春や秋の検診で、血圧の上昇を指摘されてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

世界保健機関(WHO)や日本高血圧学会(高血圧治療ガイドライン2014)の基準では、『最高血圧140以上、または最低血圧90以上』の状態を高血圧と定めています。高血圧は自覚症状のないまま生活習慣病の温床になることが多いため、サイレントキラーともよばれる、あなどれない病気です。

今回は、高血圧に伴う随伴症状に焦点を当て、それらのケアと共に血圧にも有効と考えられている漢方薬についてご紹介いたします。その他の高血圧治療薬については「高血圧の薬はどういう種類があるの?」をご覧ください。

目次

漢方における高血圧治療について

漢方

通常、高血圧の治療では塩分制限などの食生活を含めた生活習慣の見直しを行いつつ、降圧薬を使用します。実は、これは西洋医学のやり方なのです。降圧薬とは、心臓や血管に直接作用して、血圧を半強制的にコントロールする薬で、効きめが早く現れるのですが、薬を飲み続けないと効果が持続しないことが特徴です。

一方、東洋医学では、高血圧はストレスや老化によって身体の陰(血液や体液)と陽(エネルギー)バランスが崩れ、心臓や血管に負担がかかり、血圧が上昇する病態とされています。そのため、まず身体全体のバランスを整えることを考えます。単に血圧を下げることを目的とするのではなく、血圧を正常に保ち、さまざまな随伴症状を抑えることを重視しているのです。そのため、効果はゆっくりですが、内服を止めても効果が持続するという特徴があります

どういう場合に適しているのか?

軽度の高血圧の方では、食事療法を含めた養生とともに漢方治療を取り入れると、降圧剤を用いずに改善されることがあります。漢方は直接血圧を下げる効果はないのですが、自律神経の機能を整えるため、結果として血圧を安定につながるとされています。また高血圧の方は、ストレスに晒されている事が多く、肩こりめまい・頭痛などをしばしば自覚されています。このような場合には降圧剤だけでは随伴症状に対して不十分な場合もあり、漢方薬が有効と考えられています。

どんな薬が良いの?

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「証」について

漢方には「証」という薬選びのものさしがあります。
患者さんそれぞれの体格、体質、病気の状態などを鑑みて「証」が割り振られ、それによって薬が処方されるのです。

「証」には体質や病気の状態に基づく「陰陽(いんよう)」、体力と抵抗力を判断する「虚実(きょじつ)」、不調の原因をみる「気(き)・血(けつ)・水(すい)」があります。

以下は薬の処方の大きな目安となる「虚実」の説明です。

実証タイプ

血行がよく、声は大きめ、筋肉質、疲れにくい、食欲旺盛なタイプの方は「実証」タイプの処方がされます。
このタイプは健康そうな気がしますが、実証に偏りすぎるのもあまりよくないそうです。

虚証タイプ

顔色が悪く、声が小さい、やせ型(もしくは水太り)、疲れやすい、寒がりで低血圧。このようなタイプの方は「虚証」にあわせた漢方が処方されます。

(※実際の診療では、実証タイプに見える方が虚証であったり、虚証に見える方が実証の症状を示すことがあり、問診・脈診・腹診・舌診を含めた総合的な診断が必要になります。)

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実証の方に処方される薬の例

大柴胡湯(だいさいことう)

本来は発病後数日経過したカゼに対する薬の一種です。体格がよく体力のある方で、上腹部が固く張り、便秘がちな方に適しています。高血圧や肥満が原因で起こる肩こり、頭痛のほか、胃炎や胆嚢炎便秘などに効果が期待できます。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

高血圧の症状に関する部分ではほてりめまい胸苦しさに効果がある漢方薬で、一般には体格・体質が頑丈な方から中程度の方で便秘がなく顔色が赤くのぼせぎみ、イライラしていて落ち着きのない傾向の方を対象に処方されます。高血圧以外に不眠症や神経症、出血、胃炎、皮膚病等にも使用されます。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

大柴胡湯よりはやや弱く体格・体質が中程度以上で、上腹部が固く張り、動悸や不安、不眠などの神経症状を伴う場合に効果があります。その他神経症、更年期神経症、子どもの夜泣き、便秘などに効果があります。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

元々は体力が中程度以上で月経不順、月経痛、腰痛、便秘の方に処方される薬です。高血圧に随伴して起こる症状ですと頭痛めまい、のぼせ、肩こりに効果的な薬です。また瘀血という状態(血の滞り)に用いられるため、虚血性心疾患を合併している場合にも使用される事があります。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

大柴胡湯と似て体力がある方の処方ですが、腹部がヘソを中心に膨満して、所謂重役の太鼓腹の様な状態で皮下脂肪が多く便秘がちの方に適している漢方薬です。肩こり、のぼせのほか、肥満症や蓄膿症、湿疹、皮膚炎、ニキビなどに効果があります。

虚証の方に処方される薬の例

釣藤散(ちょうとうさん)

高血圧がある中年以降の方で、めまい、のぼせ、頭痛を伴うものに用います。頭痛は早朝目が覚めた時に頭重感があり、起きてしばらくすると痛みが無くなる様なものが中心となります。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

泌尿生殖器や下肢を中心とした運動機能の衰えに使用されます。夜間頻尿や排尿困難、腰痛、下肢の痺れ、下半身の冷えなどの症状を伴う場合に効果的です。糖尿病や老人性湿疹に使用されることもあります。

半夏白朮天麻湯 (はんげびゃくじゅつてんまとう)

平素から胃腸が弱く血色が良くない冷え症の方で、疲れやすく食後に眠気を催し、めまいを伴う頭痛を生じる場合に使用されます。みぞおちがつかえる方や天気が悪いと頭痛を生じる方、手足の冷えがある方に効果的です。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

筋力が弱い、貧血ぎみなど、虚弱体質の方に処方されます。婦人科疾患(月経障害、不妊症、更年期障害など)があるタイプに適しています。めまい、頭重、肩こり、腰痛、動悸などの症状にも有効です。桃核承気湯と同じく瘀血に対し効果がありますので虚血性心疾患を伴う方にも効果的です。

七物降下湯(しちもつこうかとう)

昭和27年に大塚敬節が創作した処方です。虚証で疲れやすく、頭痛があり最低血圧が高い場合に効果があります。虚証でも胃腸虚弱な方は負担が強いので用いられません。

まとめ

いかがでしたか?漢方薬で高血圧のある人に使用されるものの一部についてご紹介いたしました。実際の治療では単純な虚実の判断だけでは血圧に対応することが難しい場合があり、肉体的なものだけでなく精神面の影響を加味して、上記以外の処方を加えて治療することがあります。ご紹介した一部は、薬剤師や登録販売者に相談の上購入も可能ですが、すでに何らかの治療を受けている場合には、信頼できる医師や漢方専門医に相談の上処方されるのが良いでしょう。