お腹が痛い、その痛み胃潰瘍かもしれません。職場のストレス、日常生活のストレス、喫煙、飲酒、刺激物。現代人は多くのストレスの中で生活しています。こうした刺激は胃潰瘍を引き起こし得ます。今は胃潰瘍で死に至るようなことは稀ですが、胃潰瘍には胃がんが隠れていることもあります。

目次

胃潰瘍とは

胃潰瘍とは胃から分泌される胃酸やペプシンにより胃の粘膜とその下にある組織が溶かされてしまう病気です。粘膜を超え筋肉の層に達し、さらに胃を覆っている膜まで傷がつき最終的には胃に穴が開きます。夏目漱石は胃潰瘍で亡くなりました。今では胃潰瘍の多くは薬で治り、致命的になることも手術になることも稀です。しかし、放っておけば大量の吐血をしたり、穴が開いてしまったり(穿孔)します。腹膜炎を引き起こしショック状態になり、最悪の場合死に至ることもあります。

原因

主な原因はストレス」「ヘリコバクターピロリ感染」「NSAIDsと呼ばれる痛み止め」と言われています。これらに加え胃酸が分泌されることで胃潰瘍は悪化すると考えられています。NSAIDsとは痛み止めの種類で、病院などでは比較的よく処方されます。最近では「ロキソニンS」「バファリン」のように市販されているものもあります。

腹痛がありストレスが多い、痛み止めを使っているといった場合には胃潰瘍の可能性がありそうです。

症状

腹痛2

主な症状は腹痛(みぞおちあたりの痛み)吐き気嘔吐食欲低下血を吐く黒い便(タール便)が出る貧血症状体重減少などです。自覚症状が全くなく、検査をして指摘されるということもあります。

腹痛がある時の一般的な注意

NSAIDsを中止できる場合は服用をやめましょう。

飲酒や喫煙、コーヒーや辛い物などの刺激物はできるだけ避けましょう。

受診すべき時

腹痛や胃の違和感があれば、早めに日中の診療時間受診しましょう。夜間では十分な検査ができません。

血を吐いた場合には昼でも夜でも直ちに内視鏡治療のできる施設を受診します。様子をみている場合ではありません。救急車を呼ぶべき状態です。

黒い便が出た時も受診し、内視鏡検査を受ける必要があります。黒い便はタール便と呼ばれます。タールのように黒い便となります。血液の中に含まれているヘモグロビンが胃酸と反応すると黒くなるためです。これも胃から血が出ているというサインです。

胃潰瘍は動脈を傷つけていることがあります。動脈は静脈と違い、放っておいてもなかなか血が止まりません。胃カメラで見ると拍動しながら噴水のように血が噴出していることあります。

立ちくらみや動いた時の息切れがあるような貧血の症状があるときには受診しましょう。

男性の場合貧血となる主な原因は胃腸からの出血です。女性の場合、婦人科疾患以外では胃腸からの出血が主な原因となります。

体重減少がある場合には胃がんの可能性も考えられます。やはり早めの受診が望まれます。

受診時の流れ

待合室 (2)

胃が痛くなり受診してもいきなり胃カメラをすることは少ないです。

まず問診や診察、血液検査などを受けます。

胃から出血している可能性が低ければ、胃薬を処方され胃カメラの予約がなされます。

胃から出血している可能性が高い場合は緊急で胃カメラが実施され、入院となります。

検査

胃潰瘍の可能性を考えた場合には、胃カメラを行うことが危険と判断されるような場合(高齢であったり、ショック状態であるなど、医師が判断してくれます)を除き胃カメラをされるのがよいでしょう。処置を必要とする胃潰瘍だった場合、胃カメラであれば直ちに処置が可能です。先にバリウムの検査を受けると胃の中にはバリウムが残り処置が面倒になります。

胃カメラを行う理由

今、胃潰瘍は薬でほとんど治ります。治るのに胃カメラを行うのはなぜか。胃がんが隠れていないかを確認するのが主な理由です。

胃潰瘍は初期の胃がんや早期の胃がんと区別がしにくいことがあります。胃がんによって胃潰瘍ができていることもあります。胃カメラを行い、組織の検査を行うことで胃がんを見落とさないようにするわけです。

胃カメラは医師の腕に大きく左右されます。「苦しくない」検査も重要ですが、「正しく診断できる」医師に診てもらう必要があります。熟練した医師であれば見ただけでも胃がんか胃潰瘍か高い正答率で診断できます。組織の検査にしても胃潰瘍のどの部分から検査をするかによって結果が異なります。

医師の腕には「苦しくない検査」ができる能力と「正しく診断できる」能力の二つが求められます。

治療

薬物療法

治療では胃薬が使用されます。胃薬は大きく分けて1.胃酸の分泌を抑制 2.胃粘膜を保護の2種類があります。この時、使用する薬に対するアレルギーといった副作用などがなければ必ず1.胃酸分泌を抑制する薬剤の服用を行います。No acid, no ulcerという言葉があり、胃酸さえなければ潰瘍にはならないとされています。胃酸分泌抑制を行う薬には、ガスターやアバロンZでおなじみのH2 blockerというタイプとタケプロンやパリエットといったPPIと呼ばれる種類があります。胃酸分泌抑制の薬が開発されたことにより胃潰瘍での手術は大幅に減り、今では胃潰瘍で手術に至る例は非常に少なくなりました。

出血時の治療

出血している場合には胃カメラで止血のための処置を行います。貧血などがあれば輸血が必要になることもあります。

ヘリコバクターピロリ菌の検査と除菌

ヘリコバクターピロリ菌はノーベル賞学者のロビンウォーレン博士とバリーマーシャル博士により発見された菌です。ヘリコバクターピロリ菌の感染は胃潰瘍の大きな原因となります。また、ヘリコバクターピロリ菌の除菌により胃潰瘍の再発率は著しく低下します。ヘリコバクター学会のガイドラインでは胃潰瘍に対してヘリコバクターピロリ菌の感染が確認された場合には除菌が推奨されています。

除菌は数種類の薬剤を1週間服用するだけで可能ですが、副作用もあるので除菌可能な施設で診療を受けることが重要です。

最後に

いかがでしたか?今は薬で胃潰瘍は治ります。しかし、薬で症状が取れたとしても中断すると再発することもあります。「胃がん」が隠れていることもあるため検査はとても重要です。ピロリ菌が感染していると薬をやめた時の再発率が高い為、除菌の検討も必要でしょう。

胃潰瘍の為に命を落とすことも手術での治療も今の日本では稀です。薬の服用で治る時代になりました。しかし現代はストレスと無縁ではいられません。胃がんも日本では国民病と言われる病気の一つです。正しい知識で対応していきましょう。