山岳遭難や海難事故のニュースで低体温症という言葉を耳にすることがあります。
体温が異常以上に低下し、生命の危機に至る状態を表していますが、なぜ低体温症は起こるのでしょうか?低体温症の原因やメカニズムについて詳しく解説します。
人の身体の体温調整のメカニズム
人間は外気温に関係なく、ほぼ一定の体温を維持する機能をもつ恒温動物です。通常、人の体温は37℃程度に維持されており、脳の視床下部という部分でコントロールされています。
寒いときに体が震えたり、暑いときに汗をかいたりするのは、視床下部からの指令によって、筋肉や血管、汗腺などが反応して起こる体温調節機能の症状です。
体温が37℃というと、微熱と思われがちですが、人間の細胞が代謝を活発に行い、なおかつ細胞が破壊されないちょうどいい温度は37℃と考えられています。
しかし、脇の下や耳で行う通常の体温測定では、外気の影響を受けるため、深部の温度(37℃)より1℃前後低くなります。このため、人間の平熱は36℃前後になっています。
また、平熱は個人差もあり熱産生が活発な乳幼児は高く、熱産生が弱まった高齢者は低くなる傾向があります。
低体温症とは
低体温症とは単に平熱が低い状態(低体温)とは異なり、深部の体温が35℃以下に低下した状態を指します。
その体温の低下の度合いによって、軽度低体温(35~32℃)、中等度低体温(32~28℃)、高度低体温(28℃以下)に分類されます。
軽度低体温症(35~32℃)の症状
- 全身の震え
- 無気力、意識がはっきりしなくなる
- 呼吸が早くなる
- 手足の血管が収縮し、冷たく蒼白になる
中等度低体温(32~28℃)の症状
- 震えが止まり、筋肉が硬直し始める
- 錯乱し、服を脱ぎ棄てたり、意味不明の言葉を喋ったりする
- 呼びかけても反応しなくなる
- 呼吸が遅くなる
- 不整脈が出てくる
高度低体温(28℃以下)の症状
- 痛みを加えても反応しなくなる
- 致死性の不整脈が出てくる
- 自発呼吸がなくなる
低体温症の原因

低体温症はその原因によって大きく2つに分類されます。
一次性(偶発性低体温症)
雪山や水難などにより、低温の環境にさらされる寒冷暴露によって起こる低体温症を一次性または偶発性低体温症を言います。
二次性低体温症
脳血管障害や感染症、がん、糖尿病、低栄養などの疾患の合併症として起こる低体温症を二次性低体温症と言います。
低体温症は日常生活の中でも起こる?!
偶発性低体温症は雪山や水難などの事故や災害だけが原因ではありません。
高齢者
日本救急医学会の調査によると、偶発性低体温症の発症は圧倒的に高齢者に多く、また屋内での発症が多いことが分かっています。
高齢者は加齢により体温調節機能が低下していることに加え、何らかの基礎疾患(糖尿病や心疾患など)を抱えていることも多く、室温調節などの生活環境の調整を自分ではできにくい状態にあることが影響していると考えられます。
アルコールや薬物の影響
高齢者のみならず若年者でも、飲酒や薬物の影響が残ったまま路上や寒い室内で眠ってしまい、低体温症を発症するケースがあります。
冬場のマラソン
気温が低く風が強い中でのマラソンは、汗で濡れた衣服越しに冷たい風が当たり、身体を冷やしていきます。また、冬場でも身体からは相当量の発汗がある一方、夏場ほど意識的に水分を取らない傾向があり、脱水が起こりやすい状態にあります。
脱水が起こると血液循環が悪くなり、体温を維持することが困難になり低体温症を起こしやすくなります。
夏でも危険!ゲリラ豪雨による低体温症
思わぬ雨に遭遇し、傘などの雨具もなく、ずぶ濡れになってしまうことがあります。
野外のイベントなどで、雨に濡れたまま長時間過ごしたり、また、雨に濡れたまま冷房が効いた屋内に長時間居続けたりすると、低体温症を引き起こすことがあります。
まとめ
低体温症とは体温が35℃以下になり、神経や筋肉、心臓など全身の正常な機能が阻害される状態です。偶発性低体温症は雪山や水難などの事故や災害だけでなく、高齢者や基礎疾患のある人には日常生活の中でも発症するリスクがあり、健康な若い人であっても、思わぬ天候の変化などによって起こりうるため注意が必要です。