「胃がん」は日本人の国民病の一つと言えます。「痛くないからがんではない」と思っていませんか。がんは初期には痛みは出ません。がんは発見が早ければ早いほど治る確率が高まります。
疫学
2013年の日本における胃がんによる死者数は48,632人で男性では肺がんに次いで2位、女性では大腸がんに次いで2位(厚生労働省人口動態統計)の疾患です。
胃がんで亡くなる方は徐々に減少傾向ですが、胃がんは毎年10万人以上の人が罹患しています。肺がんは毎年約5万人です。
癌の分類
早期がんと進行がんを簡単に説明します。
早期胃がん・・・胃の表面の粘膜とそのすぐ下の粘膜下層までに留まっているがん
進行胃がん・・・早期胃癌よりも下まで広がったがん
がんでは「5年生存率」という項目が指標としてよく用いられます。大まかに言って治療開始から5年後に生存している人の割合です。
胃がん全体では71%ほどですが、早期がんでは90%ほどです。(日本胃がん学会)
症状

早期:症状はまずありません。胃カメラなどの検査により発見されます。
吐血、下血(タール便):胃がんに潰瘍を伴うとそれにより出血することがあります。
胃の不快感、腹痛:胃がんに潰瘍を伴うとそのための腹痛が生じます。また、転移などにより神経を傷つけたり骨を痛めたりするとその部分の痛みが生じます。
体重減少:進行がんとなり消耗してきた場合に体重が減少します。
「この症状があったら絶対に胃がん」というものはありません。何らかの症状があれば、できる限り早期に受診し検査することが望まれます。
検査

胃カメラ(上部消化管内視鏡)
粘膜の色の変化も観察可能で、最も確実な方法です。疑わしい組織の一部を採取し病理検査を行うことで確定診断に至ります。
バリウム(胃透視)
病変の部位、進行度を判断します。疑わしい場合には精密検査として内視鏡検査を必要とします。
血液検査
腫瘍マーカーが参考となり発見されることもあります。
早期がんの状態を発見できる血液検査や尿検査は現時点では存在しません。今後も血液検査や尿検査では早期胃がんを発見するのは難しいでしょう。早期がんは粘膜もしくはその近くに留まっています。血液やリンパに乗っていないから転移が少ないわけです。血液検査や血液を濾した尿に出てくるということは癌の成分が血液に出てきているわけですから、検出できるときは多くは進行がんと考えられます。
予防

「○○を食べるとよい」「△△を食べないほうが良い」といった情報がネットには沢山ありますが、明確な証拠のないものも多く注意が必要です。
これまでに臨床研究をもとに関係が示唆されているものに以下のものが挙げられます。
ピロリ菌
ピロリ菌により慢性胃炎が発症し、これが胃がんの発生しやすい環境になると考えられています。また胃がんの内視鏡治療後にピロリ菌を除菌することでがんの発生が抑えられたことから予防効果が考えられています。
食塩
食塩の多い食事で男性の胃がんリスクが上昇することが知られています。
喫煙
2005年までの報告をがんセンターが検討し、確実にリスクが高まることが示されました。
緑茶
緑茶をよく飲むと女性では胃がんリスクの低下がみられました。
野菜果物
摂取により胃がんが低下する可能性がみられました。
疫学調査によってこれらが現時点では関連が考えられています。発がんのリスクを下げるにはピロリ菌の除菌、減塩、禁煙、節酒を行うことはとても良いことと考えられます。
但し、注意していただきたいのは「ピロリ菌を除菌した」「減塩している」から「胃がんにならない」ということではありません。
胃がんで死なないための最も有効な方法
現時点で最も有効なのは「定期的な胃の内視鏡検査を受けること」です。
特に「診断能力の高い専門医」に診てもらうことが重要です。
胃に「赤い部分」があったとしてもそれが「胃がん」なのか、「胃炎」なのかは区別が難しいことがあります。優れた内視鏡医では診断が一致します。確定診断は組織を取り病理検査の結果によりますが、「組織」を取るかどうかは内視鏡医の判断です。胃の粘膜を見て癌を疑えるかどうかが重要ということです。
明確な基準があるわけではありませんが、胃がんの死亡者数は40代から上昇することから40歳を一つの目安に検査を受けられるとよいと考えられます。その他症状がある方は早めに一度検査をお受けになるとよいかと考えます。
消化器内科医の仲間内では胃カメラは毎年受けるとよいと話が出ます。がんの種類によっても異なりますが、多くの場合1年に一度検査をしておけば胃がんが出てきたとしても内視鏡または手術で根治が得られる可能性が高く手遅れとなることは少ないと考えています。
治療

早期であれば内視鏡で治療可能です。
進行がんであっても手術により根治が得られることもあります。
転移などで手術が困難な場合は化学療法が選択されます。
治療法はより有効で体への負担が少ないようにと進歩しています。
私が研修医の頃、胃がんに対する化学療法はまだ治療法も決まっておらず手探りの状態でした。今では日本で開発された抗がん剤による治療方法の効果が高いことが証明されています。更に、最近では本庶佑教授らの研究から開発されたNivolumabが多くの悪性疾患に対し有効性を示すなど、有効な免疫療法も開発されました(Grünwald, Michielinより)。国立がん研究センター中央病院では胃がんに対する臨床治験も実施されています。
最後に
いかがでしたか?日本人の国民病ともいえる胃がん。早期には症状がないこと、早期であればより根治が望めることを知っていただければと思います。誤った情報に踊らされることなく正しく確実な方法で予防していきましょう。