医療従事者でない一般の方で、「進行性核上性麻痺」という疾患の名前をご存じの方はほとんどいないでしょう。実際に発症する確率も1万人に1人と極めて稀なため、日常生活でこの病気の患者さんと会うということもあまりないかもしれません。
しかし、わが国でもこの病気で苦しんでいる方は確かに存在します。ここでは、希少疾患の一つである進行性核上性麻痺について少しでも理解が深められるようにしたいと思います。

目次

「核上」ってなんのこと?進行性核上性麻痺とは

進行性核上性麻痺といきなり言われても字面だけではどんな病気なのかをイメージするのはなかなか難しいかもしれません。

進行性核上性麻痺は50~70歳に好発する脳の神経変性疾患の一種です。神経変性疾患とは、脳等の神経組織が何らかの障害を受けることで、神経細胞が失われてしまう病気の総称です。変性疾患には他にもパーキンソン病アルツハイマー病、アイスバケツチャレンジで有名になったALS(筋萎縮性側索硬化症)、映画やドラマでも話題になった脊髄小脳変性症などがあります。

変性疾患はそれぞれ障害を受ける場所によって様々な症状を示します。例えば、アルツハイマー病では頭頂葉を中心とした大脳皮質という部分が失われることで記憶障害などを引き起こします。

では、進行性核上性麻痺では脳のどの部分が障害を受けるのでしょうか?

進行性核上性麻痺では、脳の中心部分にある『黒質、中脳、淡蒼球(たんそうきゅう)、視床下核、小脳歯状核(しょうのうしじょうかく)』などが変性します。黒質や淡蒼球といった部分は総称して『大脳基底“”』と呼ばれており、この部分とそれより上位の神経の繋がりが障害されることから本疾患には『進行性“”上性麻痺』という名前がつけられているのです。

進行性核上性麻痺になるとどんな症状が出るの?

進行性核上性麻痺ではどんな症状が出るのでしょうか?

進行性核上性麻痺では上記の部分が障害を受けます。これらのなかでも黒質や淡蒼球は身体を動かす際に調整役としての役割を果たしています。また、中脳は眼球(目玉)を動かす際の中枢としての役割を担っています。

したがって進行性核上性麻痺では、歩行障害等の全身の運動障害眼球運動障害といった症状が出現することとなります。

具体的に症状を挙げていくと、

  • 運動障害…振戦(手足の震え)固縮(手足のこわばり)小刻みな歩行 など
  • 眼球運動障害…足元が見られない(上下の眼球運動が障害されることで階段を降りられなくなる)など

といった問題が生じることがあります。また、変性が脳の他の部位に及ぶことで認知症構音障害(呂律が回らない等、言葉を発することが難しくなること)が認められることもあります。

進行性核上性麻痺の治療、何科で診てもらえるの?

進行性核上性麻痺の診療を行うのは一般的に神経内科です。

手術で治療ができるタイプの病気ではないため、外科で治療を受けるということはあまり無いでしょう。

治療ですが、現在でも確立した治療法はなく、運動障害に対して対症療法として薬物治療が行われることが一般的です。

パーキンソン病と間違えられることも…

患者に説明をする医師

実は進行性核上性麻痺は、手足の震えや小刻みな歩行といった症状が似ていることからパーキンソン病と間違えられることが少なくありません

ただし、進行性核上性麻痺はパーキンソン病と比較すると薬物療法の効果が出にくく、症状の進行が速い傾向にあります。リハビリによる機能維持訓練、日常生活訓練、言語訓練等を適宜行い、日常生活の質をなるべく維持しながら経過を観察してゆきます。

昨今は医師の間でも疾患の存在が広く知られるようになり、進行性核上性麻痺と正しく診断されるケースが増えつつありますが、未だに「パーキンソン病と思われている進行性核上性麻痺」は少なくないと考えられています。

まとめ

ここまで希少疾患「進行性核上性麻痺」について大まかに説明させて頂きました。希少疾患は、患者さんが極めて少ないことで社会の病気に対する認知度も低く、治療薬の開発に時間がかかったり適切な医療機関へのアクセスが難しかったりするなど、改善すべき問題がたくさんあります。進行性核上性麻痺もまた、同様の問題を抱えています。今後の治療薬の開発や、社会的な認知度向上に期待が向けられています。