体重の変化はときに、からだが発する重要なサインです。この記事では、「やせる」という症状がある場合のうち、「最近、食欲がないな…」「なぜか、食べる量が減った」といった食欲不振に心当たりがあるときに、考えられる疾患について解説しています。

目次

消化器疾患がある場合

消化器症状は内分泌疾患や感染症などによってもあらわれますが、ここでは消化器症状が出る病気のうち代表的な消化器疾患をいくつかあげたいと思います。

1.胃がん

胃の粘膜にできる悪性腫瘍です。初期にはあまり症状がみられないことがほとんどです。場合によっては、食欲不振のほか、みぞおちの痛み、お腹が膨れた感じ(膨満感)、吐き気といった症状があらわれます。

2.慢性胃炎

胃の粘膜に慢性的な炎症が起こっている状態で、多くの場合、ヘリコバクターピロリ菌が原因と考えられています。自覚症状がほとんどないこともありますが、症状がある場合には、食欲不振、腹部膨満感、胃もたれ、胃痛(上腹部)、吐き気などがあらわれます。

3.消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)

胃や十二指腸が粘膜の深いところまで傷ついた状態を消化性潰瘍と呼びます。食欲不振以外にも、腹痛、嘔気、嘔吐、吐血、黒色便、貧血といった症状がみられることもあります。

ヘリコバクターピロリ菌への感染や、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用などが原因になり得ます。

全身性疾患の場合

4.感染症

風邪やインフルエンザ、急性肝炎、HIV感染症、結核といった感染症にかかったときに、食欲不振やそれにともなう体重減少の症状がみられる場合があります。

5.悪性腫瘍

悪性腫瘍は、「やせる」「体重が減る」という症状の原因として多いもののひとつです。上記にあげた胃がんなどの消化器のがん以外にも、肺がん、泌尿器や生殖器のがん、血液のがんでも体重減少がよくみられます。

悪性腫瘍によってやせてしまう原因のひとつは、腫瘍自体が消化管を圧迫したり消化器症状があらわれたりすることで、食事の摂取量が少なくなることによる栄養不足です。もうひとつは「悪液質」といい、がん細胞が放出する炎症性サイトカインと呼ばれる物質により、食欲不振や代謝異常が起こることが考えられています。

内分泌疾患がある場合

6.アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)

ナトリウム(塩分)などの電解質保持糖新生(血液中のブドウ糖の量が不足したときに、肝臓に蓄えた物質からブドウ糖を作り出すはたらき)の促進に必要な副腎皮質ホルモンが低下する病気です。食欲不振や下痢を引き起こします。

精神疾患がある場合

体重計
身体に疾患が無くても精神疾患いわゆる心の病気によって体重減少を招くこともあります。

7.うつ病

気分が落ち込んでいたり、憂鬱な状態であることを抑うつ状態といいますが、この状態がさらに深刻化しているものをうつ病としています。うつ病の症状である易疲労性(疲れやすくなる)や無気力状態によって、食欲が減退し体重減少へとつながる場合があります。

また、現在うつ病が軽快している場合であっても、残遺症状(症状が残ってしまうこと)によって食欲不振及び体重減少が続くことがあります。

8.神経性食欲不振(拒食症)

一般的に拒食症といわれる病気で、摂食障害の一種です。心理社会的ストレスを背景に、極度のやせ願望肥満恐怖により、極端に食事の量を減らすといった症状がみられます。

飢餓状態に耐えかねて暴飲暴食するものの、体重増加を防ぐために自ら食べたものを吐こうとしたり、下剤の乱用を繰り返したりします。その結果、食べ物が吸収されないため体重が減少します。

口腔疾患がある場合

口の中に病気が隠れている、あるいは痛みなどの症状があることによって食欲がなくなり、その結果体重が減少してしまうものです。口内炎口腔内ヘルペス虫歯や虫歯の治療による抜歯といった軽度の疾患のほか、下記のような疾患もあげられます。

9.口腔乾燥症

自己免疫疾患や糖尿病、精神的ストレスや食習慣によって唾液の分泌様が減り、唾液のpH(アルカリ性・酸性のバランス。標準は6.8~7.0で、口腔内の健康を保つために必要)が変化することによって口腔内が乾燥する病気です。

唾液量が分泌することで味覚障害の症状が出るため、食欲不振へとつながる場合があります。

10.味覚障害

亜鉛不足や薬剤の影響、心因的な疾患によって味覚を感じなくなる病気です。口腔乾燥症と同様に、味覚を感じないことによって食欲不振になることがあります。

まとめ

食欲不振による体重減少をまねく病気は、皆さんが思っているよりもたくさんあります。ここで紹介したものは、そのほんの一部で、ほかにも様々な病気が原因となっていることがあります。

いつか食欲が出るだろう、水分を摂っていれば大丈夫、ダイエットになってちょうどいいなどと安易に考えず、短期間で大幅な体重減少があったり、食欲不振が続く場合には、一度医療機関を受診することをお勧めします。