2018年1月、米国糖尿病学会による『Standards of Medical Care in Diabetes 2018[1]』という勧告集が発表されました。これは、日本でいう『糖尿病診療ガイドライン(日本糖尿病学会)』にあたるものです。あくまでも米国での糖尿病治療の指針になる資料ですが、将来的に日本での糖尿病治療にも影響することが考えられるため、注目されています。
糖尿病の補完代替医療(自然食品・サプリメントについて)
多くの患者さんが、自然食品やサプリメント、ハーブ、鍼灸治療、整体などの補完代替医療に一度は頼ったことがあるかもしれません。米国における2012年のNational Health Interview調査によると33%もの人がそのような補完代替医療を受けた経験があり、17%の人が自然食品を好んで食べていたとのことです。
これに対して米国糖尿病学会は、糖尿病治療においてビタミン類やハーブなどをサプリメントとして摂取することを支持していません。十分なエビデンスがない、というのがその理由です。糖尿病の状態が悪い患者さんほど補完代替医療に期待を抱き、標準的な薬物療法ではなく、エビデンスの不十分な治療を受ける傾向があるともいわれています。
また、補完代替医療にも副作用がまったくないわけではありません。過去の臨床研究で報告されている糖尿病と自然食品・サプリメントの関係についていくつかご紹介しましょう[8]。
効果 | 副作用 | |
ゴーヤ | 血糖降下作用
各組織での糖取り込みの増加作用 |
消化器症状
グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症の患者さんでは溶血性貧血を起こす |
フェヌグリーク | インスリン分泌促進作用
炭水化物の吸収を抑え、胃から食べ物が移動するのを遅らせる HDL(善玉)コレステロールを上げる |
下痢
おなら 子宮収縮 経口血糖降下薬と相互作用があるため注意 |
オタネニンジン | インスリン類似作用
インスリン分泌や肝臓での糖代謝を調整する可能性がある |
エストロゲン様の作用(乳房圧痛、無月経、膣出血、勃起障害、低血圧、不眠症など)
経口血糖降下薬を含め複数の薬剤と相互作用あり注意。 |
アロエベラ | 糖取り込み作用の促進 | 腹痛
下痢 経口血糖降下薬との相互作用あり注意。 |
シナモン | インスリン感受性を高める。 | 香り成分のクマリンに抗凝固(血液をさらさらにする)作用
発がん 肝毒性の可能性がある。 |
ホウライアオカズラ | インスリン分泌促進作用
糖取り込みの増加 |
インスリン分泌促進薬と併用すると低血糖を起こす可能性あり |
オプンティア | インスリン類似作用 | インスリン分泌促進薬と併用すると低血糖を起こす可能性あり。 |
クロム(金属) | コレステロール低下作用
インスリン感受性を高める。 |
腎毒性
皮膚症状 |
ω-3脂肪酸 | 中性脂肪低下作用
抗炎症(炎症を抑える)作用 抗血小板(血液をさらさらにする)作用 血糖値をわずかに上昇させる |
過剰摂取は出血を起こす可能性
LDL(悪玉)コレステロールを増やすかもしれない |
α-リポ酸 | 糖尿病神経障害の症状を改善する
血糖降下作用はない |
甲状腺機能異常
アレルギー性皮膚炎 腹痛 吐き気 下痢 めまい |
コエンザイムQ10 | インスリン抵抗性の改善 | |
マグネシウム | 糖代謝に必要な金属
インスリン分泌を促進しインスリン感受性を高める |
下痢、腎障害のある患者さんには毒性あり
骨粗鬆症の薬や利尿剤などのとの相互作用あり注意 |
亜鉛 | インスリン濃度を高める
コレステロール低下作用 |
嘔気・嘔吐
葉酸・銅の吸収阻害など |
バナジウム(金属) | インスリン類似作用
インスリン感受性を高める |
胃腸障害
過剰摂取は腎毒性を起こす |
ここにお示ししたもの以外にも糖尿病の治療効果を謳った“健康食品”がたくさんあると思います。しかし、科学的な臨床試験を行ってきちんとしたエビデンスがある“健康食品“は全くと言っていいほどありません。重ねて注意しておきますが、現在使われている標準的な薬物療法と同等のエビデンスがある自然食品・サプリメントは存在しません。糖尿病を良くする可能性が示唆されるレベルとお考え下さい(自然食品やサプリメントの中から質の高いエビデンスが生まれることを期待しています)。
また、他のお薬と同じように過剰摂取は体にとって毒ですし、標準的な薬物療法と安易に併用すると低血糖など副作用も起こしやすくなります。補完代替医療を否定するものではありませんが、ガイドラインで示されている薬物療法を原則としましょう。
補完代替医療を受けている患者さんには、そのことをきちんと主治医の先生にお話していただきたいと思います。糖尿病を良くして、健康的で豊かな生活が送れるようにするという目標は同じです。患者さんの体に合った適切な薬物療法を選んでいきましょう。