皆さんはGIST(ジスト)という病気をご存じですか?胃や腸(消化管)の壁(筋層)から発生する、比較的珍しい腫瘍(肉腫)のことです。胃がんや大腸がんなどといった、粘膜から発生する消化器がんとは違う病気です。

初期には症状があまりないため、進行した状態で発見されることも多く、肝臓に転移したり腹膜に広がったりすることがあります。

一方で、GISTに対する新しい手術方法や化学療法(分子標的治療薬)が導入され、予後(治療成績)が改善してきました。

今回は、GISTについて、その特徴と治療法について最近の話題も含めて解説します。

目次

GISTとは?

GIST(ジスト)とは、gastrointestinal stromal tumor(消化管間質腫瘍)の略で、消化管の粘膜の下にある「筋肉の層」から発生する腫瘍(いわゆる粘膜下腫瘍)です。その発生頻度は、10万人に1~2人と稀な病気ですが、検診などで見つかることが多くなっています。50歳代から60歳代に多く、発生部位としては胃が約70、次いで小腸が約20大腸と食道が約5となっています。

 

GISTは、消化管壁の筋肉の間にある神経叢(しんけいそう)に分布し、消化管の運動を調整する働きをもつ「カハールの介在細胞」の元となる細胞から発生します。またGISTでは、ほぼ全例でc-kit遺伝子という遺伝子の突然変異によるKIT(キット)蛋白の異常がみられ、これによって細胞が異常増殖を起こすと考えられています。

消化管の粘膜(一番内側の層)から発生する「がん」とは違った性質(病気の症状や進み具合)を持っており、また治療法も異なります。

GISTの症状

医療機器-写真

GISTは正常な粘膜の下にできるため、腫瘍が大きくなるまで自覚症状はほとんどありません。このため、診断が遅れることが多いといわれています。

GISTに特徴的な症状はなく、またGISTのできた部位(臓器)によって違った症状がでます。腫瘍がある程度大きくなってから見られる代表的な症状としては、出血(吐血や下血)腹痛(主に鈍痛や違和感)腹部の腫瘤(しこりを触れる)などがあります。持続性の出血によって貧血がみられることもあります。

しかし、実際にはがん検診でのX線造影検査や内視鏡検査などで偶然見つかることが大半です。また、他の病気の検査で行ったCTやMRIなどでたまたま診断されることもあります。

GISTの診断

GISTの診断は、消化管造影検査内視鏡検査、さらにはCT、などで行います。また、GISTの診断や悪性度の評価にPET検査が有効との報告もありますが、保険適応ではありません。

最終的な診断は、組織生検(組織の一部をとって顕微鏡で観察)を行い、特殊な蛋白を染める免疫組織染色(めんえきそしきせんしょく)という方法でKIT蛋白の発現を確認することで確定します。

GISTの治療

GISTの治療法は、その大きさによって決定します。

まず、2cm未満の小さなGISTでは、経過観察(定期的な検査)が行われます。2cm以上のGISTに対しては、手術ができる場合には外科切除が第一選択となります。特にGISTの場合は、完全切除ができれば他の消化器がんと比べて比較的治癒率が高いことが知られています(完全切除例の5年生存率は50%以上と報告されています)。

 

手術には、お腹を切開して行う開腹手術と小さな穴から行う腹腔鏡手術があり、腫瘍の大きさや場所などによってどちらかを選択します。一般的に、腫瘍が比較的小さな場合(例えば5cm以下)には腹腔鏡手術が選択されますが、腫瘍の部位によっては難しいこともあります。また最近では、胃の内側に出っ張っているGISTに対して、腹腔鏡と内視鏡を組み合わせた最先端の手術である腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS:レックス)を行う施設も増えてきました。

 

切除ができない場合や再発したGISTに対しては、「分子標的治療薬」による薬物治療が行われます。分子標的治療薬とは、腫瘍細胞が持っている特定の分子(遺伝子やタンパク質)をターゲットとして、その部分だけに作用するよう開発された薬です。腫瘍細胞だけを狙って攻撃するため、従来の抗がん剤と比べて正常な細胞に与えるダメージが少ないと言われています(詳細は、「新しい抗がん剤、分子標的治療薬ってどんなくすり?副作用は本当に少ないの?」をご覧ください)。

 

具体的には、GISTの治療として最初に用いられる分子標的治療薬はイマチニブ(グリベック)です。イマチニブが効かないGIST(イマチニブ耐性GISTといいます)に対しては、スニチニブ(スーテント)が用いられます。さらにこれらの薬が効かない場合には、レゴラフェニブ(スチバーガ)による治療を行います。これらの薬はチロシンキナーゼ阻害剤やマルチキナーゼ阻害剤と呼ばれ、KIT蛋白の働きを分子レベルで阻害することで、腫瘍の成長を抑えようとするものです。

 

これらの分子標的薬による治療は、切除を行った患者さんの中で再発リスクの高い人にも行われます。GISTの再発は3年以内に多くみられますが、10年間は観察が必要といわれています。お腹の中に再発することが多く、局所再発(元々腫瘍のあった場所に再発)のほか、腹膜播種(お腹の中に広がること)や肝臓への転移がしばしばみられます。

まとめ

GIST(消化管間質腫瘍)とは、消化管の筋層から発生する粘膜下腫瘍の一種で、主に胃や小腸に発生する比較的まれな腫瘍です。初期には症状に乏しく、比較的大きくなると出血、腹痛、腹部腫瘤(しこり)などの症状がみられることがあります。多くは検診などで偶然発見されます。治療の原則は手術による完全切除ですが、切除ができない場合や再発例では分子標的治療薬による治療が行われます。