みなさんは、血管性認知症という言葉を聞いたことがありますか?認知症は高齢者やその家族にとってはかなり身近なものといえますが、血管性認知症という言葉を知っている方はそう多くはないかもしれません。今回は、この血管性認知症がどのような病気なのかについて詳しく解説していきます。

目次

そもそも認知症って?

本題である血管性認知症について説明する前に、認知症とは何かという点について簡単に説明しましょう。

そもそも認知症というのは、認知機能が後天的な脳の障害によって低下してしまうことをいいます。ここでいう「認知機能」とは、記憶だけではなく、思考、理解、計算、学習、判断などの様々な脳の機能を指します。

例えば、アルツハイマー型認知症というのは、「アルツハイマー病によって認知機能が低下した状態」という意味になります。

血管性認知症とは

血管性認知症とは、「脳血管障害が原因で認知機能が低下した状態」を指します。脳血管障害というのは脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血などのことです。

血管性認知症は、日本ではアルツハイマー型認知症に次いで二番目に多くみられる認知症で、決して珍しい病気ではありません。また、アルツハイマー型認知症と合併する場合もあり、混合型認知症(アルツハイマー型認知症+血管性認知症)といわれます。

血管性認知症の原因

血管性認知症の主な原因は脳梗塞脳出血くも膜下出血などの脳血管障害です。1回の脳血管障害で認知症が生じることもあれば、複数回くり返して徐々に認知症が悪化していくこともあります。

特に脳梗塞(脳の血管が詰まることで脳細胞が死んでしまう病気)による血管性認知症の頻度は高いといわれています。

大きな脳梗塞だけではなく、細い血管の動脈硬化が原因で生じる小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)が多発した場合も認知症の原因となります。

血管性認知症の症状

家事
脳は部位によって担う機能が異なるため、脳のどこに脳血管障害が生じるかによって症状が異なります。血管性認知症も脳血管障害の程度や場所によって症状が異なります。

物事によってできることとできないことがあったり、日によってできるときとできないときがあったりします。このような状態をまだら認知症と表現することもあります

血管性認知症はアルツハイマー型認知症に比べて記憶障害そのものの程度は軽いと言われています。一方で、前頭葉の機能が低下することが多く、遂行機能障害(物事を順序立てて行うことができなくなる)や感情失禁(感情のコントロールができなくなり、感情の起伏が大きくなる)、歩行障害などの症状が出現することがあります。

また脳血管障害の部位によっては、失語(喋りたいのに言葉が出てこない、言葉が理解できない)、失行(麻痺がないのに一定の運動行為ができない)、失認(視えているのに対象の認識ができない)などのさまざまな高次脳機能障害を伴う可能性があります。

血管性認知症の診断

血管性認知症の診断基準はいくつかありますが、要点として

  1. 認知症があること
  2. 脳血管障害があること
  3. 脳血管障害の後に、認知症が出現している
  4. 認知症が突然発症した、もしくは階段的に増悪している

の4つがあげられます。血管性認知症はアルツハイマー型認知症と症状がよく似ている場合もあり、また両者が合併している場合もあるため、区別するのが難しいと言われています。特に脳血管障害があってもそれが認知症の原因になっているかどうかの判定には明確な基準がなく、診断を確定しにくいともいわれています。

血管性認知症の診断には、認知機能(神経心理学的)検査画像検査が必要です。

認知機能検査では見当識(時、場所、人の認識)や記憶、遂行機能などの高次脳機能を評価します。短時間で終わる簡易的なものもあれば、長時間を要する詳細なテストもあります。画像検査としてはCTやMRIなどを用いて、脳血管障害の有無、脳萎縮の有無などを確認します

脳血管障害の部位と症状との関連性脳血管障害と症状との時間的前後関係から血管性認知症の可能性があるかどうかを判断します。

血管性認知症の治療と予防

血管性認知症そのものに対する有効な治療法はありません。脳血管障害を発症しないための予防的治療が重要です。

脳血管障害を予防するためには、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の管理が重要です。どれも喫煙、運動、飲酒などの生活習慣に気をつけることによってある程度予防・改善することができ、生活習慣の改善のみで良くならない場合は薬による治療も必要になります。

血管性認知症に罹患してしまった場合は、向精神病薬などによる対症療法が主な治療となります。またアルツハイマー型認知症が合併している可能性がある場合は、アルツハイマー型認知症の治療薬を使用します。しかし最近では血管性認知症単独に対してもアルツハイマー型認知症の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体阻害薬が有効であるとする意見もあります。

まとめ

血管性認知症はアルツハイマー型認知症に次いで、二番目に多い認知症です。主な原因は脳梗塞、脳出血くも膜下出血などの脳血管障害で、脳血管障害を予防することが最も重要です。そのためには生活習慣病にならないよう、日々の生活習慣の見直しが大事になってきます。