腎臓にある「糸球体」は、心臓から送り出される血液から、老廃物をろ過して、血液をきれいにし、同時に尿の元をつくる働きがあります。
「急性糸球体腎炎」は、溶血性連鎖球菌などの細菌によって、糸球体が炎症を起こし、血尿やタンパク尿が出る病気です。
一般的に子供に多く見られる症状で、小児に限ってはほとんどの患者が完治しています。
季節を問わず、特に「子供」は気をつけて
糸球体は腎臓にある毛細血管が「糸玉」のような球状に集まった組織です。
1つの腎臓に約100万個(腎臓は2つあるため、合わせて約200万個)あるといわれ、腎臓に送られてくる1日約200リットルの血液から、血球成分(赤血球や白血球など)とタンパク質以外をろ過して、原尿(尿の元)をつくる働きがあります(日本慢性腎臓病対策協議会より)。
その糸球体が、細菌によって炎症が起きるものが「急性糸球体腎炎」です。急性腎炎とも呼ばれます。
血尿・タンパク尿、むくみ、一過性の高血圧がおもな症状です。4~10歳までの子供が喉の病気が完治したあとに発症しやすいのが特徴です(全国腎臓病協議会より)。
溶連菌による感染症は冬に増加しますが、それ以外の季節であっても、一年中起こり得る感染症です。
糸球体の炎症は、次のような流れで起こると考えられています。
- 外から細菌が侵入してくると、体は免疫反応を起こす
- 細菌に競り勝つための攻撃細胞として「抗体」が作られる
- 通常であれば、この時点で細菌は殺傷される
- ところが、抗体が細菌と結合して複合物(免疫複合体)を作ることがある
- 通常、免疫複合体は、食細胞(細菌や異物などを飲み込んで消化する細胞)によって処理される
- しかし、処理されない免疫複合体は、血液にのって腎臓に運ばれ、糸球体のろ過フィルタにかけられる
- フィルタ(網目)に、細菌を含む免疫複合体が沈着して糸球体は炎症を起こす
「免疫複合体」とは
外から細菌などの異物が侵入するとからだは「抗体」をつくり、抗原(細菌などの異物)と結合して「免疫複合体」をつくります。
食細胞が異物を処理するとき、免疫複合体ができることで抗体は目印の役割を果たします。
本来であればこれはからだの正常な免疫反応です。
しかし、処理しきれないほどの免疫複合体が作られ、体内を循環して腎臓のフィルタに沈着した場合、腎臓の障害が生じることがあります。
一番の原因は、溶連菌
急性糸球体腎炎の原因菌でもっとも多いのは、「溶連菌(溶血性連鎖球菌)」です。
急性糸球体腎炎患者の約80〜90%は、溶連菌によって発症しています(熊本大学医学部附属病院より)。
溶連菌は顕微鏡で見ると、菌が鎖の連なりのように一列につながっているため、連鎖球菌と呼ばれています。
くしゃみや咳で人から人へ感染するため、幼稚園・保育園・学校で流行しやすく、「溶連菌感染症」は子供が喉に感染する病原体として、広く知られています。
溶連菌の感染で起こる症状は、おもに咽頭炎(口腔や鼻腔の奥が炎症する、いわゆる喉の風邪)、扁桃炎(以前は扁桃腺と呼ばれていた箇所の炎症)、中耳炎が挙げられます。
急性糸球体腎炎は、これらの症状が完治したあと、約1〜2週間後に一部の患者に発症しています(全国腎臓病協議会より)。
そのことから、溶連菌感染後急性糸球体腎炎と呼ばれることもあります。
また、たいへん稀ですが、急性糸球体腎炎の原因菌には、その他にも次のようなものが報告されています。
血尿は発症のサイン
溶連菌の感染から、約7~14日(1〜2週間)の潜伏期間を経て次の症状があらわれたら、急性糸球体腎炎の発症を知らせるサインです(全国腎臓病協議会より)。
- 赤茶色や褐色の尿が出た(血尿)
- 排尿後の尿が泡立っている(タンパク尿)
血液の「ろ過フィルタ」である糸球体が炎症を起こしているため、本来であれば通過されない「血液成分(血球など)」や「タンパク質」が老廃物といっしょに尿に漏れ出ている状態です。
「見えない血尿」が出ているかも

しかし、尿に漏れた赤血球の量がわずかであると、肉眼で尿の異常は判断できないことがあります。また、タンパク尿はすべての患者にあらわれるものではありません。
そこで、溶連菌感染症が治ったあと、次のような症状があらわれていないか、必ず確認しましょう。
- おしっこの量が減っている
- 全身がだるく、頭痛がする
- 顔(特にまぶた)や手足にむくみがある
- 吐き気を感じるときがある
- 体重が増えている
思いあたるようなら、小児科(成人は、腎臓内科や泌尿器科)を受診します。
尿検査(検尿)から、顕微鏡的血尿(顕微鏡でわかる血尿)やタンパク尿が検出されると「急性糸球体腎炎」の疑いは高くなります。腎臓の病気ですが、大きな心配はいりません。
基本的には自然治癒する病気で、ほとんどの場合、完全に治癒しています。
まとめ
急性糸球体腎炎は、ほとんどの場合、溶連菌感染症のあとに発症しています。
したがって、溶連菌感染症の抗生剤をきちんと服用すれば、防ぐことができます。
近年、溶連菌検査の普及により、溶連菌感染症は十分な治療が行われているため、急性糸球体腎炎の発症は減少しています。
それでも血尿などの症状が見られるときは、すみやかに小児科(成人は腎臓内科や泌尿器科)を受診しましょう。