目次

ケアの基本はやっぱり「歯磨き」

―今伺った症状に対して、どのようなケアを行っているのでしょうか?

がん治療開始前に全ての患児のお口の中を診察し、必要であれば歯科治療を行います。問題を早期発見し、解決することにより、口腔合併症の予防につながるだけでなく、発生してしまった場合も軽い症状で済ませることができるのです。

可能な限り病棟から外来に来ていただき、歯垢(プラーク)を赤く染めて歯のクリーニングをします。虫歯があれば、主治医と相談しながら期日までに治すのですが、患児によっては緊急で抗がん剤治療が始まっており、歯科治療を行えないケースも少なくありません。そういった場合は、歯科治療が可能になるまで毎日の歯磨きをより徹底して行うなどといった形で対応しています。

歯磨きは、仰向けの無防備な状態で行うので、小さな患児の場合、泣いてしまうこともあります。“歯医者”と聞くと怖がられてしまうことがあるので、できる限り病棟へ顔を出して「よく来る人」「お口の中を診てくれる人」という感覚で知ってもらうようにしています。

普段から歯磨きケアが苦手な患児に対しては、鎮静検査(鎮痛薬を使用して眠った状態でする検査)や全身麻酔で行う放射線治療に同席し、鎮静や麻酔から覚めるまでの間を利用して歯磨きを行うこともあります。主治医や看護師、麻酔科医とも連携しつつ、チームで対応しています。

 

―健康なお子さんと同じで、まずは歯磨きが大切なのですね。

小児がん治療中に起こる口腔合併症を防ぐには、お口を清潔に保つことがとても重要です。お口の中の細菌の集合体であるプラークはバイオフィルムという膜に包まれており、歯に強固に付着する性質を持っています。うがいだけでは取り除けないので、歯ブラシを使ったケアが必要です。

小児がん治療により、一時的に食べることができなくなる場合があります。すると「食べられないから歯磨きはしなくていい」と思われがちですが、実は、食事をとらないと唾液が十分に回らないため、汚れを唾液で洗い流す作用(自浄作用)が働かず、お口の中の環境がさらに悪化してしまうのです。完全に絶食の患児では、舌の上に舌苔が付いてしまうこともあります。つまり、食べられない時こそ口腔ケアが大切です。できるだけ1日3回、最低でも1日1回は磨いていただくようお願いしています。

 

―その他、抗がん剤などの副作用を防ぐための取り組みもされているのでしょうか?

粘膜症状が強く出る抗がん剤の種類は、ある程度分かってきています。それらを使う場合の取り組みとして、お口の粘膜にできるだけ薬を取り込まずに済むよう、お口の中を冷やして末梢血管を収縮させる処置(クライオセラピー)を行っています。投与開始30分前から終了2時間後まで、氷の塊やゼリー、ジュース等を凍らせたものを患児のお口の中に含ませます。

クライオセラピーの様子
クライオセラピーの様子

この処置は年齢の低い患児ほど受け入れが良く、効果もあるため、クライオセラピーを徹底することで口腔粘膜炎が軽減し、歯科の介入が必要になる患児は格段に減っています。

特にクリーンルーム(無菌室)に入った造血幹細胞移植後の患児については、声、嚥下、口唇、舌、唾液、粘膜、歯肉、歯の8項目に分けて看護師が評価します。その点数によってケアを厚くすることで、症状がひどくなるのを防いでいます。

 

次のページ:晩期合併症の影響は、治療後も続く