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小児がんの治癒率は、近年上がってきています。それは当然喜ばしいことである一方、新たな問題になっているのが「晩期合併症」と呼ばれる様々な症状です。がんの治療に伴って起こる症状は、治療後の生活にも多大な影響を与えています。

その中でも、口の中の症状と向き合っているのが、国立成育医療研究センターで小児歯科を担当している金沢英恵先生です。今回は金沢先生に、小児がん治療後に起こる歯の合併症とその対処法についてお聞きしました。

お話を伺った先生の紹介

※写真:処置室。子どもがリラックスできるようなキャラクターが貼られている

口内炎、舌の腫れ…治療に伴う様々な症状

―歯については、小児がんの治療による合併症は起こるのですか?

近年、治療法の進歩によって小児がん患児の生存率が高まっている一方で、治療に伴った症状として、歯の晩期合併症が徐々に明らかになってきています。日本小児血液・がん学会でも、最近注目を集めています。

 

―治療中は、どんな症状が起こり得るのですか?

抗がん剤による治療や放射線治療は、お口の中に存在する細菌の正常なバランスを崩してしまい、その結果、口内炎(口腔粘膜炎)が生じます。また、抗がん剤の中には副作用として口腔粘膜炎を起こしやすいものがあります。口腔粘膜炎は治療開始から数日で発症し、7日前後に症状のピークを迎え、感染が起きなければ約2週間で自然治癒します。

骨髄移植等の造血幹細胞移植を受けると味覚障害が出ることも多いです。放射線や抗がん剤治療により唾液の分泌が減り、口の中が乾燥しやすくなることも味覚障害を起こす原因のひとつと言われています。通常は治療終了後、徐々に回復します。

また、小脳腫瘍などの手術では、舌の腫れがみられることもあります。これは後ほど説明します。

米国の国立がん研究所の報告によると、成人の場合、口腔粘膜炎などの口腔合併症は、抗がん剤による治療を受けた方の40%、造血幹細胞移植を受けた方の80%、口腔領域に放射線治療を受けた方では100%に起こると言われています。これは小児に関しても同じでしょう。

 

―先生が実際に診療されている症例としては、どのようなものがありますか。

こどもサポートチームが発足した2014年9月から2017年5月まで、歯科への依頼内容を集計したところ、虫歯の治療や歯の生え変わりで揺れている乳歯の抜歯、口内炎等に対する治療希望が最も多く、続けて多かったのが定期健診の依頼でした。入院中は、1歳半健診や3歳児健診を受けられない患児が多いのです。

その他、造血幹細胞移植前の精査やうつ伏せで行う脳腫瘍手術用のマウスピース作製依頼小児がん治療後の歯の晩期合併症診査希望歯並びの相談等を始め、終末期の口腔ケアも増えてきています。

 

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