫療法』を、患者が治療費を全額負担する自由診療として行っている施設も多数あります。

免疫療法を選択する際は十分な確認が必要です。

まとめ

オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞を取り巻く免疫細胞を活性化してがん細胞を攻撃する画期的な薬です。一方で、副作用や高額な薬価など課題も残されています。

がん免疫療法を実施している施設は様々存在しています。そこで実施している療法が科学的に証明されていないケースもありますので選択の際は注意が必要です。

 

免疫療法についてさらに知りたい方は、がん対策情報センターの下記ページも併せてご覧ください。
がん情報サービス|免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