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あるとき突然に動悸息切れ冷や汗などが出てきて「このままでは死んじゃう」と思い、慌てて救急車を要請したけど、症状は徐々に軽くなり、病院についたころには何もなかったかのよう。身体の検査を一通り行うが「異常ないので帰ってください」と言われる。しかしまたある日、何の前触れもなく同じようになり、救急車を呼んだけど、次第に落ち着く。「念のため」と一応検査をするが「異常はない」と言われる。「あんなに死にそうなくらい辛かったのに、体に異常がないわけない」と医者に食い下がるが、やはり「異常はないです」と言われ、挙句の果てに「精神科を受診するように」と言われてしまう。これがよくあるパニック障害の始まりです。

パニック障害という病名は聞いたことのある人が多いのではないでしょうか。最近ではこの病気だったことを告白する有名人もいますし、身近な人でこの病気を抱えている方もいるかもしれません。今回はパニック障害について、症状、治療などを説明していこうと思います。

パニック障害とは

頭をおさえる女性-写真

パニックという言葉はイメージしやすいと思います。具体的に言うと動悸、発汗、震え、息苦しさ、吐き気めまい冷感、熱感、このまま気が狂うのではないか・死んでしまうのではないかといった恐怖などが突然に理由もなく現れ、10分以内をピークとして自然と和らぐものをパニック発作と言います。

パニック発作自体は単発であれば健康な人でも起こりうるものです。一方パニック障害では、パニック発作を繰り返すことに加えて、「また発作が起こるのではないか」という恐怖(予期不安)が続いてしまいます。

パニック発作を繰り返し、予期不安が1か月以上続く状態で、身体疾患、他の精神疾患、薬物乱用など症状の原因となりうるものがないものをパニック障害と言います。

更にパニック発作が、外出先、特に電車の中や人込みなどの逃げるに逃げられない、助けを得られない、また逃げると恥をかくような場所でこの発作が起こるのではないか、という恐怖(広場恐怖)に晒されることがあります。この広場恐怖の影響で外出できなくなって自宅にこもりがちになる、周囲の人との関係に軋轢が生じるなど社会生活に支障をきたすようになることもあります。

治療

精神科では主に、心理療法薬物療法いった2つを治療の柱として行います。

心理療法

パニック障害に限った話ではありませんが、病気について正しく理解することが回復への第一歩であり、肝となるものです。

パニック発作は起こっても時間がたてば必ず落ち着く、ということを知るだけでも発作時に落ち着くことができます。パニック発作が起こったとしても「時間がたてば落ち着く」ということを言い聞かせることによって、結果として不安の高まりを抑えることができます。再びパニック発作が出現したとしても「時間がたてば落ち着くから大丈夫」と考えることができれば、予期不安も改善と言えるでしょう。このように病気を理解し、「このまま死んでしまうのではないか」という誤った考えを修正していく治療法を認知療法といいます。

広場恐怖に対しては、自分にとっての苦痛の度合いに順番を付けて、実現可能なところから少しずつ挑戦していく系統的脱感作療法などの行動療法があります。一人ではショッピングモールで買い物ができない、という患者さんの治療を想定してみます。家族と近所に買い物に行く、一人で近所に買い物に行く、家族とショッピングモールで買い物をする、一人でショッピングモールまで行ってみる…など具体的な場面を挙げます。そのなかで、簡単そうなところから徐々に行っていき、成功体験を重ねることで恐怖心を和らげるという治療です。

薬物療法

一般的にはSSRIと呼ばれる抗うつ薬が用いられることが多いです。パニック発作、予期不安、広場恐怖などにも有効とされています。しかし薬の効果が見られない人の割合も一定数いることと、効果が現れるまでに月単位の時間を要するといった欠点があります。そのためベンゾジアゼピン系抗不安薬と言われる薬が併用されることが多いです。この薬は不安に対して即効性が認められ、患者さん自体が薬の効果を実感しやすい薬です。

その一方で、抗不安薬には不安を一時的に抑えてはくれますが、パニック発作を根本的に治療する薬ではありません。また、内服し続けることによって薬物依存といった新たな病気を合併する可能性があります。そのため、抗不安薬は抗うつ薬の効果が出てくる2,3か月を目安に中止するべき薬とされています。

このような治療を組み合わせることで症状の改善を目指していきます。

周囲の人の支え

周囲の支え-写真

パニック発作から救急車を呼ぶけど異常が無く帰らされることを繰り返していると、「嘘つき」というレッテルを張られることもあります。また、明らかなきっかけもなく急にパニック発作を起こすということを繰り返すため、周囲の人も理解できず、だんだんと邪険に扱われてしまいがちになります。周囲の人から理解が得られないことで更にストレスが高まり、更にパニック発作が起こりやすくなってしまいます。このような悪循環に陥らないためにも、パニック障害の治療には身近な人の理解や支えも重要です。

では、周りの人はどのような対応をとればいいのでしょうか。漫才師、中川家の中川剛さんがパニック障害になったときの話を具体例として挙げてみます。

広場恐怖が強くみられ、京都で仕事があるときに大阪から京都に行くという行為は相当つらかったようです。逃げられない恐怖から特急電車に乗れず、鈍行電車を利用していました。また、乗ったとしても耐えられず次の駅まで何とか我慢して、症状が落ち着くまでホームで休むということを繰り返すため、30分程度でいけるところを4時間近くかけて行っていたそうです。弟の礼二さんは、横でつらそうにしている兄に寄り添い、京都に向かう電車もつらくなったら一緒に降りてホームで休み、背中をさすったり、「大丈夫だ」と声をかけ続けたりしたそうです。剛さんの症状が強く出てしまい、どうしても舞台に立てないときには礼二さんが一人で出番をこなしてもいました。また、他の先輩芸人からも暖かく見守られたそうで、特に、坂田利夫からかけられた「アホな顔して笑っとったらええ」という言葉で救われた、と本人も振り返っています。

いつまた発作が起こるかわからない強い不安のなかにいる患者さんを、周囲の人は余計なプレッシャーをかけず、できる限りのサポートをするということが、患者さんの回復への足掛かりになります。必ず回復する病気ですので、大変ですが辛抱強く支えていきましょう。