「死の医療化」を防ぎ、一人ひとりに合ったケアを
病室の窓からは、都内の景色が一望できます。
――看取りについてもお聞きできればと思います。最後を迎えるということを、医科歯科大の緩和ケア病棟ではどのように捉えていますか?
人は、皆死にます。そこをどういう風に感じるかは、人それぞれだと思うんです。
今までは医療者側が、死に向かうまでの過程を可視化し過ぎていた、つまり“死の医療化”をしすぎていたような感じがあります。もう少し普通の、一つの人間のステージのようなものに戻せればと思います。
基本的に緩和ケア病棟はモニターレスにしており、心電図がついていません。そのときが近づくと、ある程度予測することが大切になってきます。ご家族に話して、泊まってもらって。看護師が家族に「危ないんじゃないか」と見てもらって、最終的には、家族が呼吸停止もしくはそれに近い時点で看護師を呼んでくれて。そして夜間であれば当直の医師がお看取りするという感じになっていますね。
――患者さんのご家族から「ここで亡くなることができてよかった」と言われることがある、とお聞きしました。様々な取り組みがあるからこその言葉だと思うのですが、そう言われる理由はどこにあるとお考えでしょうか?
実は、一般病棟でもそう言ってくださる患者さんは少なからずいらっしゃいます。当院は大学病院なので、なんとなく「最後までここで」という方が多いような気はしています。それが叶えられた、というのが一番かもしれませんね。
一方で、一般病棟との大きな違いは、「ケア」だと思います。医療というよりは看護ですね。ただし、仮に自分が緩和ケア病棟に入ったとして、どうしてもらいたいかというと、あまり構ってもらいたくないかもしれません(笑)。自分だったら、そっとしておいてほしいと感じるかなと思うんです。画一的にせず、患者さんに応じた、各個人に対するケアというのがあると思います。
――最後に、「緩和ケア病棟」というものに馴染みのない方に対して一言伝えるとしたら、何を一番伝えたいでしょうか?
緩和ケア病棟というのは、基本的には「病院の病棟である」ことが大前提です。ただ、普通の病棟と違う点として、個々の患者さんに対してオーダーメイドのケアができると考えてください。入院・退院の選択もある程度、患者さんの意向を尊重することができます。
今はクリニカルパスといって、「何日で退院」というのが決められています。でも、その基準にはそれほど当てはまらないような病棟だと思っていただければ良いと思います。
編集後記:「がん」「死」を身近に考える
今回の取材にあたり、医科歯科大の緩和ケア病棟を実際に見学させていただきました。白い壁に青をアクセントとした病棟は、三宅先生のお話にもあったように明るい雰囲気で、私たちが「緩和ケア」という言葉から受ける印象とは少し異なっているように感じました。
がんという病気には、暗い・辛い・苦しいといったイメージがつきまといます。それらは全く実情から外れたものではないにせよ、「日本人の2人に1人がいつかはがんになる」ことを考えると、がんや「死」を遠ざけようとするのではなく、自らの問題として捉えていく必要があるのではないでしょうか。「がんは特別な病気ではない」という三宅先生の言葉を、忘れないようにしたいと思いました。
※医師の肩書・記事内容は2017年11月13日時点の情報です。