10月になり、気候が秋になる時期になると、医療機関や職場でインフルエンザのワクチンが話題になります。インフルエンザワクチンは針で打つものであり、「痛い」「次の日から腫れる」「効果は本当になるのか」というイメージがあるかと思われます。日本ではまだ厚生労働省に認可されず輸入にて使用しておりますが、ヨーロッパ・米国では普及されている、点鼻のインフルエンザワクチン「フルミスト(Flu Mist)」があります。
ここでは、注射しない、点鼻のインフルエンザワクチンのフルミストの詳細と効果・外国での流れに関して解説します。
点鼻ワクチンのフルミストとは~従来との不活化ワクチンとの違い
今までのインフルエンザワクチンの特徴
皆様がなじみのあるインフルエンザワクチンは、皮下注射をする「不活化ワクチン」です。この不活化ワクチンとは、細菌・ウイルスの活性・毒性をなくした上で、体内で免疫を作るために必要な成分のみを注射します。このインフルエンザワクチンは例年、流行が予測されるA型・B型それぞれ2つ、合計4タイプのウイルスを基に製造されます。
このワクチンの対象年齢は生後6か月からで、上限はありません。12歳未満では、ワクチンの効果を発現するために2回の接種が推奨されております。ワクチンの効果は年により変わりますが、40-60%程度です。また、ワクチンの予防効果は5-6か月であります。
「フルミスト」の特徴
一方で、点鼻ワクチンのフルミストは、液体型のワクチンを霧状にして鼻の粘膜に吹きかけます。フルミストは「生ワクチン」であり、毒性を弱めた細菌・ウイルスを生きた状態で少量投与をして、免疫を獲得するというメカニズムで効果を発現します。この生ワクチンは、毒性は下げながらも細菌・ウイルスを体内に取りこみますので、免疫の効果は不活化ワクチンより高いとされております。
このワクチンの対象年齢は2~49歳であり、1回の接種でワクチンの予防効果は約1年とされております。
インフルエンザワクチンは、従来の皮下接種の不活化ワクチンでは乳幼児への効果は低いとされています。過去に似たインフルエンザへの感染歴があれば接種により抗体が作り出せますが、感染歴がなければ、こうした効果を期待できません。その一方で、乳幼児ではインフルエンザによる心筋炎・脳炎などの重症化を予防する効果はあります。弱毒化した生ワクチンのフルミストは、体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされていました。
従来のワクチンとフルミストの違い
従来のワクチン | フルミスト | |
種類 | 不活化ワクチン | 生ワクチン |
年齢 | 生後6ヶ月~、上限なし (12歳未満では2回接種を推奨) |
2~49歳 |
予防効果 | 5~6か月 | 約1年 |
多く みられる 副作用 |
注射をした箇所が赤くなる、 腫れる、硬くなる、 熱を持つ、痛くなることがある |
鼻水・鼻閉感などの症状が 出やすい |
保険適用 | 保険外 (65歳以上は公費補助) |
保険外 厚労省未認可であり、 各医療機関が個人輸入で対応 |
接種を 受けられ ない人 |
明らかに発熱のある方、 重い急性疾患にかかっている方、 インフルエンザワクチンで アナフィラキシーを起こした方は 使用不可 |
卵アレルギーがある方、 気管支喘息の状態が悪い方、 アスピリン系統の内服をされている方、 インフルエンザワクチンで アナフィラキシーを起こした方は 使用不可 |
点鼻ワクチンのフルミストの対象・副反応
新しい点鼻ワクチン「フルミスト」は、米国では2003年から、ヨーロッパでは2011年から承認されました。販売当初は15歳以上でありましたが、次第に接種年齢が下がり、現在では2~49歳が対象となっております。また、卵アレルギーがある方、気管支喘息の状態が悪い方、アスピリン系統の内服をされている方の接種はできません。
このフルミストは、生ワクチンであるため、従来の打つ不活化ワクチンよりも、鼻水・鼻閉感などの症状が出やすいです。おおむね30%の方がワクチン接種してから3~5日までにこうした症状がみられます。また、喘鳴・頭痛・筋肉痛・発熱などの報告がありますが、いずれも軽度であることが多く自然軽快していきます。
※フルミストは、日本では未許可
日本では、このフルミストは未許可であるため、各医療機関で、個人輸入をして対応しております。このため、取り扱いをしている医療機関数も非常に少なく、製造状況によってはワクチンの入手ができず接種ができなくなる場合もあります。
フルミストの効果の変遷~米国・英国での勧告

米国では、前述のように2003年からフルミストが導入され、これまでは子供への感染予防効果が認められるとして、接種を勧めてきました。米国予防接種諮問委員会(ACIP)でも、2012年までのシーズンではフルミストの効果は50-70%であり、不活化ワクチンと同等あるいはそれ以上とされておりました。
しかし、昨年には「2歳から17歳でのワクチンの効果は2013-2014シーズンではマイナス1%、以後は3%」という調査報告を発表しました。ここでいうマイナスとは、ワクチン未接種のほうが感染しにくいという結果でありました。同時期の不活化ワクチンの効果は50-60%としており、その有効性が疑問視されました。この報告を受けて米国では2016年以降にフルミスト接種を勧めないという発表をして、従来の不活化ワクチンを接種すべきと勧告しました。英国からも、この生ワクチンによる効果が弱くなっているこという報告が出ていますが、引き続き使用はされる見込みです。
この理由はまだ明確にはなっておりませんが、生ワクチンの場合には、感染したウイルスタイプと似ていれば、接種したワクチンのウイルスが体内から排せつされ、効果が弱くなってしまう可能性が示唆されております。
その一方で、生ワクチンの販売元のAstraZeneca社では2015-2016シーズンでは効果は46-58%であり、ワクチンのタイプが合えば効果があると報告をしております。
まとめ
フルミストは、これまでの不活化ワクチンとは異なるメカニズムでのワクチンの効果を発揮します。喘息やひどい鼻炎がある方などは接種できず、また接種年齢も2~49歳と限られております。インフルエンザのワクチンは、外国での生ワクチン(フルミスト)の効果の現状を知ったうえで、選択肢として検討してください。