日々パソコンやスマートフォンなどを操作していたり、机に向かって作業をしたりしていると、体のどこか痛んでくることがありませんか?背中が痛いけどこれは肩こり?それとも他の原因の痛み?分からなくなりますよね。普段は見過ごしがちな背中の痛みですが、実はその裏には重大な病気が潜んでいることもあります。気を付けなければいけない背中の痛みについて解説します。
背中が痛いというと…肩こりかな?
背中の痛みの原因として、まず思い浮かぶであろうものが肩こりです。首筋・首の付け根・肩・背中にかけて張る、凝る、痛みを感じるといった症状がでます。これらに加えて、頭痛や吐き気を伴うこともあります。
原因としては同じ姿勢でずっといる・姿勢が悪い、冷房などで冷える、運動不足、ストレス、首や背中が緊張するような姿勢での作業が影響してきます。つまり、座りっぱなしでパソコンやスマートフォンを見つめているとこの症状が起こりやすいのです。
背中の痛みの原因が肩こりである場合、首の後ろから肩や背中にかけてある僧帽筋という筋肉が中心となって痛みを引き起こしています。僧帽筋が緊張状態になると、頭の後ろにある後頭筋や側頭筋という筋肉にもその緊張が伝わるため、肩こりや背中の痛みに加えて頭痛を引き起こすこともあるのです。
もしかして他の病気かも…?
背中の痛みとして、通常とは異なる痛みを感じたときには、以下の病気の可能性もあります。ご自分の背中の痛む場所と下図を照らし合わせて、番号の先の部分もご参照ください(画像はクリックまたはタップで拡大してご覧ください)。
背中の痛みが内臓にある場合、膵臓や腎臓の病気を患っているおそれがあります。
膵臓は胃の裏側にある、およそ15cm程の長さの臓器で、消化酵素の一つであるすい液や血糖値を下げるインスリンの分泌といった重要な働きを担っています。腎臓は腰のあたりにある、そら豆のような形をした2つの臓器で、血液をろ過することで体内に老廃物を排出したり、血圧の調整や血液づくりをしたりと、こちらも身体にとっては欠かすことのできない臓器です。
この他にも、心臓や他の臓器が原因となっている場合もあります。上記の図で示した部位ごとに見ていきましょう。
急性すい炎(1)
症状としては、お腹から背中に突き抜けるような痛み、立っていられないほどの激痛が起こります。この痛みは短時間ではなく持続し、だんだん痛みが強くなり数時間後にピークに達します。背中の痛みだけでなく腹痛も起こり、身体を反らすと痛みが強くなるため、前かがみの姿勢になってしまうことが多いです。背中の痛み・腹痛に加えて吐き気や嘔吐、37~38度の発熱といった症状も見られます。
痛みを感じる場所は、上腹部(おへその上あたりみぞおちの下)とその背中側です。
急性すい炎の原因の半分以上は、胆石症やお酒の飲み過ぎによるといいます。また、高脂血症や事故による膵臓の損傷なども原因となりえます。急性すい炎は軽症であれば完全に回復し、膵臓の機能に障害が残ることもありませんが、根本的な原因を取り除かなければ再発する可能性が高いです。さらに、重症例は致命的となることもあります。
膵臓がん(2)
初期症状はほとんどないことが多いですが、腹痛や背中の重苦しさが出ることもあります。これに加えて、便通不安定や食欲不振や血糖値の上昇がみられることもあります。病気が進行してくると黄疸(皮膚や目が黄色くなること)・腹部や背中の持続する痛み・吐き気や嘔吐・体重減少・腹水なども起こります。
慢性すい炎(3)
みぞおちから少し下後ろ当たりで、へその上部分の背中に抜けるような痛みが慢性的に起こります。痛みの程度は、激痛から鈍痛までありますが、鈍痛が2~3日続くこともあります。食事の後に痛むことが多いです。病気が進行すると、背中と腹部の痛みは軽減していきます。
痛みの他には、下痢や軟便といった便の異常、体重減少が起きたり、糖尿病や悪性腫瘍を併発したりといったこともあります。しかし、背中の痛みをはじめとする自覚症状はそれほど大きくないため、早期発見が困難な病気の一つです。
急性すい炎のように激しい痛みが起きるというわけではありませんが、少しずつ膵臓が衰えていき、急性すい炎と違ってその機能が元に戻ることはありません。発症した場合、しっかりとした治療や、定期的な受診・検査が必要となります。
腎孟腎炎(じんうじんえん)(4)
片方または両方の腎臓に起こる細菌感染症のことをいいます。腎盂とは腎臓内の尿がたまる部分で、この部分まで炎症が起こってしまった状態です。
