胃・十二指腸潰瘍は、胃酸などの刺激により胃や十二指腸の粘膜に潰瘍(粘膜組織の欠損)を形成する病気で、何度も再発しやすいことでも知られています。

近年、胃・十二指腸潰瘍の発症にヘリコバクター・ピロリ菌の感染が関与していることが分かり、この菌を取り除く(除菌する)ことによって、再発しにくくなることが分かってきました。ピロリ菌の除菌療法を中心に、検査、診断、治療について詳しく解説します。

目次

胃十二指腸潰瘍とは

胃や十二指腸は、食べ物を消化する胃酸や消化酵素と、胃や十二指腸の粘膜を守る胃粘液との不均衡(バランスが崩れること)によって、粘膜に潰瘍を形成する病気です。胃・十二指腸潰瘍の主な原因は、過度のストレス痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)、そしてピロリ菌の感染といわれています。

なお、痛み止めと胃・十二指腸潰瘍の関連について、詳しくは記事「頭痛薬を常用している方へ!胃・十二指腸潰瘍に注意」をご参照ください。

ピロリ菌の感染を調べる検査と診断

顕微鏡を覗く人-写真

胃・十二指腸潰瘍の検査では胃カメラ又はバリウムを服用する胃透視検査が行われます。これらの検査は、胃や十二指腸に潰瘍があるかどうか、粘膜や筋層へどの程度病気が及んでいるかを目で見て調べるほか、組織の一部を採取して検査を行うことで、胃がんなど他の病気との鑑別のために行われます。

胃・十二指腸潰瘍の基本的な検査については、「ストレスでお腹が痛い!胃潰瘍を疑ったらどうすればいい?」の記事で説明しているので、この記事ではピロリ菌感染を調べる検査と診断について紹介したいと思います。

胃・十二指腸潰瘍の原因となるピロリ菌の感染を調べる検査は、大きくは内視鏡(胃カメラ)で行う検査内視鏡を使わない検査に分けられます。これらの検査を単独であるいは複数を組み合わせて診断は行われます。

内視鏡で行う方法

培養法

内視鏡で胃の粘膜を採取し、その中にあるピロリ菌を5~7日かけて培養する検査です。

迅速ウレアーゼ試験

内視鏡で採取した胃の粘膜をピロリ菌の持つウレアーゼという酵素に反応する試験液に加え、色の変化によってピロリ菌の有無を調べる検査です。

組織鏡検法

内視鏡で採取した胃の粘膜の組織標本を染色して顕微鏡で調べる検査です。ピロリ菌を顕微鏡で探す組織診断方法です。

内視鏡を使わない検査

尿素呼気試験法

尿素呼気試験は胃の中のヘリコバクター・ピロリ菌感染を調べる検査で、検査薬(13C‐尿素)を服用し、服用前後の呼気を袋に採取する検査です。

ピロリ菌に感染していると、菌が持つウレアーゼという酵素により尿素はアンモニアに分解され、13Cは二酸化炭素となって呼気中に多く検出されます。一方ピロリ菌に感染していない場合ではほとんど検出されません。

尿素呼気試験は食事の影響を受けるため、検査前4時間以上の絶食の上で検査を行います。

抗体測定

血液尿の中のピロリ菌に対する抗体(抗原であるピロリ菌に結合して排除しようとする分子)の存在を確認する検査です。

糞便中抗原測定

便の中のピロリ菌の抗原(ピロリ菌そのものの一部)を調べる検査です。

ピロリ菌検査の保険適用は

ピロリ菌の検査は胃・十二指腸潰瘍(過去に罹ったものも含む)や慢性胃炎、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、早期胃がんの内視鏡治療後の場合のみ、健康保険での検査を受けることができます。

これらに該当しない場合にも、全額自己負担で検査を受けることができます。

除菌治療とは?

治療薬-写真

胃・十二指腸潰瘍の治療は、症状や原因に応じて行われます。出血がある場合は、内視鏡を使って止血する治療が行われ、出血のない場合は薬物療法が行われます。さらにピロリ菌が確認された場合には、除菌治療を行います。

治療の手順

ピロリ菌の除菌は、

1次除菌→効果の判定→除菌できていない場合は2次除菌→除菌の判定

という流れで行われます。

まず胃酸の分泌を抑制する薬2種類の抗生物質の計3種類の薬を朝夕1日2回7日間服用します(1次除菌)。4週間後にピロリ菌の検査(主に尿素呼気試験)を行い、効果を判定します。

ピロリ菌が除菌できていない場合は、抗生物質の1剤を別のものに変更してさらに7日間服用します(2次除菌)。4週間後に再度判定試験を行い、効果を判定します。

高い成功率の除菌療法しかし除菌療法で注意すべきことも

除菌療法の成功率は1次除菌で75%、2次除菌まで含めると95%程度といわれています武田薬品工業株式会社より)。

しかし、除菌療法は多くの方に効果をもたらしていますが、完全な治療法ではありません近年、除菌成功率が低下していることが報告されており、その背景には除菌療法で用いる抗生物質(クラリスロマイシン)に対する耐性ピロリ菌の増加があります。

クラリスロマイシンはピロリ菌だけでなく、一般的な感染症に広く使用される抗生物質であり、既に胃の中に存在していたピロリ菌が耐性(薬に対する抵抗力)を獲得していったと考えられています。

こうした薬の耐性の問題のほかにも、薬をきちんと服用せず中途半端に中断した場合には成功率が低いとされています。また、中途半端な薬の服用は耐性を持ったピロリ菌を作る原因にもなります。現在除菌療法で使用されている薬は、飲み忘れを防ぎ確実に1週間服用できるよう包装形状も工夫されています。

また喫煙アルコールにより胃酸が過剰に分泌され、抗生物質が効きにくくなることから、除菌期間中(薬の服用期間~効果判定まで)は、喫煙やアルコール摂取を控えることが勧められています。アルコールによって以下で説明するような副作用も強く出る恐れがありますので、アルコールの摂取は中止してください。

除菌療法の副作用

除菌療法の副作用としてこれまでに報告されている主なものには、腹痛を伴う軟便や下痢味覚異常などがあります。また、アレルギー症状(かゆみや発疹)が出ることもあります。

味覚障害は通常3日ほどで改善し、その他も症状が軽い場合は除菌療法を続けながら経過をみましょう。ただし症状が悪化し、以下のような状態がみられた場合には、除菌療法を中断して主治医に連絡をしましょう。

  • 発熱
  • 下痢の悪化
  • 血便
  • アレルギー症状(かゆみや発疹)

まとめ

胃・十二指腸潰瘍の中にはピロリ菌の感染が原因となるものがあり、ピロリ菌を除菌することによって、再発を少なくすることができます。

しかし、除菌療法の効果も100%ではないので、除菌できた後も定期的な検査を受け、異常の早期発見に努めるようにしましょう。