“ハンセン病”という病気をご存じでしょうか。患者さんに直接会ったことはないという方でも、テレビなどで名前を聞いたことはあるかと思います。ハンセン病は現代では治療によって治る病気となりましたが、病気の原因や感染力については正しく理解しているとは言いがたいのではないでしょうか。今回は、ハンセン病の症状や原因について解説します。

目次

ハンセン病とは

らい菌の感染によって起こる慢性の感染症です。らい菌は皮膚や末梢神経で増えますが毒性の低い細菌なので、発病自体がまれです。らい菌に対して抵抗力の弱い人が繰り返し接触するようなことがなければ感染することはありません。“らい”という呼び方が差別や偏見を生むとして、“ハンセン病”と正式に改められました。

らい菌は結核菌と同じ抗酸菌です。末梢神経の中へ入って増えるため、手足の運動麻痺や知覚麻痺を起こします。末梢神経の次は、皮膚、粘膜へ広がり、適切な治療がされないと眼、鼻、喉などへと菌が広がります。らい菌は比較的温度が低いところを好むので、手足の先、頭、顔、鼻、眼などの衣服から出ているところに病気による変化が現れやすいと言えます。らい菌は、31℃前後で増殖して菌の分裂には約11日かかり、人間の体内でようやく生き延びることができる細菌であることが分かってきました。らい菌の毒性は非常に弱いため、生命が脅かされることはありません。

日本のハンセン病の患者数は?

日本でも新しい患者は毎年6名程度いる(日本人と在日外国人を合わせて)と報告されています。日本人の発病者の年齢はおおかた60歳以上で、20~30年前にらい菌に感染した人です。加齢や病気などにより免疫力が低下し、潜伏していたらい菌が活発になりハンセン病が発症したものと考えられています。外国人の発病者はブラジルやフィリピンからの労働者が目立ちます。

ハンセン病療養所の入所者や社会に復帰した人は治癒しているので、感染源になる人はいません。よって今後患者の数が増えることはないと考えてよいでしょう。ハンセン病療養所には平均年齢84歳の約1639人の元患者さんが今でも生活しています(27年12月31日現在)。入所者のほとんどは治癒していますが、後遺症による身体障害や高齢化などのために介護が必要になるので引き続き療養所に留まっています。

ハンセン病の症状は

ハンセン病2-写真
主に皮膚と末梢神経が侵される慢性の感染症です。赤い発疹ができたり、皮膚の一部が盛り上がったりと皮膚の症状は様々で、一見しただけでは診断することは難しいと言われています。かゆみはありません。また、末梢神経の障害が進むことによって、物をつかみづらくなったりすることもあります。知覚が低下して痛みや温度の感覚が鈍くなるために、気づかないうちにケガややけどなどを負うことがあります。診断や治療が遅れると指、手や足などが知覚麻痺を起したり、形が変わったりすることもあります。

ハンセン病は、感染症ではあるものの感染源となる未治療の患者がいなくなったので、実際に感染して発病することはまずありません。しかもらい菌の感染力は弱く、例えば乳幼児期に沢山のらい菌を頻繁に口や鼻から吸い込む以外はまず発病しません。感染した場合でも、身体の免疫機能、栄養状態、衛生状態、らい菌の数などの様々な要因が発病に関係するため、症状が現れるまでに数年から数十年かかり、発病をしないで一生を終えることがほとんどであると考えられています。遺伝する病気でもありません。

代表的な初期症状

顔や手足などの体温が低い所に皮膚の症状が現れたり、末梢神経が炎症を起こして熱い、痛いなどが感じにくくなるなどの知覚障害が出始めるのが、早期の症状とされています。この段階で治療を始めれば、ほとんど障害を残さずに治ります。

まとめ

ハンセン症は、らい菌が原因となって発症し、皮膚や末梢神経が侵される感染症です。皮膚の症状は様々で一見してハンセン病と診断することは難しいと言われています。末梢神経の障害が進むと物をつかむなどの行為が難しくなります。ハンセン病は感染症ではあるものの、感染源となる患者もいなくまた原因菌の毒性も弱いため、今後新たな患者が増えることは考えにくい病気です。特別な病気ではなく感染症の一つであるということを理解することが大切です。