皆さん、寄生虫と聞くととても小さな生き物を想像するのではないでしょうか?しかし、なかには皆さんの想像を超えたとても大きな寄生虫も存在します。その代表的な例が回虫です。近年は衛生設備の向上などによってあまり見られなくなりましたが、感染例もしばしば報告されています。ここでは回虫症について正しく理解しておきましょう。

目次

回虫ってどんな寄生虫?

回虫は線虫という寄生虫の仲間の一つです。線虫と呼ばれているとおり、白く細長いからだをしています。オスと比較してメスのからだは非常に大きく、時に体長が40cmを超えることもあります。目黒の寄生虫博物館などで回虫の標本が実際に展示されていますが、初めて見た人はあまりの大きさに言葉を失ってしまうでしょう。
また、寿命も約1年と寄生虫のなかでは比較的長く、メスは一日に最大約24万個もの産卵することもあって一度体内に寄生すると自然に死滅することはなかなかありません。

回虫にはどうやって感染するの?

回虫は一般的に、糞便で汚染された土のなかに生息しています。糞便を肥料として利用している田畑などで感染するケースがしばしばみられます。田畑での農作業で手に付着した回虫の卵が、気づかぬうちに口内に入り込むことで感染するのです。また、回虫の卵が付着した野菜などを洗わずに食べることなどでも感染するとされています。

回虫に感染するとどうなるの?

回虫症-写真

回虫に感染したからといっていきなり体調を崩すわけではありません。からだに入った回虫の数が少ない場合、実際に症状を示すことは少ないとされています。ですが、一度に多くの回虫の卵を口に含んでしまったり、体内で回虫が大量に繁殖してしまった場合は体調を崩してしまうこともあります。

なお、基本的には症状を示すようになったとしても命に関わるような重い状態になることはありません。回虫がつらい症状を引き起こすようになるのは、回虫が肺や腸に侵入してしまったときです。それぞれのケースについて確認していきましょう。

肺に寄生した場合

口から入った回虫の卵は腸まで運ばれて幼虫になります。その幼虫が腸管から血液中に侵入し、血液によって肺まで運ばれると、肺の組織や気管支を傷つけ、結果として、胸の不快感などを引き起こします。また、肺に寄生虫が侵入すると好酸球という白血球の一種が増殖し、肺炎になることもあります。

腸に寄生した場合

肺に寄生した幼虫は、気管をさかのぼって食道に侵入し、胃や十二指腸を経て再び腸に戻ってきます(このように体の同じ場所をぐるぐる回ることから回虫と呼ばれているんですね)。腸に再び戻ってくるころになると、幼虫はかなり成熟しており、腸内の栄養分を利用してさらに大きくなります。この際問題になるのは、成熟した大きな回虫が腸の管のなかで詰まってしまうことです。一度回虫が詰まってしまうと、腸閉塞となったり腸の壁に負荷がかかって穴が開いてしまう(穿孔)こともあります。特に、腸の管内が狭い小児では注意が必要です。

回虫に感染してしまったらどうするの?

「回虫に感染したかも」と始めから疑って病院を受診する人はほとんどいないでしょう。上記のような症状があらわれたときに、精密検査をした結果回虫が原因であるとわかるケースがほとんどです。
みられた症状に応じた診療科を受診します。例えば咳が出るようであれば呼吸器内科、腹痛がみられるようであれば消化器内科に相談しましょう。

治療ですが、回虫も寄生虫の一種であるため、抗寄生虫薬を利用するのが一般的です。抗寄生虫薬のなかには妊婦さんに悪影響を及ぼすものも少なくないので、妊娠の疑いがある際にはきちんと伝えるようにしましょう。なお、腸内が回虫で完全に詰まってしまっている場合など症状が重いケースでは手術が行われることもあります。

まとめ

始めに触れたように、近年日本国内での回虫による感染の報告は少なくなってきております。ですが、回虫を含む様々な病原体による感染を防ぐためにも、農作業やガーデニングのあとはきちんと手洗いを行う習慣をつけることが大切です。