溶連菌(ようれんきん)という感染症はご存じでしょうか?お子様のいらっしゃるご家庭では保育所や幼稚園、学校などで流行することもあり、耳にすることの多い病気でしょう。溶連菌は、発熱やのどの痛みを主症状とする急性咽頭炎のほか、膿痂疹(とびひ)や猩紅熱(しょうこうねつ)を起こす病原菌でもあります。また、無治療の場合、溶連菌感染症に罹った後に稀に重篤な病気を引き起こすこともあり、注意が必要な菌でもあります。ここでは、溶連菌が起こす病気や症状、溶連菌による咽頭炎と風邪との違いなどについてお話ししたいと思います。

目次

溶連菌とは?

溶連菌の正式名称は「A群溶血性レンサ球菌」で、省略して溶連菌と呼ばれています。
この菌は、下記のように様々な病気を引き起こすことが知られています。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

突然の発熱とだるさ、喉の痛みを発症し、高熱や喉の腫れなど風邪とよく似た症状を起こします。
体や手足に小さくて赤い発疹が出たり、舌にイチゴのようなツブツブができるイチゴ舌と呼ばれる症状が出る場合もあります。嘔吐や下痢といった胃腸症状を起こす場合もあります。

3歳未満の場合、あまり熱が上がらなかったり、症状が風邪と見分けがつきにくかったりすることもあります。

猩紅熱

咽頭炎と症状は似ていますが、発熱し始めてから12~24時間すると、体や手足に小さくて赤い発疹が出てきます。

通常、顔には発疹はみられませんが、おでこと頬が紅潮します。
また、舌が全体的に白い苔がついたようになり、その後イチゴ舌の症状が出ることがあります。

発疹は1週間ほどで治まり、その後日焼けの後のように剥がれ落ちます。

伝染性膿痂疹(とびひ)

あせもや虫刺され、湿疹などをひっかいたり、転んでできた傷に溶連菌が感染することで発症します。
感染部位が赤く腫れた後、黄色い浸出液を伴ったかさぶたのような状態になります。

この浸出液が他のところに付くと、その箇所にもとびひとしてどんどん広がるので、とびひ部分を触らないようにする必要があります。

丹毒

とびひよりも皮膚の深い部分(真皮)に溶連菌が感染した状態で、突然の悪寒と発熱を伴って、顔や下肢に浮腫性の紅斑(ぶよぶよした赤い腫れ)が出現します。

紅斑は押すと痛み(圧痛)があり、急速に拡大していきます。発熱のほか、嘔吐を伴う場合もあります。

蜂窩織炎

丹毒よりもさらに皮膚の深い部分(皮下組織)に溶連菌が感染した状態で、顔面や四肢(特に下肢)に境界不明瞭な紅斑と腫れ、痛みと圧痛と共に発熱、頭痛、悪寒、関節痛などの症状を伴います。

重症化すると、壊死性筋膜炎や敗血症などの命に関わる病気へ発展する場合があるため、早期の受診が必要になります。

このほか溶連菌は、中耳炎や肺炎、髄膜炎などの炎症性疾患を起こすこともあります。

治った後も要注意

溶連菌の注意すべき点は、上記のような病気を引き起こした後、リウマチ熱や糸球体腎炎を引き起こす可能性があることです。

これらを予防するには、最初の溶連菌感染症にかかった際に処方された抗生物質を既定の日数内服し続け、溶連菌が残らないように退治するということが重要です。
熱が下がったからと内服を自己判断で中止することは絶対にやめましょう。

リウマチ熱

溶連菌を殺傷するためにできた抗体は、溶連菌を見分けるための目印を覚えていて、その目印を持ったものを「溶連菌だ!」と判断して攻撃します。

ですが、ある特定の溶連菌の目印は心筋や心臓弁・滑膜とよく似た構造を持っているため、抗体が溶連菌と間違えて自分の身体を攻撃する場合があります。

それによって関節炎や心臓の炎症、皮下結節(こぶようなしこり)、輪状紅斑(平らで縁のみ少し盛り上がったような皮疹)、舞踏病(神経系の炎症により、筋力低下や手足が勝手に動いたり、けいれんが見られたりする状態)などを引き起こすのがリウマチ熱です。

心臓の炎症によって弁膜症(心臓にある弁がうまく閉じなくなったり、狭窄した状態)や心不全を起こす場合があり、重症な場合には命に関わります。

溶連菌感染後2~4週間後に、関節痛や高熱、胸痛、筋力の低下、けいれんや手足が勝手に動くなどの症状が見られた場合にはすぐ小児科を受診しましょう。

糸球体腎炎

溶連菌を殺傷するために抗体が作られますが、溶連菌と抗体が結合した塊を作ることがあり、これが処理しきれずに腎臓の糸球体(フィルターの役目のある器官)にひっかかり、そこで炎症を起こした状態を糸球体腎炎といいます。

血尿・むくみ、尿量低下、血圧上昇による頭痛などが主な症状で、溶連菌感染症が完治した後1~2週間後に発症する場合があるため、注意しておきましょう。

色だけでは血尿と分からない場合もありますので、おしっこの量が減ったり、しんどさや頭痛、むくみ、吐き気などを訴えたりした場合には小児科を受診しましょう。

溶連菌による咽頭炎と風邪との違い

熱

軽い風邪だと思ったら、その後にリウマチ熱や糸球体腎炎になり、後からあれは風邪ではなく溶連菌感染症だったとわかるケースもあります。
最初に風邪と思い込まず、病院を受診して治療を受けていればリウマチ熱や糸球体腎炎を防げたかもしれません。

溶連菌による咽頭炎と風邪の違いとして下記が挙げられますので、参考にしてみてください。

なお、3歳以下の場合は、症状の出方がはっきりしない場合が多いので、風邪かな?と思ったら小児科を受診するのが確実です。

発疹

発熱と同時に、手足やからだ、顔に小さな赤い発疹が表れた場合、溶連菌などの病気が疑われます。特に脇や肘、股関節などの曲がる部分に出やすいとされています。

イチゴ舌

舌にツブツブができるイチゴ舌は溶連菌の特徴的な症状です。溶連菌以外では川崎病などでも起こる場合があります。

のどの奥の紅斑

溶連菌の場合、口を大きく開けてもらって喉の奥を見ると、口蓋垂(のどちんこ)やその周辺に赤く小さな点々がみられる場合があります。のどの奥(咽頭)が、ステーキのような模様で赤く見えることが多いです。

咳や鼻水の症状が少ない

通常の風邪では鼻水といった症状がよく出ますが、溶連菌ではその症状は少ない場合が多いです、

まとめ

子供の発熱は、さまざまな病気の可能性があり、適切な治療を早めに受けることでその後の経過が大きく変わってくる場合があります。

今回ご紹介した溶連菌感染症も、早期に診断して抗生物質の投与など適切な治療を受けることで、その後にリウマチ熱や糸球体腎炎などの重篤な状態を引き起こす可能性のある病気の発症を防ぐことができます。

特徴的な症状をご紹介していますが、症状の出方には個人差があるため、いつもとなにか違うなと感じたら早めに小児科を受診して、経過を正確に伝えることが重要になります。

お子さんの変調に気付けるのは、両親や一緒に住んでいる家族です。
現在流行している病気の特徴や症状などの情報は耳や目に入れるようにすると、もしもの時にすぐ気づけるかもしれません。
お子さんの病気にすぐ対応できるよう、ご家族で情報の共有をすることをおすすめします。