眼底出血(眼の奥での出血)を引き起こす疾患の一つに網膜静脈閉塞症があります。見た目ではわかりませんが、急激に視力が落ちたり視野が欠けたりするなどの特徴があります。今回は網膜静脈閉塞症について紹介していきます。

目次

網膜とは

網膜は眼の奥(眼底)にあって光を感じる部分で、カメラのフィルムと同じ役割を果たしています。網膜の中心には黄斑と呼ばれる部分があり、色や形を認識する視細胞がたくさん集まっていて、ものを見るために非常に重要な部分です。

網膜には他の臓器と同様、心臓から酸素・栄養を送り届ける動脈(網膜動脈)と、老廃物や二酸化炭素を心臓に戻す静脈(網膜静脈)が流れていて、場所によってこの2つは交叉しています。

網膜静脈閉塞症とは

動脈硬化によって網膜動脈が圧迫されると、交叉している網膜静脈も圧迫されます。すると網膜静脈に血栓ができ、血液が流れなくなります(閉塞)。閉塞した結果、血管から血液や水分が漏れ出し、眼底出血やむくみ(網膜浮腫)が起こって視力低下など様々な症状が現れてきます。これを網膜静脈閉塞症といいます。

網膜静脈閉塞症は下記の2つに分かれます。

  • 網膜中心静脈閉塞症…網膜静脈の根本が閉塞するため、網膜内全ての網膜静脈が閉塞します。
  • 網膜静脈分枝閉塞症…網膜内にある網膜静脈の枝分かれした部分(分枝)に閉塞が起こります。

網膜静脈閉塞症によって網膜が酸素不足になると、酸素を補おうと網膜内に新しい血管(新生血管)が作られます。新生血管は非常にもろく出血をおこしやすいほか、眼圧を上げる原因にもなります。そうなると硝子体出血(眼の内部の多くを占めるゼリー状の組織にまで出血が広がること)新生血管緑内障網膜剥離を合併し、失明する危険があります。

網膜中心静脈閉塞症は網膜静脈分枝閉塞症と比べて頻度は低いですが、症状は重くなることが多いです。

網膜静脈閉塞症は50代以降に起こりやすいとされています。

原因

血管の壁が硬く、厚くなる動脈硬化は血液の流れが悪くなって血栓ができやすく、網膜静脈閉塞症の大きな原因です。動脈硬化を招く高血圧脂質異常症糖尿病といった生活習慣病も、網膜静脈閉塞症のリスクとなります。

網膜静脈閉塞症の症状

網膜静脈閉塞症の症状には次のような症状が挙げられます。これらの症状は必ず併発するわけではなく、視力低下はみられなくて視野障害だけ現れることもあります。

  • 視力低下
  • 眼のかすみ
  • 視野が欠ける
  • 黒っぽく見える
  • ものが歪んで見える
  • 無症状

どの部分で閉塞が起こったのか、どの程度の閉塞なのかによって症状の程度も異なってきます。特に黄斑に出血やむくみ(黄斑浮腫)が及ぶと、急激な視力低下を引き起こします。網膜静脈分枝閉塞症の場合は、閉塞部位によって無症状の場合も珍しくありません。

また片眼だけで発症した場合、なかなか視力低下に気づきにくいため発見が遅れる可能性もあります。

さらに、上述したように、新生血管緑内障や硝子体出血を合併した場合は、失明する恐れがあります。

網膜静脈閉塞症の治療

網膜静脈閉塞症と診断された場合、蛍光眼底造影検査(腕の静脈から造影剤を注射)や光干渉断層撮影(光を照射して網膜の腫れを検査)などを経て、閉塞の程度、現れている症状に合わせた治療が行われます。

内服

網膜の血管を広げる薬(網膜循環改善薬)を服用し、閉塞した血管に少しでも血液が流れることを目指します。網膜静脈閉塞症を完治するための治療ではありません。

網膜光凝固

レーザーで網膜を焼き付けて固め、黄斑浮腫の改善を図ります。黄斑浮腫の改善のほか、新生血管の発生を予防します。

硝子体内注射

黄斑浮腫や新生血管の治療・予防のため、硝子体内に抗VEGF薬やステロイドを注射します。

硝子体手術

網膜光凝固や硝子体内注射などの治療を行っても視力回復の効果があまり得られなかった場合に検討されます。硝子体内にある組織を取り除き、人工の液体を代わりに入れます。

再発や合併症に要注意

網膜静脈閉塞症は治療で一度改善しても、時間がたってから再発したり、合併症を発症したりすることがあるため、定期的に眼科を受診する必要があります。

また生活習慣病と関わりがあるため、食生活に気を配り、適度な運動を心掛けましょう。

まとめ

網膜静脈閉塞症は無症状のケースもあれば、急激な視力低下をもたらしたり、失明に至ったりするケースがあるなどその程度は様々です。視力低下の場合は気づきにくいこともありますが、異変を感じた場合は放置せずすぐに眼科を受診しましょう。