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晩期合併症の影響は、治療後も続く

―晩期合併症についてもお聞きできればと思います。なぜ、治療によって様々な合併症が生じてしまうのですか?

歯の晩期合併症の主な原因には、永久歯が生える前、つまり5歳未満に行う抗がん剤治療、口や唾液腺を含む放射線治療、造血幹細胞移植等があります。特に放射線による歯の晩期合併症は、放射線照射量が多いほど、また低年齢で治療を受けた症例ほど重度となることが分かっています。

永久歯は、お母さんのお腹の中にいる時から作られ始め、生まれた後も成長を続けます。そのため、幼少期における治療は永久歯の発達に悪影響を与えてしまうこともあります。

永久歯の晩期合併症については、現在、当センターではパノラマエックス線写真で評価しています。大きな機械が10秒ほどかけて顔の周りを回って撮影するため、きちんと撮れるのは3歳以降です。5歳以降にパノラマエックス線写真を撮れば、永久歯が全てあるかどうかがわかります。

 

―どんな症状が起こるのでしょうか。

まず、歯の根が短くなることがあります(歯根短縮)。これにより、歯の揺れに悩まされている小児がん経験者が多いことが分かってきています。残念ながら、歯をぶつけて抜けてしまったり、自然に脱け落ちてしまったりした方もいました。

次に、歯が極端に小さい状態(矮小歯)になることもあります。実際に経験した症例ですが、学校健診で「乳歯が残っているので抜いてください」と指示が出た方がいました。主治医の判断で歯科に依頼があり、レントゲンを撮ったら、小さいけれど永久歯だったのです。本人が小児がん経験者であることを知らされていないこともあります。永久歯を間違って抜いてしまわないように、地域の歯科の先生方にもきちんと啓発していく必要があると思います。

また、小児がん治療を受けたことで永久歯ができない(先天欠如)とわかった場合乳歯を長持ちさせるように、きちんとメンテナンスしなければなりません。一般的に永久歯がない場合、乳歯を30代頃までは持たせることができると言われていますし、歯が抜ける時期が遅ければ遅いほど、将来土台の骨にインプラント(人工歯根)を入れる等、咬み合わせを補う治療の選択肢が広がりますので、できるだけ歯を残したいと考えています。

その他の例として、咬み合わせの不具合と放射線治療の問題が挙げられます。

前者に関しては、歯並びの相談も多いです。歯並びの治療や相談は基本的に保険適用外なのですが、2013年から歯が6本以上ない(先天欠如)場合は保険が適用されるようになりました。ただし、歯並びの治療で歯を動かすと、さらに歯の根が短くなることが知られています。歯並びの治療を行う矯正歯科医としっかり連携して、本当に歯並びの治療が必要なのか吟味しなければなりません。

後者では、放射線照射量が多い(50グレイ以上)と、歯を抜いた場合に顎骨壊死などの問題が起こることがあるため、抜歯が禁忌になることがあります。

 

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