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一人ひとりの意思を尊重できるように

―治療の終了期についてお聞きします。退院や復学に際しては、どんなケアをしていくのでしょうか。

治癒ができた患者さんでは、学校や社会生活に戻るために、ソーシャルワーカーを中心にケースカンファレンスを行いながら調整していきます。

また、終末期の場合、病棟、家族、本人、主治医でケースカンファレンスを行います。特に、思春期以降の患者さんは明確な意思を持っていることが多いです。アドバンス・ケア・プランニングといって、患者さんが意思を伝えることができなくなる前に、その人の意思が最期まで尊重されるよう、自分の病気についてどこまで知りたいか、それを誰から伝えてほしいか、何を大事にしたいかということを聞くので、それを尊重しながら療養生活を調整していますね。予後も治療も全部知りたいという子も多いので、主治医から病気や今後のことをお話しすると、「怖いから病院にいたい」「家で過ごしたい」と明確に話してくれるので、そこも合わせて調整します。

 

―患者さんご本人の意思を何より尊重されているのですね。

赤ちゃんであっても、そこは絶対ですね。話すことができない患者さんの場合はご家族と話し合いますし、話せるお子さんの場合は本人がどこまで知りたいのかを踏まえ、その子の意思を尊重できるように関わっていきます。

話せないお子さんの場合も入院前の生活のことは初回面談で聞いているので、本人が何をしている時に楽しそうかとか、「◯◯ちゃんはこういうことを望むかもしれないね」と、入院前や入院中の生活でキャッチできた部分を話し合っています。

あわせて、ご家族がご本人に対してどうしたいかも確認します。終末期の患者さんの治療や療養生活は正解のないものなので、話し合うことに意味があると思うんですよね。家族が下した苦渋の決断を「本当にこれで良いのか」と悩むときに、その決断を支持するという形を取っています。

 

―病棟の患者さんを支えるお仕事の中でのやりがいは?

私は、子どもたちにもちろん治癒してほしいと思っています。でも、治癒できてもできなくても、その子が大切にしているものを私たちもきちんと大切にできて、なおかつその子らしくいられると感じたときに「これで良かったのかな」と思えますね。

私は終末期の患者さんもたくさん看ているので「本当にこれで良かったんだろうか」と悩むこともあります。でも、苦しかったとしても家に帰れて良かったとか、外来に来ている、大変な思いを共有していた患者さんが「学校が楽しい」と言って、私たちのことを忘れるくらい頑張っている姿を見ると、本当に良かったなと思いますね。

 

―看護師として、小児がんについてもっと知ってほしいと思っていらっしゃることはありますか?

とにかく、いろんなサポートができるので、一緒に考えていけたらなと。ご家族だけ、ご本人だけで抱え込まないで、みんながその子らしく過ごせるようにサポートするので、抱え込まずに相談してほしいですね。

成育にはCLSやリハビリ技師をはじめ、様々な職種のスタッフがいます。問題が生じてからではなく、診断時からの早期介入を行うので、サポートチームができて以降、大きな困難は生じていないんですよね。地域の病院だと看護師さんの役割がすごく多くて大変だと思うんですが、成育には相談窓口もあるので、電話していただいても良いし、みんなでやっていけたらと思っています。

 

編集後記

小さなお子さんが病気になった場合、一般的に、意思決定の中心になるのは保護者の方というイメージが大きいと思います。しかし木須さんは、言葉も話せないような年齢のお子さんであっても本人の意志は絶対に尊重されるべきだと強調していました。

「あなたらしく」と一口で言ってしまうと簡単ではありますが、そのために尽力する看護師さんの役割は決して楽なものではないでしょう。コミュニケーションを密に取りつつ、入院時から治療終了期まで患者さんを支える看護師さんは、患者さんにとってきっと心強い存在だと思います。

次回は、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、伊藤 麻衣さんのインタビューをお送りします。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年1月24日時点の情報です。