症状は、発症した腎臓の側の背中や腰の痛みに加え、高熱や膀胱炎の症状(残尿感、頻尿、血尿・白濁尿)が起こります。
腎結石、尿管結石(5)
腎臓や尿管に石ができてしまう病気で、中年以上の男性に多くみられます。
非常に小さな結石の場合は、何の症状も現れないことがあります。しかし、尿管や腎盂を結石が塞いでしまった場合は背中や脇腹、腰、下腹部の痛みが生じます。他に、血尿や吐き気・嘔吐、発汗などがみられることもあります。
狭心症(6)
心臓の周りを取り囲んでいる冠動脈という部分の血流が不足して起こる病気です。よくある症状としては左前胸部に圧迫されたような痛み、そのほかに胸部正中・背中の特に左肩部分の痛みが出ることもあります。痛みの長さとしては数分から数十分とされています。
急性大動脈解離(7)
大動脈の内側の壁が裂けてしまう病気です。突然、胸や背中(肩甲骨の間)に激しい痛みが起こることが特徴です。解離が広がるにつれて痛みが身体の下部へと移動していくため、腹痛や腰痛も生じることがあります。
痛みの他には、意識消失・麻痺などが起こります。また、心筋梗塞や脳梗塞、腎不全といった合併症を引き起こすこともあります。
心筋梗塞(8)
冠動脈の血液の流れが止まってしまい、そのまま流れなくなることから起こる病気です。
前胸部の中央に締め付けられるような痛み、他に左肩や左上腕部分、肩甲骨の間などが痛みます。これらの発作は、30分以上続くとされています。痛みに加えて、圧迫感・吐き気・冷や汗・呼吸困難といった症状も出ます。
十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)(9)
十二指腸にできた潰瘍(消化器官の壁が様々な原因により傷つけられ、削れてしまっている状態のこと)のことをいいます。
右上腹部や背中の右肩部分が痛むことが多く、圧迫感や鈍痛、疼痛(とうつう:焼ける・刺すような痛みのこと)とさまざまな種類があります。進行状態によっては、激痛が起こる場合もあります。
胆石症
肝臓から分泌される胆汁が石のように固まったものを胆石といい、この胆石が痛みなどの症状を引き起こした場合のことを胆石症といいます。みぞおちから右上腹部の痛みに加え、腹痛、発熱、黄疸といった症状がみられます。また、背中や右肩にも痛みが出ることがあります(痛みの箇所は一部に限定されません)。ただし、胆石を持っていたとしても、半分以上の人は無症状だといいます。
骨筋肉系
背中の痛みを引き起こすのは、内臓ばかりではありません。背骨をはじめ、骨や筋肉の病気が原因になっていることもあるのです。下記のような症状が出たら、整形外科へ相談することをおすすめします。
椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ)(10)
背骨と背骨の間の椎間板という部分が、外に飛び出した時に神経を圧迫して痛みを引き起こす病気です。悪い姿勢での作業や喫煙などによって、起こりやすくなります。
椎間板が飛び出してしまった部分には、激しい痛みやしびれが起こります。腰だけでなく、背中にも凝りや痛みを生じることがあります。
骨粗しょう症(11)
骨が折れやすくなる・もろくなる病気です。病気自体は痛みを引き起こしませんが、骨がもろくなったことによる圧迫骨折などで背骨が折れてしまった際、折れた部分に非常に強い痛みを生じます。
骨粗しょう症は自覚症状が少ないため気づきづらい病気ですが、以下をはじめ、様々な事柄が原因となって起こります。
- 加齢
- 閉経
- 遺伝
- カルシウム不足
- ビタミンD不足
- 日光浴不足
- 運動不足
- 喫煙、飲酒、カフェイン
- 塩分・糖分の摂り過ぎ
- ストレス
- 薬剤(ステロイドの長期内服)
脊髄腫瘍
脊髄の内部や周囲に発生する、良性・悪性を含めた腫瘍のことです。症状としては、腫瘍の発生部位に応じた背中の痛みや、筋力の低下、身体の特定部位の感覚消失などがみられます。痛みは脊髄や神経根が圧迫されることによって起こり、動く・動かないにかかわらず痛み、横になると悪化します。病気が進行するにつれて、痛みはだんだんとひどくなります。
まとめ
背中が痛いと一口に言っても、様々な原因が存在しています。ただの肩こりだと思っていたら、実は内臓の疾患だったということもあります。
背中の痛みには重篤な疾患が隠れていることが多いため、内科医は「背中が痛い」という訴えには慎重になります。異常を感じた場合、この痛みは肩こりだから大丈夫だろうと考えずに、早めに医療機関を受診したほうがよいでしょう。