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20代や30代の方は「がん」と聞いても、どこかピンとこないかもしれません。しかし、現在その年代の女性に急増しているのが子宮頸がんです。子宮頸がんとは、子宮の入り口(頸部)で異常な細胞が発生し、増殖(がん化)していく病気です。発症者数は年間1万人にのぼり、毎年3,000人の方が亡くなっています(MSDより)。今回、子宮頸がんが他人事ではない20代前半の女性として、国立がん研究センター中央病院婦人科腫瘍科の加藤友康先生にお話を伺いました。前編では、子宮頸がんの治療法と検診についてです。

お話を伺った先生の紹介

進行に気づけない子宮頸がん


子宮頸がんの発症部位-図解
―現在、どのような女性の間で子宮頸がんが増えているのでしょうか。

30代での発症が一番増えているといわれています。がん自体、日本では全年齢でみると女性よりも男性が発症する割合は高くなりますが、40代以下では女性に多くみられます。その中で最も多いのは乳がん、それに次ぐのが子宮頸がんといわれているため、若い方は女性特有のがんにかかりやすいことになります。

―子宮頸がんと診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。

がんの進行具合によって変わり、子宮頸がんのステージ(進行の程度)は期から期に分かれます。

ⅠA1期 ⅠA2期 ⅠB1期 ⅡB2期 ⅡA1期 ⅡA2期 ⅡB期 ⅢA期 ⅢB期 ⅣA期 ⅣB期
単純子宮全摘出術 準広汎子宮全摘 広汎子宮全摘+骨盤リンパ節郭清 (同時化学)放射線療法 抗がん剤治療
円錐切除術 (同時化学)放射線療法 姑息的(緩和的)放射線維治療

(日本婦人科腫瘍学会編「子宮頸癌治療ガイドライン2017年版」を元にいしゃまち編集部が作成)

がんができた箇所を円錐状に取り除く円錐切除手術で病変が取り切れ、血管やリンパ管にがん細胞がなければ円錐切除後に慎重に経過観察していきます。この場合、切り取るのは子宮頸部のみなので、妊娠や出産ができる状態を保てます。

しかし、がんが1段階でも進行すると再発が大きな問題になっていきます。一般的にIB1期からは再発の可能性を考え、子宮全体に加えて卵巣・卵管や周囲のリンパ節も取り除く広汎子宮全摘出術を標準な治療として行います。さらに進行した場合は放射線・抗がん剤治療を選択します。

日本での子宮頸がんの5年生存率は世界のデータと比べても高く、IB1期で93%というデータがあります。しかし、この高い生存率の背景には、IB1期に広汎子宮全摘+骨盤リンパ節郭清を標準的な治療としている事実があります。

―それほどまでに再発とは恐ろしいのでしょうか。

再発が起きた場合、子宮以外の臓器へ転移するリスクがあります。子宮の周りにある臓器には膀胱直腸があります。これらの臓器にがんが転移し進行した場合、骨盤内臓全摘と呼ばれる手術を行い、子宮だけでなく直腸、膀胱も含めて取り出します。排泄機能を持った臓器を取り除いた場合、その後の生活に与える影響は決して小さくはありません。

特に、最近若い人の間で増えている腺がんというタイプの子宮頸がんは特に転移のリスクが高いです。女性ホルモンを作り出す卵巣の他、またリンパ節を通じて、肺などの子宮から離れた臓器に転移する力も強いと言われています。子宮頸がんが再発したケースのなかで、広範囲の転移を含むものは4を占めるといわれています。

初めて子宮頸がんにかかった患者さんが「今は子宮を残す手術をして、万が一再発した時に子宮を取ればいい」と思っていても、再発した時には子宮だけでない他の臓器も摘出しなければならない、さらには切除も不可能となる事態もあり得るということです。

