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筋萎縮性側索硬化症(ALS)は手足をはじめ、全身の筋肉が徐々に動かなくなっていく神経難病です。身体が自由に動かなくなっていく過程で、患者さんの中には発症前より感情表現がオーバーになったり、気持ちをうまくコントロールすることが難しくなったりする方がいます。他にも、自分の意思とは異なる表情が現れてしまう感情失禁(情動調節障害)という症状がみられることもあります。

感情の変化が現れると、患者さんを介護するご家族やヘルパーさんは戸惑ったり、精神的に疲弊したりして患者さんとうまく関係を築けないケースもみられます。ALSには感情に関する症状や変化が伴うことを、患者さん自身やご家族、ヘルパーの方々が理解しておくことは、お互いの関係を良好にしていくためにも有効と言えます。

今回は、あまり知られていないALSと感情の変化について、またご家族が置かれている状況やその解決策について、神経内科専門医の沼山貴也先生(狭山神経内科病院)にお話を伺いました。

お話を伺った先生の紹介

ALSの患者さんは精神的なダメージを受けている

――ALSの患者さんが健康であったときと比べて、感情表現がオーバーになったり、性格が少しきつくなったりすることがあると聞きます。こうした変化は実際にみられるものなのでしょうか。

ALSは難病であり、現時点では治らない病気です。治療法もなく、進行して身体が思い通りにならない現実に直面すれば、大いに戸惑い、悲しんだり自分の運命に怒りを持ったりすることは無理もないことであり、正常な感情の変化であると思います。また、周囲にやり場の無い自分の感情をぶつけることは稀ではありません。

(ALSを発症しても)意識や認知などの脳の機能に関しては問題ないと言われているので、一時的な感情の変化だけでなく精神的にも大きなダメージを受けていて当然だろうと思います。またALSに限らず神経難病にかかった患者さんが、ある種の精神症状、代表的にはうつといったものを合併することは、稀ならず経験するものです。

これがうつ病なのか病気に至らないうつ状態なのかは、精神科の先生でないと鑑別が難しいのですが、いわゆる気分が落ち込んで仕方がない、落ち込んでばかりもいられないと思いつつもその状態から抜け出せない、というのも感情の調節がうまくできない症状の一つと言えるのかもしれません。

うつの治療については、状況に応じて精神科の先生に診てもらったり、神経内科医が使える範囲の抗うつ薬を処方したりすることもあります。

こうした感情は、患者さんが自分の疾患を徐々に受け入れていく過程で現れることがあるかと思います。もちろん全ての人が感情的な反応を示すとは限りませんし、「そういう病気になったんだったら仕方ない」とすごくサバサバしている人もいます。

――患者さんが周囲に対してきつく当たって、ご家族やヘルパーの方々とうまく関係を築けないこともあると聞きます。このような攻撃的な姿勢は、疾患から来るものなのでしょうか。

怒ることに関しては、もともとの患者さん自身のキャラクターもあるでしょう。ただ、病気は四六時中ついて回るわけで、患者さんが病気から解放される時間はありません。そういう状況に対してやり切れない怒りは常にあると推測できますし、それが表に出たときには他人に対する攻撃性ということになりえるでしょう。

健常者であっても一度怒り始めるとある程度吐き出さないとなかなかおさまらないものです。そうした感情が全て病的であるのか、という正常と病的の線引きはすごく難しいと感じています。

ただ、温厚で優しかった人が極端に攻撃的になるなど、性格変化が認められるケースでは、ALSに限っていえば前頭側頭型認知症が背景にあるかもしれません。ある程度攻撃的な傾向がみられたときに、頭のCTを撮って前頭葉や側頭葉に萎縮がみられた場合などは、前頭側頭型認知症を合併している可能性があります。

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割り切るのも一つの手だが、第三者に関わってもらうのも大切

――患者さんが健常なときよりもきつく思えてしまったり、感情的に見えたりするとき、介護するご家族やヘルパーはどう捉えれば、患者さんとうまく付き合っていけるのでしょうか。ALSを発症するとコミュニケーションが取りづらく、感情の確認が難しいと思うのですが。

患者さんがまだ病初期で詳細にコミュニケーションが取れて余裕がある状態であれば、怒りがどうしてもおさまらないといった、内面の感情の動きを相手に伝えることができるかもしれません。コミュニケーションが困難になってくると患者さんの抱いている感情を読み取ることは非常に難しいのですが、「そういうこともある」と理解していることは大事だと思います。

ALSは大変な病気ですから、患者さんは色々な意味で感情的に不安定、あるいは精神的に重いものを抱えています。その状況をどのように表したりとか、どういう風に処理して良いのか分からないと思います。そのような状況を踏まえて、周囲の方は「大変な病気だから、悲しい気もち、辛い気持ちを表に出すのは当然だろう、人によっては攻撃的になってしまうこともある」と知っておくことは大事なことであると思います。

ただ、知っていたからといって、介護する方の気持ちが本当に楽になるかはわかりません。患者さんのご家族が介護されているようなケースでは昔元気だった頃の親御さんをよく知っているだけに、病気の影響だと知っていれば仕方ないと思えるかと言われても難しいこともあると思うのです。

また、攻撃的な感情を受け止めるばかりだと病んでしまうという方もいらっしゃいます。ご家族だけでなく医療・介護スタッフでも患者さんから厳しい言葉を言われれば辛いと思う人はいますし、そこは客観的に捉えて割り切る、気にしない、やり過ごすなど受け止め方や扱い方は人それぞれだと思います。

――ご家族が中心となって患者さんを介護している場合、かえって関係がうまく構築できないケースもあるようですね。

色々なご家族がいらっしゃいますが、冷静さを保っているように見えても内心はそうとは限りません。第三者であれば、ある程度距離を持って接することができますし、状況を客観的に冷静に把握してアドバイスをもらえるかもしれません。

患者さんに「絶対に他人に見られるのが嫌だ」という思いがなければ、第三者に関わってもらうことで、精神的、感情的なトラブルは減る可能性があると思います。

――介護するご家族も、第三者の方に相談することは重要でしょうか。

患者さんの感情のコントロールが大変という状況はありますが、介護していく中で、ご家族も不安定な状態になってしまうことはあります。患者さんとご家族は一体と考えていいかもしれません。医療関係者は、神経難病を診ていく上で、患者さん本人もご家族も苦しい思いをしていることを、忘れてはなりません。

ヘルパーの方や身近な人がいれば、悩みを打ち明けて精神的なバランスを維持していくことは必要です。また医療スタッフも第三者の立場です。相談してほしいですし、既に無意識のうちに相談されていると思います。

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