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遊びの中で「入院する前の環境」に近づける

―保育の実際について、普段はどのような「遊び」を提供していますか?

病棟では、午前中の1時間、プレイルームで集団保育活動をしています。

この時間帯には、治療・処置・検査などがなく、体調の良い子どもたちが参加しています。「制作活動」や「ままごと遊び」、「お医者さんごっこ」、「電車遊び」、「ブロック」、「パズル」などを準備し、一人遊びを楽しんだり家族や子どもたち同士で遊んだりできるよう、年齢や発達段階に合わせて遊ぶ内容や環境を設定しています。

また午後は、集団保育活動に参加できない子どもたちのベッドサイドに訪問し、要望を聞きながらベッド上で楽しめるような遊びを提供しています。

病院という環境であっても、保育園や幼稚園と変わらないような雰囲気で活動できるようにしています。

 

―普通の保育園と違う、病気のお子さん向けのプログラムなどがあるわけではないのですね。

治療や病状によって使用できる玩具や教材は異なりますが、基本的に、遊び自体は保育園や幼稚園と一緒です。

入院中は治療中心の生活となるので、必然的に大人とのやり取りが多くなります。また、病状や治療によりベッドで過ごすことも多くなるので、可能な限り子ども同士で過ごす機会を設け、生活環境を拡大して年齢や成長・発達に応じた生活経験が得られるようにしています。

また、未就学児は集団活動の経験がない場合が多いので、ご家族にも一緒に参加していただきながら、子どもの好きな玩具や遊びを一緒に見つけたり、発達に関する相談を受けたりしています。

保育士として参加している一人ひとりの遊び方を見ながら発達段階や遊びの好みなどを把握する中で、自分の思いをなかなか伝えられない子どもやうまく言葉で伝えられない子どもの場合、遊びの中で気持ちを聞いたり、ご家族に普段の様子を聞いたりもします。成長・発達の援助が必要な場合は、その都度、他職種と援助内容や方法を相談しながら関わっています。

 

―ベッドサイドで遊ぶお子さんの場合は、どんな「遊び」をしていますか?

プレイルームでの集団保育活動と大きくは変わりません。ただ、ベッド上で遊ぶということは治療中や体調が優れない場合もあるので、看護師に体調を確認しながら、状況に合わせて遊ぶ内容を考えています。ベッド上での生活が長くなるとストレスが溜まることもあるので、子どもの好きな遊びを選んでストレスが発散できるように援助しています。

 

―ストレスが発散できるような「遊び」というと、どのようなものがあるのでしょうか。

好きな遊びであれば、何でも発散できると思います。

電車が好きな子どもは、自分で線路を組み立てたあとに電車を走らせて1時間遊んでいますね。パズルが好きな子どもは色々なピース数にチャレンジし、時には300ピースのパズルを毎日1時間ずつ、数日かけて続けて完成させています。好きな遊びに集中できたり、遊びの中で達成感が得られたりすると、さらにストレスが発散できると思います。

 

―「制作活動」では、どのような作品を作っていますか?

各病棟で行っているのが季節の制作です。長期入院の患者さんが多いので、季節を感じられるようにしています。先日(取材日:2017年11月1日)は、ハロウィンリースを作り、プレイルームやスタッフステーションに飾りました。

作ったものを子ども同士やご家族、医師や看護師などにも見てもらうことで、会話のきっかけになることがあります。「クレヨンが使えるようになったんだね」、「素敵な作品だね」、「(顔の)表情がいいね!」など、自分の作ったものや以前と比べてできるようになったことに対して褒めてもらうことで、子どもたちは喜びや達成感を味わうことができるのです。大人からだけではなく、子ども同士で「あ、それいいね!」と言ってもらうと「今度はこんなこともやってみよう!」と次回への期待や意欲も出てきます。

治療や検査などを頑張ったとき、内服薬を飲めるようになったことなどを褒めてもらう場面もあります。しかし保育士としては、治療に関することとは違うことで賞讃される場面をつくれるようにしたいと考えています。また、なかなかベッドから起き上がることができないときや歩行の練習の際には、「みんなの飾りを見に行こう!」「飾りのある場所まで歩いて行ってみよう」などと、目標になることもあります。

プレイルームに飾った作品は、面会に来たご家族が窓越しに見られるようになっています。そのため、病棟に入れないきょうだいも見ることができるのです(編集部注:国立成育医療研究センターでは中学生以下の面会は許可されていません)。

きょうだいの方は、ご家族から入院中の様子を聞いてはいます。とはいえ「ずっとベッドの上にいて遊べないの?」と思うこともあり、入院中に自分のきょうだいが何をしているのかわからないようだとご家族から聞くこともあります。そのため、「入院していても入院前と変わらずに遊ぶことができる」ということが視覚的にも伝わるように飾り、入院中の子どもたちもご家族とのつながりを持てるようにしています。

1月の制作活動の成果物
制作した作品は、スタッフステーションなどに飾られる

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