原発性アルドステロン症は、副腎腫瘍によりアルドステロンの分泌が過剰になることで、高血圧などの症状をきたす病気です。原発性アルドステロン症による高血圧は、高血圧の治療で一般的に使用される降圧薬では改善しにくいといった特徴があります。

高血圧のうち3~10%を占めるという報告もあります(原発性アルドステロン症の診療ガイドラインの現状と課題より)が、適切な診断・治療により高血圧の症状を改善することも可能です。検査の流れ、治療法について確認していきましょう。

目次

原発性アルドステロン症が疑われる場合

次のような場合には原発性アルドステロン症が疑われるため、より詳しい検査の実施が推奨されています。

  • 低カリウム血症の症状(多飲・多尿、筋力低下など)がみられる
  • 中等度(収縮期血圧160以上、拡張期血圧100以上)以上の高血圧である
  • 治療抵抗性を示す高血圧である
  • 副腎に腫瘍がある
  • 40歳以下で脳・心血管疾患がある

高血圧の患者さんのうち原発性アルドステロン症が疑われる場合には、スクリーニング検査を実施します。スクリーニング検査で陽性が出るとさらに機能確認検査を行い、機能確認検査でも陽性の場合には治療方針を決めるために局在診断(後述)を行います。

3段階の検査

1.スクリーニング検査

血液検査によりアルドステロンとレニンの分泌量を調べます。アルドステロンの値が高く、レニンの値が低い場合には、スクリーニング検査陽性と判断されます。

レニンは蛋白質分解酵素のひとつで、血圧が低くなったり腎臓の血流量が減ったりしたときに腎臓から分泌され、「アルドステロンを分泌してください」という信号を出します。このレニンの働きによってアルドステロンが分泌された結果、血圧が上がる仕組みです。

しかし、原発性アルドステロン症により、アルドステロンが過剰に分泌され血圧が高いままだとレニンの分泌は低下します。スクリーニング検査により、「アルドステロンが高く、レニンが低い」状態を調べるのはこのためです。

2.機能確認検査

機能確認検査は次の3種類あります。日本内分泌学会ガイドラインによれば3つのうち少なくとも2つ以上、日本高血圧学会ガイドラインによれば1つ以上の検査で陽性で、原発性アルドステロン症が診断されます。

カプトプリル負荷試験

カプトプリルという薬剤を内服し、前後の血液検査で判定します。通常はカプトプリルを内服するとレニンの値が上がりますが、原発性アルドステロン症では、レニンが抑制されたまま値が上がりません。

フロセミド立位負荷試験

フロセミド(利尿薬)を注射し、その後2時間「立っている」という条件のもとで過ごします。前後に血液検査を行いレニンの分泌量を調べます。通常であればフロセミドの作用で尿量が増えると、身体を循環する血液の量が減るためレニンが活発になりますが、原発性アルドステロン症ではレニンが抑制されたままとなります。

生理食塩水試験

2リットルの生理食塩水を4時間かけて点滴することで、体内の水分の循環量を増やし、血液検査によりアルドステロンの分泌量の変化を調べます。体内の水分が増えると、通常であればアルドステロンが抑制されるはずですが、原発性アルドステロン症ではアルドステロンが抑制されていないことがわかります。

3.局在診断

機能確認検査陽性により確定診断がされたあと、治療方針を決めるための検査です。

CT検査

多くの症例では副腎に1~2cmの腫瘍がみつかります。ただし、すべての副腎腫瘍が原発性アルドステロン症の原因となるとは限らないため、副腎静脈サンプリング検査が必要となります。

副腎静脈サンプリング検査

カテーテルを通して副腎静脈から直接血液を採り、アルドステロンの値を検査します。これにより、左右のどちらが過剰な分泌をしているか、または両側なのかを判断することができます。

原発性アルドステロン症の治療

手術

検査の結果や患者さんの希望を考慮しながら治療を行います。治療は、手術療法と薬物療法によります。

手術

片側のみの腫瘍と確定できて、身体の状態がよく、患者さんが手術を希望する場合には手術で腫瘍を取り除く治療をおこないます。手術は腹腔鏡でおこなうことができるので、身体への負担がすくなく、翌日から歩行や食事が可能です。副腎は片方を切除しても、残っている副腎で機能を補うことができます。

内服

患者さんの状態などにより手術ができない場合、患者さんが手術を希望しない場合、副腎の腫瘍が両側の場合には内服薬(アルドステロン拮抗薬。MR拮抗薬ともいいます)による薬物治療を行います。降圧薬の一種ですが、通常の高血圧治療では第4選択となるので、一般的な高血圧治療では登場する機会の少ない薬です。原則としては一生飲み続ける必要のあるお薬ではありますが、稀に治癒するケースもあるようなので、医師と薬の管理をしながら経過を追うことが大切です。

よく似た病名

最後に、よく似た病気の紹介です。

二次性アルドステロン症(続発性アルドステロン症)

何らかの原因により副腎が刺激を受けことでアルドステロンの分泌が過剰になり、原発性アルドステロン症と同じ症状を起こす病気です。腎臓の血流が低下するような病気(腎動脈の狭窄やアテロームなどの、腎動脈閉塞性の病気)や、むくみを生じさせるような病気心不全肝硬変ネフローゼ症候群など)が該当します。この場合は、原因となる病気を治療することで、副腎のはたらきを正常にする必要があります。

偽アルドステロン症

アルドステロンの分泌は正常であるにもかかわらず、アルドステロン症に似た症状があわられるものです。漢方で使用される甘草や、その成分であるグリチルリチンを過剰に摂取したときなど、薬剤の副作用によって起こります。症状としては、だるい、手足のだるさ、しびれ、こわばり、脱力感、筋肉痛などがあらわれます。

まとめ

原発性アルドステロン症は、国内に100万人以上の患者さんがいるという推計もあります(原発性アルドステロン症の診療ガイドラインの現状と課題より)。適切な診断と治療により改善ができる高血圧である一方で、本態性高血圧(基礎疾患が不明の高血圧)との区別が難しいことなどが問題です。

スクリーニング検査が推奨されている、低カリウム血症の症状(多飲・多尿、筋力低下など)がみられる場合、中等度(収縮期血圧160以上、拡張期血圧100以上)以上の高血圧、治療抵抗性を示す高血圧の方など、不安な場合は医師に相談するようにしましょう。