血友病は、生まれつき血液凝固因子(血液を固めるタンパク質)が少ないため、血液が固まりにくい病気です。一般的にはあまり知られてはいませんが、代表的な遺伝疾患です。「血液の病気」というと、難しいイメージがあるかもしれません。この記事では、血友病の原因・症状・治療をまとめており、分かりやすく説明した内容となっています。記事を読んで、血友病の基礎知識を身につけましょう。

目次

血友病の原因は?

血友病の原因は、遺伝によるものが70%、突然変異で発症するものが30%です。男性に多く、1万人あたりに0.8~1人の割合で発症します。基本的に発症するのは男性のみですが、ごく稀に女性も発症することがあります。女性の血友病患者は全体の1%未満です中四国エイズセンターより)。

遺伝と発症の仕組みについて

  • 伴性劣性遺伝(X連鎖劣性遺伝)とよばれる遺伝形式で発症します。
  • 人間の性染色体は、男性(XY)女性(XX)に分かれます。X連鎖劣性遺伝は、X染色体の異常により発症します。
  • 女性は、X染色体のひとつに血友病遺伝子を受け継いでも、通常は片方のX染色体は正常です。片方のX染色体が正常の場合、発症はしません。このような女性を保因者(キャリア)とよびます。
  • 男性は、X染色体が1本しかないため、血友病遺伝子を受け継ぐと必ず発症します。
  • 母親が血友病の保因者の場合、その母親から生まれた男児は50%の確率で血友病を発症します。また、女児は50%の確率で保因者になります(ヘモフィリアねっとより)。
  • 基本的に男性が発症する病気です。稀に、血友病の父親と、血友病保因者の母親から生まれた女児が、血友病を発症することがあります。

血友病の種類

血友病A

先天的に血液凝固因子Ⅷが欠乏、または機能低下している病気です。

血友病B

先天的に血液凝固因子Ⅸが欠乏、または機能低下している病気です。

後天性血友病

近年注目されている病気です。血液凝固因子は正常ですが、後天的に凝固因子への自己抗体が生産され、血液凝固が機能しなくなる病気です。原因は不明で、発症率は100万人に1人程度と稀な病気です(ヘモフィリアステーションより)。以下のような方の発症が報告されていますが、これらの要素がなくても発症することがあります。

  • 自己免疫疾患(関節リウマチなど)の患者さん
  • 天疱瘡などの皮膚疾患の患者さん
  • 分娩後の方
  • がん患者さん(手術後を含む)
  • 薬剤(抗生物質など)投与後の方

血友病の症状とは?

血友病Aと血友病Bでは、大きな症状の違いはありません。どちらも、出血した時に血が止まりにくい・固まりにくい病気です。問題となるのは、血液が凝固しにくいため、二次止血が困難となることです。そのため、小さな傷や打撲でも大出血に繋がり、生命の危険が生じます。また、関節内や筋肉内など、体の深部の出血も多いことが特徴です。

また、後天性血友病でも出血が主な症状となります。強い衝撃を受けた覚えがないにも関わらず広範囲にあざがみられたり血尿が出たり、手足の広範囲に赤黒い腫れがみられたり(筋肉や関節の出血によるものです)と、様々な症状がみられます。

以下のような部位が出血しやすいといわれています。

  • 皮下(皮膚の下)
  • 関節内(肩、肘、太腿、足首、腰など)
  • 鼻の中
  • 歯肉(歯茎)の出血
  • 筋肉内(ふくらはぎの筋肉、腸腰筋) ※腸腰筋は、背骨・腰・足の骨をつなぐ筋肉です。
  • 歯科での抜歯や、外科手術による止血困難
  • 頭部(頭蓋内出血)

止血しにくい筋肉内出血・関節内出血や、生命の危険がある頭蓋内出血は特に注意が必要です。

血友病治療は?

