インフルエンザに罹ると高熱、倦怠感、咳などの症状を認めるだけではなく、肺炎などの合併症を起こす可能性もあります。合併症の中で最も重篤で、注意しなければならないのがインフルエンザ脳症です。ここでは、インフルエンザ脳症になった場合の治療法や後遺症の可能性についてまとめます。

目次

インフルエンザ脳症について

インフルエンザ脳症の症状と予防。合併症を防ぐために気をつけるべきことは?」にも書きましたが、インフルエンザ脳症は非常に重篤な合併症です。

インフルエンザウイルスの感染によって強い炎症が起こると、血管の障害や細胞を取り巻いている膜の障害を引き起こす炎症性サイトカインと呼ばれる物質が産生されます。その炎症性サイトカインの働きによって、脳がむくんでしまうこと(脳浮腫:のうふしゅ)がインフルエンザ脳症の原因と考えられています。

意識障害が最も特徴的な症状で、他にもけいれん・異常行動・嘔吐・呼吸や瞳孔の異常など、さまざまな症状を引き起こします。

インフルエンザ脳症の治療法は?

インフルエンザ脳症は急激に発症し、症状の進行が早いため、できるだけ早く診断・治療することが必要です。

治療は大きく2つに分けられます。

1つが全身の状態を保つための支持療法で、もう1つが原因となっているサイトカインを抑えるための特異的治療です。

支持療法

支持療法には、呼吸状態のサポート(酸素投与など)、血圧の管理(点滴など)、体温の管理、けいれんを止める・けいれんを予防するなどの治療が含まれます。

支持療法は全身の状態をサポートするための非常に重要な治療です。

特異的治療

特異的治療には、インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザ薬の使用血液中に多く産生されたサイトカインの働きを抑えるための薬剤の使用があります。サイトカインの働きを抑えるのに使用されるのは、ステロイドガンマグロブリンと呼ばれる薬剤です。

ステロイドは、他の病気で使用されるよりも相当に多い量を使用します。これをステロイドパルス療法といいます。

ガンマグロブリンは、血液中に含まれている炎症を抑える働きをする成分で、免疫に関与する抗体の多くはこの成分の中に含まれます。血液からガンマグロブリンの成分だけを取り出したものを投与して、サイトカインの働きを抑えます。

 

インフルエンザ脳症の治療はこの他にも、脳の温度を下げてサイトカインの影響を抑えることで脳への障害を軽減する方法(脳低温療法)や血液中のサイトカインを除去する方法(血漿交換療法:けっしょうこうかんりょうほう)などもあります。

特異的治療や脳低温療法・血漿交換療法などについては、どの治療が最も有効であるかなどについてはまだ研究段階です。

後遺症の可能性は?

手をつなぐ大人と子供

インフルエンザ脳症は死亡率も高く、後遺症が残る可能性も高い病気です。

厚生労働省が行った調査結果によると、死亡率は約30%で、25%で後遺症を認められたとのことです。後遺症には身体的な障害神経学的な障害があります。

身体的な障害としては、手足の運動麻痺や飲み込みの障害(嚥下障害)、視力障害、聴力障害などがあります。

神経学的な障害としては、てんかん精神発達の遅れ記憶障害などがあります。

いずれの症状も程度はさまざまですが、インフルエンザ脳症後に起こったてんかんは薬を使ってもコントロールすることが難しいことが多いと言われています。

後遺症が残った場合、てんかんなどには医療的なサポートも必要ですが、その他の後遺症には長期間に渡るリハビリが必要になります。医師・看護師・作業療法士・言語聴覚士などがチームでリハビリをサポートします。

また、医療関係者だけではなく、ソーシャルワーカーなどの福祉関係者、小学校の先生などの教育関係者、家庭などが連携してフォローアップをしていき、就学(就園)・復学(復園)などの社会的な復帰を目指します。

まとめ

インフルエンザ脳症は死亡率も高く、後遺症を残す可能性も高い非常に重篤なものです。少しでもその危険性を下げるためには、早期の診断と治療が必要です。インフルエンザ脳症の対する特異的な治療には多くの種類があり、どの治療の有効性が高いのかについてはまだ研究が進められているところです。

いずれにしても、インフルエンザにかかった時には常に意識状態には注意しましょう。少しでも意識がおかしいと感じた場合には、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。