検診だけが早期の細胞異常を見つけられる手段


正常な細胞が子宮頸がんになるまで-図解

―どのステージで発見される患者さんが多いのですか。

Ⅰ期で見つかる方が一番多く、ステージが進むにつれて発見される患者さんは少なくなる状況です。一方、同じ婦人科がんである卵巣がんは、進行した状態で見つかることが多いです。

子宮頸がんはⅠ期になる前の段階から発見することができる疾患です。子宮頸がんには、がんになる前の段階として「上皮内がん」・「異形成」という段階があります。さらに異形成は軽度・中等度・高度の3段階に分類されていました。上皮内がんとは、臓器を覆っている上皮にがん細胞が留まっている状態で、かつてはステージ0期と呼ばれていました。異形成は細胞が異常を起こしている段階ですが、そのうちに発見し、経過観察や治療を行えば子宮を残せます。高度異形成と上皮内がんをまとめてCIN3と呼び、毎年およそ1万3,000人この状態で発見されていて、これはⅠ期からIV期までの患者さんを足した人数よりも多いです。

―どのような症状が出た場合、病院に行けばよいのでしょうか。

異形成の状態で自覚症状が出ることはまず無いといわれています。不正出血おりものの変化月経血の増加を感じて病院に行った場合、その時点で進行癌であることがあります。

Ⅲ期など比較的進行した患者さんに、なぜその時点まで病院に来なかったのか尋ねると「不正出血や体調不良などの症状が全くなかった」と答える方も多くいます。まずは少しでも気になる症状が出たら、ためらわずに早めに受診することをお勧めします。

―異形成の段階で見つけるにはどうすればよいのでしょうか。

異形成の段階で起きている細胞の異常は、検診で発見できます。子宮頸がんの進行スピードは急に速まるものではなく、徐々に段階を踏んで進んでいきます。

検診を定期的に受けていれば仮に異形成が見つかっても、経過を見ながら治療を行い、妊孕性(妊娠できる能力)を残せる可能性が高まります。将来の妊娠を希望されている女性には、検診でなければ異形成を見つけることは難しいという事を知っておいていただきたいです。

伸び悩む受診率 打開策は

―検診はどのような方法で行われますか。

細胞診と呼ばれる検査を行います。患者さんが内診台に座り、医師が腟鏡という器具で腟を開いてそこからヘラや綿棒を挿入して頸部の粘膜から細胞を取ります。

―どの程度の女性が検診を受けていますか。

現在の受診率は23といわれています。年齢が若くなるにつれて、受けたがらない傾向が強いです。なかには妊娠したときに初めて婦人科を受診するという方も少なくないです。自分の体に何か異変が起きない限りは、婦人科を受診すること自体に抵抗を持ってしまうのだと思います。

―その一方でアメリカでは受診率が8割を超えるそうですね。なぜこんなにも高いのでしょうか。

まず、アメリカでは女性に検診を促すコミュニティがしっかりしていることが挙げられます。母親や祖母から検診を勧められる気風が強い面はありますが、家庭医の存在は大きいものがあります。

家庭医とは、専門的な診療分野を持たずに、全身の症状を診るかかりつけの医師のことです。患者さんにとって身近な存在である家庭医が女性に直接検診を促して、時には検診自体も行うこともあるそうです。また保険の加入条件のひとつに、子宮頸がん検診の受診を求められることがあると聞いています。

社会的な要素に加え、検診のやり方にも違いがあります。日本では患者さんから「内診台に乗ることに抵抗がある」という声を多く聞きます。一方、アメリカでは日本の診察室においてあるようなベッドで行うこともありその場合、内診台ほど脚を広げる必要がありません。このような工夫をすれば検診への心理的抵抗も少なくなって、受診率の高まりにもつながるのではないかと思います。

後編に向けて

発症すると、子宮だけでなく他の臓器に転移する可能性も無視できない子宮頸がん。進行する前の状態で見つけるには、症状のないうちから検診に行く習慣を身につけることが大切です。後編では、多くの子宮頸がんの原因といわれているHPV(ヒトパピローマウイルス)や治療における妊娠・出産についてのお話を伺います。