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「どんなウィッグをかぶるか」より、「どんな顔でかぶるか」が大事

アピアランス支援センター内には、たくさんのウィッグが置かれています(写真参照)。これらは色も形も、さらには価格帯も様々です。数千円のものから、30万円するものまであるといいますが、パッと見ただけではどれが高価なものかは分かりません。

 

「値段によって性能が違うと思われがちですが、ウィッグの選び方は洋服のブランドと同じです。例えば量販店でコットン100%のTシャツを買うと1,000円、ハイブランドで買えば40,000円ですが、コットンの性質が40倍違うわけではありませんよね。ブランドは、様々なところにお金を掛けて価値を築いています。

ウィッグも同じで、安いから悪い・高いから良いというわけではなく、自分がどれを選ぶかが大切です」

 

患者さんにも実物を見せたり、かぶったりしてもらいながら、ウィッグの選び方を話していきます。

 

「ウィッグをかぶると急にスタイルや髪の量が変わるので、皆さん最初は違和感があります。すると、安いものを買った人は「安いから変なのか」と思いこんでしまう。でも『そうではない』と話します。

ウィッグ選びの基準を『人の頭らしく見える』こととすれば、業界的には“つむじ”があることが大切になります。勉強した人ほどつむじの有無にこだわりがちですが、つむじがあるものは高価な品が多いですし、その割に私たちは家族のつむじなんて思い出せませんよね。健康な人は、一緒に暮らしている人のつむじさえも意識していない…そのことを教えてあげなければいけないのが、医療者です。

ウィッグを選ぶ唯一の基準は、『自分が正面から見て、かぶったときに自分らしくいられる』こと。そのウィッグに偶然つむじがなくても、堂々としていればいいのです。ウィッグも、その人らしく生きるための小道具の一つに過ぎません」

 

野澤先生は、「どんな顔でウィッグをかぶるかが大事」だといいます。CMで見かける高齢者用の “おしゃれウィッグ”と、患者さんがかぶるウィッグとの間には、本質的な違いは無いのだそうです。

 

「たまたま(年齢による脱毛では)髪に困らなかった人が、病気を機にウィッグをかぶると、『がんを隠そう』とします。すると顔が暗くなり、人と目を合わせにくくなりがちです。一方、健康な人が高価なウィッグをかぶる時って、華やかに『見て』という感じでかぶっていますよね。

人目を引くのは患者さんの表情です。自信がないからと前の人から目を逸らしたり、髪をやたらと触ったり、鏡を見てばかりいたりすると、それが挙動不審に見えてしまいます。だから、かぶったらおしゃれウィッグだと思っていただくことが大切です。

ただ、髪が増えたのに眉毛が薄いと不自然なので、『眉毛は濃くしましょう』『でも、すぐには抜けないので今のうちから書いていけば大丈夫ですよ』と伝えます。焦らなくていいと教えるのも、医療者の役割です」

 

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