9月29日は「ワールド・ハート・デー」です。
ワールド・ハート・デーとは世界心臓連合が定めた、地球規模の心臓血管病予防キャンペーン活動の日のことで、それに合わせて「2型糖尿病の人は、心筋梗塞のリスクが高いってほんとう」 というプレスセミナーが行われました。
今回はセミナーの中の、国立循環器病研究センター病院 動脈硬化・糖尿病内科 槇野久士先生講演 「2型糖尿病の人は、心筋梗塞のリスクが高いってほんとう」の内容をもとに、糖尿病と心血管疾患の関係についてお伝えします。
糖尿病の合併症には突然死の原因となるものも
血糖値が高いこと、それ自体の症状は初期にはほとんどないと言われています。
しかしなぜ糖尿病を治療しないといけないかと言うと、様々な合併症が進行していくからです。
それでは糖尿病の合併症と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
失明・腎不全・足のしびれなど、いわゆる三大合併症をご存じかもしれませんね。
しかし、糖尿病によって心筋梗塞など、心血管疾患のリスクも上がることを知っている方は意外に少ないと思います。
三大合併症はじわじわと進行していく病なのに対して、心血管疾患は昨日まで元気だった方が前ぶれもなく死んでしまうような、突然死の原因になることがあります。
急に発症して急に命を奪う可能性のある病気では、患者さんやご家族が治療・生活について考える時間がないことが問題です。
そのため症状がなくても前もって知識を持っておき、今後についてなんらかの対策を講じることが重要です。
心血管疾患とは
心血管疾患とは、具体的には心筋梗塞や脳卒中、大動脈瘤、下肢静脈瘤など心臓・血管に関わる病気の総称のことです。
日本人の死亡原因の第二位にもなっており、けっして頻度の低いものではありません。
糖尿病の他にも…心血管疾患のリスク4つ
心血管疾患を起こす危険性を高めるものとして、以下の4つの項目があります・
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 喫煙
上記のリスクを多く持っているほど、心血管疾患になってしまう可能性も高くなります。
心血管疾患の主な原因は動脈硬化と言われており、これら4つのリスクは動脈硬化を進みやすくしてしまうのです。
特に2型糖尿病の方はこれらのリスクを複数抱えていることが多く、注意が必要です。
糖尿病によって心血管疾患になるリスクは本当に上がる?
糖尿病→動脈硬化→心血管疾患というつながりを聞くと、糖尿病と心血管疾患はあまり密接な関係でないように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし糖尿病によって心筋梗塞等のリスクが上昇したという研究データがあり、糖尿病でない人に比べて、糖尿病の方は心血管疾患のリスクが高くなるようです。1,2
そして糖尿病の方が心血管疾患により死亡するリスクは、糖尿病でない方と比べて1.8~2.5倍も高まると言われています。3
- Tanaka S, Tanaka S, Iimuro S, Yamashita H, Katayama S, Ohashi Y, Akanuma Y, Yamada N, Sone H.Cohort profile: The Japan diabetes complications study: a long-term follow-up of a randomised lifestyle intervention study of type 2 diabetes. Int J Epidemiol. 2014 Aug;43(4):1054-62. doi: 10.1093/ije/dyt057. 1996 Jul;45 Suppl 3:S14-6.
- Fujishima M, Kiyohara Y, Kato I, Ohmura T, Iwamoto H, Nakayama K, Ohmori S, Yoshitake T..Diabetes and cardiovascular disease in a prospective population survey in Japan: The Hisayama Study.
- Kato M.et al.Diagnosed diabetes and premature death among middle-aged Japanese: results from a large-scale population-based cohort study in Japan. BMJ Open 2015,5,e00773,doi:10.1136/bmjopen-2015-007736.
心血管疾患を発症しないために

心血管疾患のリスクを持っていることを知った上で、患者さんはどうすれば良いのでしょうか?
まずは、病院の受診をしましょう
糖尿病それ自体には症状がないため病院に行くことが面倒な方はいらっしゃると思います。
健康診断の検査値に異常が出ても「まだ大丈夫」と思ってしまったり、途中で通院が嫌になってしまったりするかもしれません。
しかし心血管疾患のリスクは軽症のうちから上がることがわかっており、定期的な受診と検査によって自身の状態を把握しておくこと、医師の指導を仰ぐことが治療への第一歩です。
受診の際、医師には
- 血糖、体重、血圧において、自分が目指す目標値
- 日常生活での注意点
を聞いておくと良いでしょう。
生活習慣の改善を意識しましょう
治療の際に指導されると思いますが、バランスの良い食事と、適度な運動を続けましょう。
食事に関してはご家族の協力も重要ですし、働いていて運動をする暇なんてない、運動は苦手だという方にとってモチベーションの維持は大変かと思います。
それでも家でゴロゴロする時間を減らす・腹八分目を心がけるなど、何らかの意識をすることから始めてみましょう。
生活習慣についてご自身でできることは、下記の記事にも詳しく書かれていますので参考にしてみてください。
むやみに血糖を下げることはかえって良くないことを知っておきましょう
糖尿病の治療というと、とにかく血糖を下げればよいという考えが昔はありました。
しかし現在、2型糖尿病において血糖を下げすぎた状態(重症低血糖)や、血糖の変動が大きいことは心血管疾患のリスクにもつながり、良くないことがわかってきています。
食事制限のしすぎや過度の運動などで、低血糖を起こすことがあります。
重症になると患者さんは意識障害を起こして自分ではどうすることもできなくなってしまいます。軽症の段階で食事ができればよいのですが、都合よく食べものがあるとは限りません。いつでも糖分を摂取できるようブドウ糖などを身に着けておくと良いでしょう。
逆に血糖の急激な上昇を抑える上では三食規則正しく食事をとること、食事の際にはサラダなどの食物繊維を最初に食べるといった対策ができます。
低血糖の対処法については下記の記事に詳しく書いてあります。
薬の選択
現在、心血管疾患の予防効果のある糖尿病の薬も開発されています。
GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)という薬が、心血管の病気発症に対して抑制効果があるとのことです。
どの薬を利用すべきかはもちろん医師と相談の上、患者さんの体調などを鑑みて処方されなくてはいけませんが、興味があれば一度、薬についても主治医に聞いてみて良いかもしれません。
治療の詳細については医師との相談が第一ですが、ライフスタイルの改善について意識をすること、どんな治療があるのか知っておくことで、より良い対策をできるのではと思います。
おわりに:後悔をしないために
過去に心血管疾患を発症した2型糖尿病の患者さん、及びご家族に対して行われたアンケートでは、2~3人に1人が、糖尿病の合併症のひとつに心血管疾患があることを認識していなかったそうです。
そして、知らなかったことへの後悔や、今後への不安を持つ方が多く見受けられる結果となりました。
糖尿病は患者さんが主体となって体調を管理するシーンが多い病気です。ご自身が病気について知っていくこと、情報収集をすることも大切かもしれません。