NHKが2015年2月に放送したNHKスペシャル「腸内フローラ 解明!驚異の細菌パワー」以降、さまざまなメディアで「腸内フローラ」という言葉が取り上げられました。ここでは、これまでの医学が見落としてきた新たな臓器とも言われる「腸内フローラ」を解説しつつ、「おならが臭い」、「おならが止まらない」、「便秘が続く」、「下痢が止まらない」、といった症状で悩む方々の解決策を、医師・川本 徹先生による監修記事で解説します。

目次

腸内フローラとは

腸の中には、100兆個以上の細菌が住んでいます。

腸内細菌は、人間が食べたものをエサにして、互いに競い合い、助け合いながら生きる「生態系」をつくっています。その細菌の生態系のことを「腸内フローラ(腸内細菌叢:ちょうないさいきんそう」と呼びます。フローラはもともとラテン語の「花の女神」を語源とし、腸の中で花のように咲き乱れている 「お花畑」という意味があります。

腸内フローラのバランスを保つ2:1:7の法則

りんごとおなか

腸内フローラに生息している菌は、大きく善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3の菌に分類できます。

  • 善玉菌:糖をエサにして増殖する(発酵を促す)菌。人間の身体に有用な働きをします。
    →ビフィズス菌など
  • 悪玉菌:たんぱく質をエサにして増殖する(腐敗を促す)菌。腸の中を腐らせたり、有害物質を作ったりします。
    →大腸菌(有毒株)、ウェルシュ菌など
  • 日和見菌:どちらにも属さない大多数の菌。体調が崩れた時は、悪玉菌として働きます。
    →大腸菌(無毒株)など

腸内フローラの構成は、食習慣や年齢によって異なります。善玉菌が全体の20%になると健康な腸の状態が保てるため、善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7の割合が理想的です。

母体内の胎児の腸の中は、無菌状態に保たれています。生まれてからは母乳中の乳糖を栄養源として善玉菌のビフィズス菌が増え始めます。生後6ヶ月ほど経つと善玉菌が90%ほどを占め、その後加齢とともに徐々に減っていきます。

粉ミルクよりも、母乳で育った赤ちゃんの方がビフィズス菌の数がはるかに多く、悪玉菌の繁殖を抑えやすいことが知られています。

善玉菌ビフィズス菌の働き

ビフィズス菌は、腸の蠕動運動(腸の平滑筋が動くことで、腸内の食べ物を移動させる)を促し、お通じをよくします。また、エネルギーの代謝に必要不可欠なビタミンB群(B1・B2・B6・B12など)、ビタミンK葉酸などのビタミンを合成します。

悪玉菌ウェルシュ菌の働き

ウェルシュ菌は、肉食動物の腸内に多く棲息しています。腸内でこの菌が増えると、有害物質を出して腐敗をうながし、便秘や下痢、アレルギーなどの原因になります。この有害物質は血液によって全身に運ばれ、肌荒れや代謝不良の原因にもなります。

悪玉菌の割合は加齢とともに増加するので、注意が必要です。

ここからは、腸内フローラのバランスが崩れていることで起こる様々な症状について、詳しく見ていきましょう。

腹痛

おならが臭い

おならの成分は、窒素を主成分に、水素・炭酸ガス・メタンなどで構成されます。悪臭の原因になっているのは、ウェルシュ菌などの悪玉菌が作り出す、アンモニア・アミン・硫化水素・スカトール・インドールなどのわずかな成分です。腸内フローラのバランスが崩れ、悪玉菌が優勢になると悪臭になります。善玉菌が優勢になるとおならも便もにおわなくなり、過度に出ることもなくなります。

便秘

便秘の原因は人によって違いますが、大きく分けると器質性便秘(イレウス、大腸がん、腸管癒着などの器質的な原因で通過障害が起こるタイプ)と機能性便秘(病気由来ではないが大腸が機能低下を起こしているタイプ)の2種類です。

機能性便秘は、さらに以下の3種類に分けられます。

  • 弛緩性便秘:大腸の運動が低下し、水分が過剰に吸収されて硬くなるタイプ
  • けいれん性便秘:大腸の過緊張によって、便が運ばれずにコロコロとした便になる
  • 直腸性便秘:直腸に便がたまり、うまく排便できないタイプ

お通じが1週間に1~2回程度ありセルフケアできそうな場合は、下記の5つの解消法を試し、腸内フローラのバランスをとってみましょう。

便秘の5つの解消法

  • 野菜・果物・海藻を中心に水溶性食物繊維の多い食べ物を取り入れる
  • 朝一番に水を飲み、「胃・結腸反射」をうながす
  • 起床後、軽い運動や散歩で体を動かす
  • 便意があったら早目にトイレにいく
  • 気分転換を図り、ストレス緩和する習慣

※「胃・結腸反射」とは:就寝中は、大腸の動きが緩やかになっています。そこに食べ物が急に入ってくるとこれが刺激となり、大腸が便を直腸に押し出そうとするのです。

これでスッキリ!!便秘を解消するための11の方法」もあわせてご一読ください。

下痢

下痢は、腸の蠕動が過剰になったり、水分量の調整にトラブルが起きたりすることで、水分の多い軟便が排出される状態をいいます。腸内フローラの環境を整えることで、症状が改善する一助となります。

下痢の3つの原因

1.腸粘膜に異常な刺激を与えるものを摂取

  • 食中毒:細菌(病原性大腸菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオなど)、ウィルス(ノロ、ロタなど)
  • 食べ過ぎ、のみすぎ
  • アルコールやカフェイン
  • 辛い物
  • 冷たいもの
  • 乳糖不耐症のある人の牛乳(ただし、バター・チーズなどは乳糖をほとんど含まない。ヨーグルトはものによって乳糖が分解されている)

2.腸粘膜の病変によっておこるタイプ

  • 潰瘍性大腸炎、クローン病を代表とする炎症性腸疾患
  • 家族性大腸ポリポージスや大腸がん
    (これらは悪玉菌や日和見菌が原因となることが推測されています)

3.ストレスによる自律神経の働きが障害されて起こるタイプ

  • 過敏性腸症候群(IBS)
    これも、悪玉菌の関与が考えられる病気の一つです。

その他、「ツラい下痢が続く時の食事の摂り方~2種類の食物繊維に気を付けて!」もあわせてお読みください。

腸内フローラのバランスを保つための6つの食べ方

ランチョンマット

腸内フローラを構成する善玉菌と悪玉菌のバランスを保つことが、腸の健康には欠かせません。腸内細菌の働きや性質について、60年あまり研究を続けてきた「善玉菌」の名付け親でもある東京大学名誉教授の光岡知足氏が実践している食事法をご紹介します。

  1. 毎朝250~350グラムのヨーグルト季節の果物と摂取
  2. 1日3食リズミカル
  3. 夕食はご飯とみそ汁の和食を中心に食物繊維を多く含んだ根菜や海藻、発酵食品を取り入れる
  4. 肉類は週に1~2回にとどめ、魚を多めに
  5. 砂糖の代わりにビフィズス菌のエサになるオリゴ糖を摂る
  6. 根本的に治したい場合は、乳酸菌(薬やサプリメント)を活用する

まとめ

100 兆個以上の腸内細菌の集まりの「腸内フローラ」が、人間の体に大きな影響を与えていることが分かってきました。「おならが臭い」、「便秘が続く」、「下痢が止まらない」、などのお腹の症状で悩んでいる方が、腸内フローラのメカニズムを知ることで少しでも症状改善のきっかけとなることを心より願っています。