血液検査-写真

血友病では、薬剤を用いた治療が行われます。凝固因子を含む製剤(凝固因子製剤)を投与することで、欠乏している血液凝固因子を補充し、出血の予防・出血時の止血を行います。

定期補充療法

現在は、定期的に血液凝固因子を補充する定期補充療法が一般的です。この治療は週に2~3回程度で、点滴を行うことで出血を予防することができます。家庭内で自己注射で行うことが可能です。

予備的補充療法

出血するリスクの高い時に、事前に点滴を行うことで、出血のリスクを回避する治療法です。主に、体育の授業、スポーツ、旅行などのイベントの前に行います。

出血時補充療法

出血したあとに、止血のために凝固因子製剤を投与する治療です。定期補充療法が普及するまでは、最も多く行われてきた治療法です。

血友病の治療の歴史

手と手-写真

1960年代

フランスのスリエ(J.P.Soulier)が第Ⅸ因子複合体製剤(PPSB製剤)を開発しました。この薬剤は、血友病B患者に欠乏している血液凝固因子Ⅸを含む薬剤です。この薬剤を、血友病B患者の血液中に投与することで、出血時の止血が可能になります。

また、プール(J.D.Pool)により、血液凝固因子Ⅷを含む血液製剤(クリオプレシピテート)が開発されました。人の血液を原料にし、血液から凝固因子Ⅷが含まれる成分を取り出して作られる薬剤です。

この薬剤により、血友病A患者に欠乏している凝固因子Ⅷを補うことができ、止血が可能になります。以後、クリオプレシピテート製剤を用いて、血友病Aへの治療が行われるようになりました。

日本でも、血友病患者への血液製剤への投与が開始されました。

1970年代

第Ⅷ因子濃縮製剤が開発されました。この薬剤は、血液凝固因子である第Ⅷ因子を高濃度に濃縮した成分を含みます。この薬剤を、第Ⅷ因子が欠乏している血友病A患者の血液中へ投与することにより、重度の止血が可能となりました。

また、第Ⅸ因子複合体製剤が日本でも一般化されました。これにより、国内の血友病B患者への治療も行われるようになりました。

1980年代

濃縮製剤を用いた自己注射が家庭で行われるようになり、血友病治療はさらに画期的となりました。1988年には、日本国内で高額だった血友病医療費が完全公費負担とされました。

しかし、血友病治療が国内で広がる中で、輸入された非加熱血液製剤による、HIV(エイズ)感染・C型肝炎感染が国内で問題となります。1980年代後半には加熱血液製剤が発売されます。しかし、非加熱血液製剤により、当時の血友病患者の4割がHIVに感染したとされています。ヘモフィリアねっとより)

1989年に、日本でエイズ予防法が成立されました。また、同年にはHIVに感染した血友病患者が国家賠償を求め「薬害エイズ訴訟」を起こしました。

1990年代

輸入された血液製剤による感染が問題となったため、1992年に日本赤十字社が国内献血による第Ⅷ因子製剤を販売します。また、1993年には、感染症のリスクのない遺伝子組換え第Ⅷ因子製剤が発売されました。

2000年代以降

現在では、ウイルスを不活化した血液製剤や、遺伝子組み換え製剤が用いられています。これにより、血液製剤による感染症は大きく減り、安全性の高いものとなっています。

現在の凝固因子製剤は?

現在では、以下のような凝固因子製剤が用いられています。

ヒト血漿由来製剤

献血された血漿(血液の成分)を原料にした製剤です。加熱処理や、紫外線照射など、各種の加熱処理を組み合わせており、高い安全性が保証されています。

代表的な製品に、クロスエイトMC、クリスマシンM、バイクロットなどがあります。多くは国内の赤十字血液センターで献血された血漿を原料としていますが、輸入製材(ファイバ)も使用されています。

遺伝子組み換え製剤

人間の血液を一切使わずにつくられた製剤です。遺伝子組み換え技術により、他生物の細胞から血液凝固因子を作り出します。国内では1993年から一般化されています。

代表的な製品にノボエイト、イロクテイト、オルプロリクス、ベネフィクスなどがあります。

まとめ

血友病は以前は不治の病とされてきましたが、医療の進歩と共に平均寿命も飛躍的に伸びてきました。しかし、その一方で薬害感染など多くの犠牲をはらってきました。現在では、定期的な治療を行うことで、普通の人と変わらない生活を送ることも可能となっています。