急性虫垂炎は、虫垂が化膿して起こる疾患で、一般的に「もうちょう(盲腸)」と呼ばれています。急なお腹の痛みで発症する急性腹症(きゅうせいふくしょう)の最も多い原因の一つとして、非常に一般的な病気です。

一昔前までは、急性虫垂炎と診断がついた場合には早期に手術(全例、お腹を開ける開腹手術)を行っていましたが、急性虫垂炎の治療は、最近少しずつ変化しています。最近では小さな穴から行う腹腔鏡手術が増えてきました。また、抗菌薬(こうきんやく)による保存的治療、すなわち”薬で散らす”という選択肢も見直されてきました。もちろん手術をしなくて済むのなら、その方がいいと考える人も多いでしょう。

実際のところ手術と抗菌薬治療ではどちらがいいのでしょうか?また、どのような場合に抗菌薬治療が可能なのでしょうか?

今回は、消化器外科医の立場から、急性虫垂炎の治療について最新の情報をまとめます。

目次

急性虫垂炎の治療法選択

急性虫垂炎はごく軽症のものから、腹膜炎を合併する重症例まで様々です。

最も軽いものはカタル性虫垂炎と呼ばれています。炎症の程度が強くなるにつれて蜂窩織炎性(ほうかしきえんせい)壊疽性(えそせい)虫垂炎となり、さらに重症の炎症のために虫垂が破裂してしまったものを穿孔性(せんこうせい)虫垂炎といいます。

穿孔性虫垂炎では、周囲に膿瘍(のうよう)という膿のたまりができたり、便汁が漏れ出すことによって重度の腹膜炎を引き起こしたりすることもあり、治療が遅れた場合には死に至ることさえあります。

急性虫垂炎に対する治療は、原則的に手術です。特に、重症例(壊疽性や穿孔性虫垂炎)では緊急手術が必要となります。しかし、炎症が軽度の場合(すなわちカタル性や蜂窩織炎性)には、抗菌薬による保存的治療も可能です。

 

保存的治療が可能かどうかは、お腹の所見(特に押さえたときの痛みなどの腹膜炎の症状)や、CTや超音波検査などの画像検査によって判断されます。一般的に、手術の適応となるのは以下のような場合です。

  • 腹膜炎を疑う症状
  • 虫垂の径(太さ)が太い場合(例えば10mm以上)
  • 糞石(ふんせき)という便の塊が虫垂につまっている場合
  • 虫垂の周囲や骨盤の中に液体が溜まっている場合

逆にこのような所見がない場合には、保存的治療が可能です。

急性虫垂炎に対する治療法

1.手術

手術室-写真

手術の基本は虫垂を根元から切除する虫垂切除術ですが、開腹手術と腹腔鏡手術の2つの方法があります。

開腹手術

従来の手術方法で、右下腹部を5cm程度切開し、お腹を開けて虫垂を切除します。多くの場合、右下腹部を斜めに小さく切開する交差切開法が行われますが、膿瘍が合併している場合などでは縦に少し大きめに切開する傍腹直筋(ぼうふくちょくきん)切開を行うこともあります。入院期間は約1週間です。

腹腔鏡手術(腹腔鏡下虫垂切除術)

比較的新しい方法で、お腹に数カ所の穴を開け、そこからカメラや手術器具を膨らませたお腹の中に挿入して手術をします。急性虫垂炎に対する腹腔鏡手術は増加しており、最近では標準術式となってきました(重症例では腹腔鏡手術が難しいこともあります)。

 

腹腔鏡による手術は、傷が小さく体への負担が少ないため、入院期間も3~5(施設によって異なります)と短くて済みます。また、通常の腹腔鏡下虫垂切除術では3か所に穴を開けるのに対し、最近では1か所の穴から手術を行う単孔式(たんこうしき)腹腔鏡手術を行う施設も増えてきました。ただし、この術式は技術的に難しいこともあり、専門医のいる限られた施設でのみ行われているのが現状です。

手術後の合併症について

急性虫垂炎の合併症として、

  • 出血
  • 創感染(傷口が感染すること)
  • 腹腔内膿瘍(お腹の中に膿が溜まること)
  • 遺残膿瘍(もともとあった膿が残ったままになること)
  • 腸閉塞(腸同士や腸とお腹の壁などがくっつき、腸の流れが悪くなること)

などがあります。

腹腔鏡手術では開腹手術と比べて合併症の発生率が少ない傾向にありますが、特殊な合併症として臓器損傷(腸などを傷つけること)の報告もあります。

2.保存的治療

点滴-写真

抗菌薬(点滴または内服薬)を数日間投与して経過を見る方法で、軽症(主にカタル性)の急性虫垂炎に対しては手術と同様の治療効果があります。治療を外来通院で行うか、入院して行うかは症状や炎症の具合、あるいは病院の方針によって異なりますが、入院する場合は1週間程度となります。

 

保存的治療によって症状がよくなれば緊急手術は避けることができますが、症状が悪化したり持続したりする場合にはやはり手術が必要となります。

また、保存的治療によって一旦症状が治まったとしても虫垂炎を再発することがあり、約20~30%の患者さんが1年以内に手術が必要となるといわれています

 

このように手術、保存的治療ともにメリット、デメリットがあり、どちらがよいかは一概には言えません。最近では、軽症の急性虫垂炎の治療方針については患者さんの意見を取り入れることも多くなっています。これらのことを理解し、医師の説明をよく聞いたうえで慎重に治療法を選択する必要があります。

まとめ

急性虫垂炎に対する治療法は、炎症の程度によって手術または抗菌薬による保存的治療が選択されます。おもに重症例に対しては手術(虫垂切除術)を行いますが、軽症の場合には保存的治療が可能です。手術には開腹手術と腹腔鏡手術があり、腹腔鏡手術は合併症の発生率が少なく入院期間も短い傾向があります。保存的治療がうまくいった場合でも約20~30%の患者さんでは再発するため、注意が必要です。