現在、わが国ではおよそ316万人の患者さんが糖尿病で苦しんでいるといわれています(平成26年度厚生労働省患者調査より)。糖尿病になりかけている人(糖尿病予備群)も入れると1,000万人を超えるなど、もはや国民病ともいえる病気ですが、どんな症状が起こるのか・どんな経過をたどるのかについては、知らない方も多いかもしれません。

特に、糖尿病が胃腸の障害を引き起こすことは医療従事者以外のあいだではほとんど知られていません。ここでは、糖尿病という病気の実態についてもう一度確認したうえで、糖尿病によって引き起こされる胃腸障害について説明します。

目次

糖尿病とは?三大合併症「し・め・じ」

糖尿病は「血管の病気」です。

様々な要因によって血液中の糖分が細胞内に取り込まれなくなり、血液中の糖分量が増加(血糖値が上昇)します。血液中で増加した糖分には血管の壁を傷つける作用があるため、血糖値を高いままで放置すると次第に血管が痛んできます。

その結果、血管から酸素や栄養分の十分に行き渡らなくなり、結果的に全身の様々な部分で異常が起こり始めるのです。

糖尿病で異常が生じる代表的なものとして「神経・眼・腎臓」が挙げられます。これらの臓器に酸素や栄養を送る血管は、糖尿病によって比較的傷つけられやすいため合併症が起こりやすい臓器とされています。3つの頭文字を取り、医療従事者のあいだでは「し・め・じ」という風に覚えられています。

神経が障害されることによって手足の感覚に異常が生じたり(糖尿病性神経障害)、眼のなかの血管がダメージを受けることで視力障害が起こったり(糖尿病網膜症)、腎臓が老廃物を排泄できなくなったり(糖尿病性腎症)します。

胃腸の障害はこれらのいずれにも該当しなさそうですが、実は神経の障害が結果的に胃腸の機能を悪化させてしまうことがあるのです。

神経がダメになると何で胃腸の調子が悪くなる?

一見すると胃腸と神経の両者は全く関係がなさそうですが、実は2つの間には深い関係があるのです。というのも、胃や腸などの消化管は自律神経と呼ばれる神経によって機能がコントロールされているからです。

自律神経は、唾液の量や気管の太さ、心臓の鼓動の速さや血管の太さ、汗の量、排便や排尿など全身の様々な機能を調節する神経です。胃腸もまた、自律神経によって口から取り込んだ食物をきちんと消化できるようにコントロールされています。

しかし、糖尿病によって神経障害が進行してしまうと、自律神経も他の神経と同様にダメージを受けてしまいます。その結果、胃腸の機能を調節する自律神経も障害されてしまい、食欲不振や胃もたれ、便秘などの様々な症状が引き起こされるのです。

それほど多くみられる症状ではない一方、糖尿病の手前でこれらの症状が見られる方もいます。

一度傷つけられた神経を修復することは難しいため、これらの症状に対しては、薬による対症療法が行われます。

便通異常は「がん」の症状である可能性も

なお、便秘が気になる場合は一度、大腸がんの検査を受けることをおすすめします。

便秘の人が大腸がんになりやすいということはないと報告されていますが(国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センターより)、大腸がんの症状の一部として便秘や下痢といった便通異常がみられることがあります。

糖尿病の症状の一つだとはじめから決めつけることはせず、40歳以上の方は一度、大腸がんの検査を受けてみると良いでしょう。

まとめ

今回は胃腸の症状に焦点をあてて解説しましたが、糖尿病の合併症としての神経障害は、排尿障害(おしっこの出が悪くなったり尿漏れを起こしたりすること)や発汗障害(汗の量をコントロールできなくなること)などが引き起こされる場合もあります。糖尿病で医師の診察を受けている患者の皆さんは、これらの症状についてきちんと医師に伝えられるとよいでしょう。