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口腔合併症を予防するための様々な取り組み

―他にも成育での予防的な取り組みがあればお聞きできればと思います。はじめに仰っていた「舌の腫れ」に対しては、どんな対策を行っていますか?

小脳腫瘍等の脳幹部腫瘍の手術は、長時間うつぶせで行います。すると、舌がうっ血して腫れてしまうことがあります。中には呼吸困難に陥り、気管切開が必要になる患児もいたほどです。

これを受け、成育では平成25年8月以降、うつぶせで行う脳腫瘍手術の際には必ずマウスピースをはめています。そのため、手術後の舌に関するトラブルはなくなりました。

 

―予防的な処置には大きな効果があるのですね。放射線治療に関してはいかがでしょうか。

放射線治療では、照射した部位に一致して歯ができないことがあります。そこで、照射部位に含まれる正常組織を守ることができないかと考え、放射線科医師や放射線技師と相談しながら、歯を電子線から守るために必要な遮蔽器具の作製に取り掛かりました。タングステンシートという素材を用いたマウスピースを電子線治療の度に患児に装着したところ、マウスピースで守った箇所の永久歯は育っていますが、守れなかった箇所に関しては成長が止まってしまう可能性が高いことがわかりました。この治療は有益な方法ではありますが、症例が限られています。

かかりつけ歯科と連携し、サポートできるように

―退院後のケアは、金沢先生が引き続き行うのですか?

退院して外来通院になると、基本的には地域のかかりつけ歯科と連携します。入院中に行ったケアや小児がんの治療後に起こり得ることを紹介状に書き、受け入れていただくことが多いです。

一方、小児がん経験者ということだけで、受け入れを断られてしまうケースもあります。その場合は私が引き続きお口の中の管理を行いますが、主科の通院ペースが3か月以上になった時点で、できるだけ地元の歯科につながって欲しいとお伝えしています。

 

―晩期合併症のことを初めて知ったという方も多いと思います。地域の歯科の先生方を含めて、しっかりとした啓発が必要ですね。

かかりつけ歯科との連携はとても大切です。小児がん経験者にとって、今ある歯を残すことは未来に繋がります。普段から定期的なケアを行うことの重要性、そして、その徹底した管理こそが晩期合併症を未然に防ぐのに必要であるということを、永久歯のスペシャリストである地域の歯科の先生方へ発信していく、それが私の役目だと思っています。

編集後記

「晩期合併症」という問題を扱う時、目が向きやすい話題はやはり発達や生殖のことかもしれません。もちろんそれらも重要ですが、美味しいものを楽しく食べることもまた、多くの人にとって大きな喜びです。治療後の子どもたちの生活をより豊かにするために、歯や口のケアは今以上にクローズアップされる必要があると感じました。

次回は、医療保育専門士・豊田 江利子さんの取材をお届けします。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年2月2日時点の情報です。