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患者さんが「いいな」と言ったら、そのケアは“100点”

アピアランス支援センターには、老若男女を問わず様々な患者さんが訪れます。野澤先生は一人ひとりの話を聞き、その人に合ったケアを提案しますが、ときには「美容業界では100点とはいえない」技術を提案することもあるといいます。

そして、提案するケアは、患者さんの状況や、お化粧をする習慣の有無によっても変わってきます。

 

「赤ら顔にお尻や太ももの白い皮膚を植皮すると、そこだけ白くなります。ある男性がそれを何とかしてほしいと来たのですが、ここで本格的なカバー法を教えても、その人は絶対にやらないでしょう。

本当にやろうとすると、普通のメイクよりもはるかに難しいテクニックが必要です。でもその方は、60歳になるまで化粧水さえ使ったことがない。そこにさらに難しいことを教えれば、『面倒だからやらない』となるばかりか、『だったら家にこもればいい』と思ってしまうかもしれません。美容業界では100点の技術でも、私たちにはこれでは無意味です。

そこで、白斑に塗るファンデーションを「水薬のような感じでつけてみてください」と渡しました。少しつけて『色ムラが減るでしょう?』と言ったら『ああ、いいな』と。カモフラージュメイクを専門とする美容業界の方に見せたら10点の技術かもしれませんが、患者さんが『いいな』と言ったら、私たちには100点です。患者さんが社会と結びつくために、とにかくその方ができる簡単な方法、という視点で組み立てています。

反対に、『どれほど時間やお金がかかっても良いから』とこだわる少数の方には、そのこだわりに応えてくれる専門家を紹介します」

 

それぞれ、悩んでいるのは見た目や気持ちだけの問題ではありません。自分らしく生きるにはどうすればいいか、社会との関わりを保つためにはどうすればいいか、という視点では、男性も子供も同様に様々な課題を抱えています。野澤先生は、それを聞くようにしています。

 

「子供は『ウィッグだと、遊園地で自分だけジェットコースターに乗れないんだけど』などと言ってきます。

営業職の男性は『爪が黒くなって名刺が出せなくなり、仕事を外された』とか、社長さんが『脱毛から病気がバレると会社の融資を撤回されてしまう』とか…見た目を通して、社会との関係性に悩んでいるので、『そこを乗り切る方法を考えましょうね』と話します」

 

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