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長期入院の患者さんを支えるのは、医師・看護師・薬剤師などの医療者だけではありません。長期入院の乳幼児の生活のサポートに欠かせないのが、保育士の存在です。

医療現場で勤務している保育士の中には、「医療保育専門士」という認定資格者がいます。

彼らが行う医療保育の目的は、「医療を必要とする子どもと家族を対象として、子どもを医療の主体と捉えて専門的な保育を通じて本人と家族のQOLの向上を目指すこと」(日本医療保育学会『医療保育専門士の倫理綱領』より)です。

さらに、医療保育専門士は子どもに保育(養護と教育)を提供すると共に、家族支援の役割を担っています。多職種とコミュニケーションを取りながら、できるだけ「入院前と変わらない生活」を送ることができるよう、療養環境を整えながら支援しているのです。

国立成育医療研究センター・こどもサポートチームの取材連載、第7回となる今回は、乳幼児内科病棟に勤務している医療保育専門士の豊田江利子さんにお話を伺いました。

お話を伺った方の紹介

※写真:国立成育医療研究センター プレイルーム

医療保育専門士は「子どもたちの遊び」を担う

―「医療保育専門士」という資格はあまり耳慣れないものですが、どういった資格ですか?

医療保育専門士は日本医療保育学会に所属し、専門的な研修を受け、認定される認定資格です。

取得にあたっては、医療現場における保育経験や勤務先からの推薦などの条件を満たした上で、書類審査後に資格認定研修を受講し、最終的に研究論文の提出と口頭試問を受けて認定を受けます。

当院では、私のほかに3名の医療保育専門士が勤務しています。

 

―「医療現場における保育」というと、お仕事の内容は、一般的な保育士とは異なる部分もあるのでしょうか。

子どもたちの生活で主体になるのは治療や手術、検査などの「医療」であり、日々の生活や環境は入院前の状況と異なります。そこで働く医療保育専門士には、病気や治療内容についての知識が必要です。加えて、人工呼吸器を装着していたり24時間継続して輸液をしていたりと、感染しやすい子どもたちが多いので、安全面や感染管理面での配慮も重要です。

そのため、子どもたちの日々の治療や検査、処置などの内容について情報収集し、その日の保育支援についてアセスメント(評価)していきます。入院中の子どもたちは年齢や発達段階も様々であり、日々変化してくため、治療と併せて把握しアセスメントすることが必要になります。

また、保育園にいるのは基本的に同じ職種(保育士)が多いですが、医療現場では医師や看護師、CLS(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなど、様々な職種との連携が必要となります。他職種の専門性や役割をしっかりと理解し、普段からコミュニケーションをとりながらチームの一員として子どもと家族を支援することが必要です。

 

―そのように多職種が働いている病院の中で、医療保育専門士はどのような役割を担っていますか?

主として「遊び」「日常生活の援助」をしています。

「遊び」としては、プレイルームでの集団保育活動ベッドサイドでの個別保育活動行事(年5回程度)などを行っています。

「日常生活の援助」では、昼食・歯みがき・排泄・昼寝の介助などを行います。病院が生活する場となるので、自宅や保育園・幼稚園などの環境になるべく近づけるように、看護師と連携をとりながら援助しています。

入院中はストレスも溜まりやすく発散する場も必要であるため、子どもたちの成長過程に遊びはとても重要です。しかし、入院生活では医療が中心となります。そこで、治療や処置・検査などの予定のある中で、少しでも遊ぶ時間を設けることができるよう、毎日、看護師と入院患者さん全員のスケジュールを相談しながら調整します。

私たちは医療者ではありません(医療的なケアは行いません)が、子ども一人ひとりの病状や治療方針を把握しながら保育ニーズをアセスメントし、多職種と情報共有しながら保育を提供しています。

 

―医療保育専門士のお仕事の中で、やりがいを感じるのはどんなときですか?

成長・発達を援助する中で、「寝返りができるようになった」「1人で歩けるようになった」「字を書くことができるようになった」など、今までできなかったことができるようになったとき子どもの成長過程をご家族や他職種と共有できるときです。

また、子どもたちが遊びを楽しみしていたり、激しく泣いていたのに側にいることで少しだけでも落ち着いたりすると、安心できる存在として受け入れてくれているのかなと感じます。

 

―反対に、大変だと感じていることがあれば教えてください。

病院という現場なので、患者さんが亡くなることもあります。

「もっと何かできたのでは?」と考えることもあり、亡くなった直後は、気持ちの切り替えや整理が追いつかないこともありますね。医師や看護師、CLSなど患者・家族と関わりのあったスタッフと振り返りながら気持ちを整理することもあります。

 

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