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お子さんとご家族が「生活に戻っていく」ために

―主にご家族の方とのやり取りが多いと思いますが、特に親御さんの悩みや我慢を汲み取るために工夫されていることはありますか?

当センターでは私たちのように心理社会的な支援をしている職種が集まり、週に1回、1時間のカンファレンス(会議)をしています。チャイルド・ライフ・スペシャリスト保育士や臨床心理士、こころの診療部の医師、緩和ケア科の医師、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーといったメンバーで話します。その中で各職種から、取り上げたいお子さんやご家族の話が出てきます。

ソーシャルワーカーは基本的に、必要なときには病棟に行ってご本人やご家族と会いますが、それ以外の時間は病棟にいないので、お子さんやご家族の様子は分かりません。それをキャッチできるのは、やはり病棟にいつもいる看護師や保育士です。他のスタッフが、「あのお母さん、困っているのではないか」とこちらに相談をしてくれることがあるので、それをカンファレンスでも共有できるようにしています。

カンファレンスでは、心理社会的な問題に対して、それぞれの職種がどう支援していくかを話し合っています。

 

―その他にも、小児がん特有の問題はあるのでしょうか。

小児がんは、病気が治った後も治療による影響が出てくることがあります。症状が残ってしまう場合もあれば、後から合併症が出てくる場合もあります。

現在は治療中から本人にも年齢に応じた説明を行い、患者さんがどのような治療を受けたか分かるように治療のまとめをお渡しすることが多くなっていますが、以前はお子さんに対して、病気や治療に関する説明が充分にされないこともありました。また小さい頃に病気を経験している方は、記憶に全く残っていないこともあります。そのため、今でも病気のことをよく知らず、自分がどういう治療を受けたかも把握できていない方たちもいます。そんな中で体調に気になることが生じるという方からの相談も、小児がん相談支援センターでは受けています。

他にも就労に関する相談を受けることもあります。小児がんを経験した方の中には、体力がない、疲れやすいなどの症状が続く方もいます。そのような場合は、フルタイムで仕事をすることが難しいこともあります。

「働く」ことはとても大事なことです。しかし小児がんに限らず、小児慢性疾患の経験者にとって、自分に合った形での就労は難しい場合が少なくありません。職場での配慮や短時間の勤務、勤務内容などどうしたらその人が働きやすいかを一緒に考えていくことが必要だと思います。

小児がんは、治る方が増えています。だからこそ、治療後にも成長やライフステージに沿った長期的なケア(フォローアップ)が非常に大切です。医療的な支援と相談支援の両方の体制が整備されていることが必要だと考えています。

 

―小児がんという病気にソーシャルワーカーとして関わる中で、この病気のことをよく知らない方に伝えたいことがあればお聞きしたいです。

病気のお子さんもそのご家族も、それぞれの生活、それぞれの人生があります。そこに自分や家族ががんという病気になって、治療することになったけれども、それ以外は他の人と変わらないわけですよね。がんには「かわいそう」「治らない」「死んでしまう」というイメージがまだまだ根強くて、偏見もあるでしょうが、多くのお子さんは治るようになってきているので、これまでと同じように接してほしいと思います。病気ではなかったときと同じように付き合ってくれるのが、お子さんにとってもご家族にとっても嬉しいことだと思います。

それから、治らないような状況になった場合もやはり、「(入院前の)もとの生活に戻っていく」ことが大事だと思っています。国立成育医療研究センターでは現在、ご自宅で亡くなるお子さんも増えてきています。今までと同じように暮らすことが、何よりお子さんとご家族にとって良い時間になると思っています。お子さんやご家族のご希望を聞き、お友だちとこれまでどおり一緒に遊んだり、学校で一緒に過ごしたりすることができるように、私たち医療スタッフもサポートしていくので、そういうお子さんやご家族がいるということを知ってほしいと思います。

編集後記

「がん」と診断を受けた直後に、「医療費助成の申請をしよう」「周囲にはこんな風に伝えよう」と冷静に考えることができる方は、おそらく多くはないでしょう。それは、大人でも子どもでも同じかもしれません。

治癒率の高い病気となってきた小児がんは、治った後の人生のこともしっかり考えていく必要があります。一方、亡くなっていくお子さんの生活も、きちんとサポートされるべきです。それらを包括的に見て患者さんとご家族の生活を支えるソーシャルワーカーの存在は、ご家族にとっては本当に強い味方だと感じました。

次回は、管理栄養士・益田 静夏さんのインタビューをお送りします。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年2月9日時点の情報です。