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子どもたちの入院中の成長を見守る

―お子さんたちの保育を行う上で、特に気をつけていることはありますか?

治療によって状態も変化するので、遊んでいるときは体調の変化や機嫌なども把握するようにしています。

病院という環境の中では、大人が関わり、援助する場面が多くなりますよね。子どもがやろうとする前に援助しすぎてしまうと、子どもは自分で挑戦しようとする場面が少なくなります。子どもたちは入院生活を送る中でも少しずつ成長しているので、「できること」、「どうすればできるようになるか」という部分を見落とさず、その時の病状や状況に応じて援助方法を考えて関わるようにしています。そうすることで、退院後に保育園や幼稚園などへ社会復帰する際に、子ども自身が自信を持ってスムーズに復帰できるようになるのではないかと思うのです。

現場では、遊びの中でも「貸して」、「ありがとう」と相手に伝える、日常生活(靴の脱ぎ履き、歯みがきなど)や食事の場面など、一人ひとりの発達段階をみながら、自分でできるように援助(できない部分を手伝う・見守るなど)するよう気をつけています。

 

―それはきっと、退院後の生活のことも考えた上ですよね。他にも、入院中のお子さんと接する上で心がけていることはありますか?

入院後、落ち着いてきたら「できるところは自分でやってみよう」と声をかけるようにしています。

例えば、言葉を話せる年齢であれば、物を取ってほしいときに「ねえねえ、アレ」と言うと「はい、○○ね」と通じてしまう場面は多いですよね。でも、相手に対して何かを依頼する場面では具体的に「おもちゃを取ってほしい」、「○○を貸してほしい」などと伝えるように促しています。

退院後は、自宅に戻り保育園や幼稚園への通園生活に戻る方もいます。小児がんの患者さんの入院は長期になることも多く、入院生活の中で得たものを途中から変えていくことはとても大変です。社会復帰した途端に変えなければならないという状況は、子どもが一番困惑してしまうと思います。自分が何をしたいか、何を手伝ってほしいのかを「自分の言葉で相手に伝えられる」、「できることは自分で行う」など、退院後は早期に社会復帰できるようにすることを念頭において援助しています。

 

―最後に、この記事を読んでくださる方に伝えたいことがあればお聞かせいただければと思います。

「入院中って何しているの?」、「ずっとベッドの上で過ごさないといけないの?」と聞かれることがあります。

子どもたちは、治療や検査などを受けていますが、他のお子さんと同じように遊んだり、ご飯を食べたりするという生活は変わりません。

「医療」が主体となり、過ごしている場所が病院という特殊な環境ではありますが、子どもたちは成長・発達していきます。特別なことをするというよりも、医療を受けながらも子どもたち一人ひとりがその子らしく成長・発達することができるよう、様々な職種がチームとなって子どもと家族を支えています。今後も保育士として子どもの成長・発達を支えていきたいと思います。

編集後記

病気の子どもたちを「かわいそう」と思い、手を差し伸べるのは簡単なことでしょう。しかし、豊田さんたち医療保育専門士は、何もかも「やってあげる」のではなく、子どもの成長を見守ることを大切にしているそうです。子どもたちの退院後の生活を強く考えているからこそできることなのではないかと思いました。

国立成育医療研究センター こどもサポートチームの多職種への取材連載、次回はソーシャルワーカー・鈴木 彩さんのインタビューをお届けします。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年2月7日時点の情報です。