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多職種で支える、患者さんとご家族の生活

医科歯科大の緩和ケア病棟
医科歯科大の緩和ケア病棟

――緩和ケア病棟の患者さんのことは、どのような体制で支えているのでしょうか?

普段はだいたいプライマリーナース(主治看護師)といって、担当の看護師を中心に、ご本人やご家族を含めて看ています。臨床心理士が常勤しているので、必要があれば関わることもあります。心理療法のようなことが必要になる人はあまりいませんが、緩和ケアチームに入っている心療内科の先生に一緒に手伝ってもらうこともあります。

看護師、医師、心理士、ソーシャルワーカー、OT(作業療法士)PT(理学療法士)といったセラピストとは話をする時間が割と長いので、心理療法というよりは、皆で全体的にカバーしています。

情報共有は主にカンファレンス(会議)で行います。毎日8時半と13時にカンファレンスをするので、そこで皆で話をします。

 

――様々な職種の方々が、それぞれの役割にしかできないことをしているというイメージがあります。

そうですね。ただ、他の病棟と比べると、かなりオーバーラップしているとは思います。医師がある程度、看護師がやるようなことをすることもあるし、薬剤師が医師の担当するようなことの一部を担う場合もあります。

 

――その中で医師が果たす役割はどのようなものでしょうか?

薬物療法を含め、特に医療的なこと・病態に関わることですね。たとえば吐き気があった時に、どういう原因で吐き気が起こっていて、それに対してどういう薬があって、ということを薬剤師と相談します。

患者さんが訴える頻度が高い症状は、痛みや吐き気、食欲不振、呼吸困難です。がんそのもので起こる症状もあれば、付随して起こる症状もあります。例えば、寝たきりなのであちこちが痛くなってきたり、廃用性萎縮(筋肉を長期間使わずにいることで生じるからだの機能低下)が起こったりします。でも、だいたいはがんによる症状であることが多いです。

 

――緩和ケア病棟に入られる方への、最初の説明はどのように行っていますか?

緩和ケア病棟に入るためには基本的に、事前の面談が必要となります。30分ほどの枠で、可能な限り医師と看護師とで行います。

主治医の方でそこまで話をできていない場合、入棟面談のときに「緩和ケア病棟ではこういうことができて、こういうことができません」とか、あとは今後の病状のことを話すときもあります。もちろん、その前に主治医からきちんと話されていることもあります。

 

――ご家族が入棟を希望される一方、患者さんご本人の準備や受け入れができていないケースもあるのでしょうか?

いますね。基本的には、患者さんが「入っても良いよ」と言うまで待っています。患者さんがせん妄の症状などで意思表示ができず、家族が何らかの形で意思の代理決定者とみなされる場合にはそれで入れることもあります。

 

―病棟の雰囲気についてもお聞きしたいです。

うちの病棟は、基本的に一般病棟と同じです。ただ、改装したので、がんケア病棟は「明るい」と言う人が多いですね。

 

―どうしても、「死」などがつきまとう、暗い場所をイメージする方も多いと思いますが。

あまりそういう感じでもないとは思います。以前、栃木県立がんセンターにいた時に、回診をしていた院長先生が「この病棟(緩和ケア病棟)が一番雰囲気が明るいね」という話をしていたことがあります。無理に明るくしようと努める必要はないと思いますが、それは一つの目標でもありますね。

緩和ケア病棟と言っても、基本的には「病棟」です。緩和ケア病棟は病院の他の場所から浮いてしまうことも多いのですが、緩和ケア病棟に入棟してきた患者さんがまた一般病棟に戻ることがあると考えると、その敷居をなるべく低くして、東京医科歯科大学附属病院の中での一部分として、他の診療科とも連携して運用していくという方針です。

 

――実際の患者さんの生活は、どの程度患者さんのご希望にそっているのですか?

基本的に、喫煙以外は全てOKです。アルコールもOKです。

 

――何時に起きて、何時に寝て、と決められた生活ではないのですね。

そうですね。ただ、あまり日のリズムが狂うとせん妄といい、わけの分からないことを言うなどの症状が出ることがあるので、「朝起きて夜寝る」というのはなるべく守っていただくようにはしています。

認知症やせん妄の症状が出ている患者さんは多いです。全体の1/3ほどだと思います。そういった症状には、頭ごなしに否定しないなど気をつけつつ、薬物療法で対応しています。

 

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